原宿駅前に建つ「@cosme TOKYO(アットコスメトーキョー)」 写真提供:アイスタイル
  • アイスタイル創業時からの悲願
  • “迷路”のような空間設計
  • 台帳を共通にする接客改革
  • “購入前”の顧客行動をデータに

東京・原宿駅の表参道口前に現れたコスメの新体験ショップ「@cosme TOKYO(アットコスメトーキョー)」。この路面店には、小売店舗の最先端技術が多く使われている。口コミサイト「@cosme(アットコスメ)」で知られるアイスタイルが注力する“購入前の行動をデータにする”全く新しい店舗戦略とは。(ダイヤモンド編集部 塙 花梨)

 原宿駅の表参道口を出ると、帯状のデジタルサイネージが埋め込まれた巨大なコスメショップが目の前に現れる。アイスタイルが運営する化粧品口コミサイト「@cosme(アットコスメ)」が手掛ける、初の路面店「@cosme TOKYO(アットコスメトーキョー)」だ。

 アパレルブランド「GAP」の旗艦店の跡地に誕生したアットコスメトーキョーは3階建てで、総売場面積は約1300平方メートル。アイスタイルはこれまで国内で24店舗、海外8店舗を運営してきた。過去最大規模となる新店舗では、ラグジュアリーブランドからプチプライスコスメまで過去最大600以上のブランドを取り扱う。月間1400万人が訪れる日本最大の化粧品口コミサイトの情報と、リアル店舗を連携させている。

 好立地の旗艦店ということもあり、初年度の売上目標は40億円と巨額だ。原宿と聞くと、若年層が多いイメージもあるが、20代から40代まで客層は幅広く、インバウンド需要も高い。

 アットコスメトーキョーの企画・運営に携わったコスメネクスト代表取締役社長の遠藤宗氏は「オープンして1カ月ほどですが、人の入りは想定以上。ちょっと混雑しすぎているので、お客さんの居心地が心配です」とうれしい悲鳴を上げている。売り上げの推移も目標通りだという。

「もちろん目標はありますが、お客様に楽しんでもらうことが一番なので、買ってもらうことよりも“入りやすさ”を意識しています。まずはあらゆるコスメと出合ってもらえる場を作ることで、ブランドとお客様がつながるハブになれたらうれしい」(遠藤氏)

アイスタイル創業時からの悲願

 アイスタイルといえば、化粧品口コミサイト「アットコスメ」の印象が強い。今やアットコスメは、日本の20~30代の過半数が利用する国内最大の口コミサイトとなっているが、元々口コミメディアを作りたかったわけではない。

 実は創業当初から、商品情報と顧客情報のデータベースを使って、リアルとデジタルをバーティカルに融合させた化粧品ビジネスをすることを目的に掲げていた。その最初の一歩として、データを集めるために始めたのが、口コミサイトのアットコスメだったのだ。

アットコスメトーキョー1階。中心には、過去に殿堂入りアイテムや直近のベストコスメアワードで受賞した商品を列挙した「ベストコスメアワードタワー」を設置 写真提供:アイスタイル

 2002年からは口コミサイトで集めたデータを活用し、消費者視点を取り入れたECサイト、2007年にリアル店舗を開始。今では、EC事業でも正規品のみを取り扱うECサイトとしては日本最大規模となった。リアル店舗は、アットコスメストア新宿店が年間15億円の売り上げで、化粧品専門店としては日本一となっている。

 今回のアットコスメトーキョーの出店は、リアルとデジタル双方でこれまで培った知見を生かし新しい体験を生み出す場となっている。アイスタイル創業からの目的達成に近づく大きな一歩だ。

“迷路”のような空間設計

 アットコスメトーキョーの1階中央には、過去に殿堂入りしたアイテムや直近のベストコスメアワードを受賞した商品を列挙した「ベストコスメアワードタワー」を設置。口コミサイト運営の実績から、消費者のリアルな意見をデータベースとして持つアットコスメにしかできない並べ方だ。

インフルエンサーが登場するライブ配信スタジオ 写真提供:アイスタイル

 さらに、ライブ配信スタジオも用意しており、今後はインフルエンサーを出演者として呼び、SNSでライブ配信を予定している。

 2階は、ビューティテックコーナーを取り入れており、パナソニックが開発したセルフ肌診断機器「ビューティーミラー」や肌状態を測定することのできるウッドランプを試すことができる。

 そして3階は、アプリユーザー限定のイベントスペースだ。商品を売るだけでなく、アットコスメのファンに情報発信する場所を用意しているのも特徴だ。

 売り場を設計する上でこだわっているのは、百貨店やデパートで見られる直線的な通路を基調にしたものとは異なる“迷路”のような空間設計だ。

ベストコスメアワードタワーの中 写真提供:アイスタイル

「13年前からリアル店舗を造ってきましたが、これまでずっと迷路のような空間設計にこだわってきました。ワンフロアで、プチプラコスメとラグジュアリーブランドが共存している店舗はアットコスメだけ」と遠藤氏は主張する。

「そのため、一見迷路な入り組んだフロアにすることで、思わぬコスメと出合うイメージを意識しています。次々進みたくなる導線になっているはずなので、お客様には一通り回ってみてほしい」(遠藤氏)

台帳を共通にする接客改革

 さらに、「共通カウンセリング台帳」を活用した接客改革も行っている。これまで、各ブランドの店舗ごとにしかなかった顧客へのカウンセリングを記録した台帳を、横断的に見られるシステムにしているのだ。

 多くの化粧品ブランドでは、顧客の購入履歴やカウンセリングデータをまとめた台帳を店舗ごとに管理している。そのため、同じブランドの商品を購入するにしても、初めて行く店舗ではこれらのデータを確認できず、あらためてカウンセリングを受ける必要があった。だが、アットコスメでは、今後リアル店舗各店とECサイトで、取り扱うブランドを横断した1つの台帳で購入履歴の管理ができるようになる。系列店であれば、カウンセリングデータを基にした接客を受けることができるのだ。

共通カウンセリング台帳を使用した接客の様子 写真提供:アイスタイル

「各ブランド、各店舗で台帳が分かれているのはナンセンスです。(店舗で)人が接客する意味は、その人に合ったカウンセリングが受けられることにあると思うので、ブランドや店舗が違っても、同じデータを見られるようにしました」(遠藤氏)

 アットコスメがやりたいことを詰め込んだテーマパークのような店舗だが、遠藤氏は「やりたいことのうち2%ほどしか実現できていない」と語る。

「お客様とブランドがつながり楽しんでもらえることを構想すると、きりがありません。店舗というのは、開業当初が一番レベルとしては低い。これから、お客様の声も存分に取り入れ、どんどん進化していきます」(遠藤氏)

“購入前”の顧客行動をデータに

 進化の第一歩として今注力しているのは、“購入前”の顧客の行動をデータ化することだ。化粧品のリアル店舗の場合、買い上げ率はせいぜい3割ほどで、店舗を訪れる顧客の7割は購入せずに店を出ていく。

「店には訪れたけれど購入しなかった7割のお客様が、何を試して何を比較したかが把握できれば、これはブランドにとってもお客様にとっても価値のある情報になるのではないか」と遠藤氏は主張する。

 アットコスメトーキョーには売ることが目的でないブースが用意されている。例えば、テスターブース。高級ブランドからプチプライスコスメまで、あらゆるテスターが並び、どの顧客が何をテスティングしたかのデータを集めようとしている。

触って試せるテスターブース 写真提供:アイスタイル

「触る」「試す」という行動が起こるのは、その商品に興味があるということだ。今後は、試した商品をあとでEC購入したり、どの商品を試したかの履歴をいつでも見られるようにしたりと、テクノロジーを駆使してさらに顧客が商品を選びやすい仕組みづくりをしていく予定だ。

 元々は、口コミサイトとして始まったアットコスメ。テクノロジーを使うことは、「手段でしかない」と遠藤氏は言う。

「ウェブを入り口に(コスメを)購入するケースは増えているけれども、実質的なEC化率は5%ほど。売り上げベースで見たら、リアルが3倍ほど高いんですよ。化粧品は、必需品かつ嗜好品という面白いプロダクトなので、楽しさや体験価値を生み出せるリアルが効果抜群なんです。そのために私たちが、代替ではなくお客様の『相談したい』『試したい』というニーズに集中するための助けとして、テクノロジーを利用していきたいと思います」(遠藤氏)