「持たざる国」と化し、待ったなしの状況に追い込まれた日本のビジネス。袋小路の状況を脱するために、スタートアップが果たすべき役割とは──。

インターネット業界の第一線の経営者やキーパーソンが集結するカンファレンス「B Dash Camp 2021 Fall in Fukuoka」が2021年10月20日〜22日に福岡で開催された。

2011年の初開催から今年で10年目を迎えたB Dash Camp。今回は国内の起業家を中心に約700人が参加し、多彩なセッションでリアルタイムのビジネスシーンを学ぶことができるほか、参加者同士が人脈を広げる出会いの場となり、新たなビジネスの機会を創出している。

今回のテーマは「日本、待ったなし!」。withコロナ時代の日本はどう進むべきか、これからを勝ち抜くために必要なアップデートは何かを明らかにすることを目標とし、セッションやスタートアップが競うピッチコンテスト、ネットワーキングなどが開催された。2日間にわたって繰り広げられた白熱の議論をレポートする。

日本企業がアメリカや中国に負けない「持たざる者」の戦い方は

オープニングセッションは、「ネット企業の成長はどこへ向かうのか」。登壇者はCAMPFIRE代表取締役社長の家入一真氏、gumiファウンダー・Thirdverse 代表取締役CEO /ファウンダーの國光宏尚氏、スペースデータ・レット代表取締役社長の佐藤航陽氏、マネーフォワードの代表取締役社長の辻庸介氏。モデレーターは本カンファレンスの主催者、B Dash Venturesの渡辺洋行氏が務めた。

(左より)B Dash Venturesの渡辺洋行氏、CAMPFIRE代表取締役社長の家入一真氏、gumiファウンダー・Thirdverse 代表取締役CEO /ファウンダーの國光宏尚氏、スペースデータ・レット代表取締役社長の佐藤航陽氏、マネーフォワードの代表取締役社長の辻庸介氏

渡辺氏は冒頭、閉塞感や不安感が渦巻くいま、どんな取り組みをしていけばいいのかと問いかけた。

辻氏は、日本が圧倒的に遅れ、スタートアップの規模もアメリカや中国に遠く及んでいない状況について「世界との戦い方が変わってきた」と指摘する。

佐藤氏は「アメリカや中国に対し資金調達・人・技術などでゲリラ的に戦う“持たざるも者”の戦い方を日本は考えるべきだ」と述べたのに対し、辻氏は、「日本は負けていない、マーケットの違いだけだ」と応えた。こうした議論を踏まえ、家入氏は「失敗した時の受け皿を民間から作ること」の意義を語った。

ここで渡辺氏は「日本企業として持たざる者としての共通認識があり、我々はどう戦うのか。大きく成長していく中で重要なのはお金の問題、資金調達についてどう考えるか、もしお金があったとして運用できる組織が作り上げられているのか」と問いかけた。

國光氏は、「日本のマーケットは国内のエンジニアが少ないから不利だが、リモートベースなら日本人のみで組織を作る必要はないので世界でも戦える」と指摘。佐藤氏も「リモートの定着で物理的制約、コミュニケーションなどの制約はなくなってきている」と同意した。

トークセッションの終盤にさしかかり、渡辺氏は、これからの起業家のあり方を登壇者に問いかけ、國光氏、佐藤氏、辻氏がそれぞれ見解を述べた。

「起業家はいかにレバレッジさせていくかが重要。シリコンバレーとは戦う土壌が違うだけ。リモート時代の分散型の戦いをすれば絶対に勝てる」(國光氏)、「宇宙産業、仮想現実、SDGs、この3つに関しては、自分はちょっとおかしいのかな、という人はとことん突っ込むべき。逆に、勤め人として優秀かつ成果を残せた人は、DXの方向に向かうべき。その人の個性でこの10年間を変えていくのがいい」(佐藤氏)、「僕はベンチャー、スタートアップコミュニティを拡大したい。実装を何とかしていく役割分担を実感した。社会をフォワードする速度をみんなで上げていきたい」(辻氏)

白熱した空気の中、大いに議論が盛り上がり、予定時間を延長してのセッションは終了した。

初日はこの他に、「100人から1000人への経営〜成長企業の組織づくりを学ぶ」、「勝ち残るB2B SaaS企業の流儀〜成長に伴う困難の乗り越え方」「ポストコロナの組織マネジメント」など実践的なテーマのセッションが続いた。また、ゲストの起業家に思わず親しみが湧いてくるような、人生相談スタイルのトークショー「The 勝手にしやがれ」も行われた。

Pitch Arena 優勝は不動産所有者と軽作業者をマッチングするRsmile

2日目は、DIAMOND SIGNAL編集長の岩本有平をモデレーターに、元HKT48でモテクリエイターのゆうこす氏や、4代目バチェラーとなったミラーフィット代表取締役の黄皓氏、動画プロデュース、ワンメディア代表取締役の明石ガクト氏が登壇。「クリエイターエコノミーの拡大〜個の力がビジネスモデルを変容させる」というテーマを、軽快なトークで繰り広げていくセッションも行われた。

セッションと並行して別会場ではスタートアップによるピッチコンテスト「Pitch Arena」が行われた。100社以上の応募から18社に絞り込んで予選を争い、6社がファイナルラウンドに進出。

宿泊施設、運送業や介護のDXなどのファイナリストとの競合を勝ち抜き、栄冠をつかんだのは不動産管理のシェアリングプラットフォームの開発運営、マンション・アパートの共用部清掃と近所で働きたい方をマッチングするアプリ「COSOJI(こそーじ)」を運営するRsmileだった。

「Pitch Arena」で優勝したRsmile代表の富治林氏

代表の富治林氏は「私たちは日があたりにくい不動産管理業界にて事業をおこなっておりますが、その業界を知っていただく機会となり嬉しいです。COSOJIの特徴は、人材のマッチングと、管理業務の生産性を上げるシステム提供の2つを合わせた垂直統合型のサービスです。今回の優勝を機にさらに不動産管理業界からよりよい世界を実現していきます」と述べた。

セッションの合間には「ネットワーキングランチ・ディナー」があり、参加者が一同に会し福岡名物の食事などを楽しんだほか、「ゲストコネクター」が会いたい人を引き合わせるというサポートも。また、会場内には11の会社と自治体のスポンサーブースも設置され、セッションの合間の休憩時間もにぎやかな雰囲気となっていた。

東京の緊急事態宣言解除直後というタイミングにも恵まれ、会場には多くの経営者や幹部、マスコミなどが集結。会場では、ソーシャルディスタンスの確保や入場ごとに検温するなど感染防止対策も徹底した。登壇者同士の間にもクリアパネルを立て、安全面に最大限配慮した形で、リアルで学びとネットワーキングの場を作り上げていた。

福岡市とB Dash Campのコラボ

今回の「B Dash Camp」ではスペシャルパートナーに「STARTUP CITY FUKUOKA」として福岡市が参加。独自のスタートアップエコシステムを構築中の福岡市の担当者は、B Dash Campの開催について「緊急事態宣言の解除以降では、このB Dash Campがリアル開催かつ、全国規模のスタートアップイベントとしては国内初。ここ福岡から、日本のスタートアップムーブメント「再始動の狼煙」が高らかに上がった、そんな2日間になったと確信しております」と語っている。

その福岡市と共催したセッションが2日目に開催された「B Dash Camp×FUKUOKA CITY COLLABORATION PITCH」。福岡発のスタートアップ5社が登場し、コンテンツマネジメントの一元管理システムや世界中の人をクリエイターにするプログラミングアプリなどを、5分間のピッチで紹介した。審査の結果、病理医不足の解消や診断結果の迅速化などが評価され、デジタル病理を支援するAIクラウドシステム「PidPort」を運営するメドメインが優勝を掴み取った。

「B Dash Camp×FUKUOKA CITY COLLABORATION PITCH」で優勝したメドメインCEOの飯塚統氏

イベント会場では、福岡市のスタートアップ支援ネットワークとして繋がっている11カ国・地域、15拠点を動画にて紹介。エストニア、シンガポール、イスラエル、ヘルシンキなど、“福岡発世界へ”、の可能性を感じさせる時間となった。

福岡市とB Dash Venturesのコラボは今回のB Dash Campだけではない。福岡市は、11か国・地域、15拠点に及ぶ海外連携拠点とのスタートアップ支援ネットワークを活用した国際的なビジネスマッチングイベントを実施しており、その一環として、スタートアップ都市・福岡を世界に発信すべく、オンラインイベント「ASCENSION 2021」を開催している。

第1回はB Dash Campの翌日に、アメリカ・サンフランシスコのユニコーン企業、Notion Labs Inc.のCOO、アクシェイ・コターリ氏をゲストに迎え、サンフランシスコと福岡からみたコロナ禍のスタートアップエコシステムについて高島宗一郎福岡市長と対談。次回は12月10日(金)に、「コロナ禍におけるチャレンジャーのマインドセット」をテーマにクリエイティブディレクター・小橋賢児氏と高島市長の対談をオンラインイベントとして配信する。

B Dash Venturesは、今後も福岡市と共に、日本のスタートアップを支援していく活動を進めていきたいと語る。

「新たな戦い方や分野を見つけることが急務であると改めて認識」

業界全体が発展を遂げるためには、良き起業家、投資家、そして支援者が集まるエコシステムが必要であるとし、B Dash Campを実施してきたB Dash Venturesの渡辺洋行氏は、2年ぶりのリアルイベント開催に関し「コロナで人と接する機会が減った今だからこそ、リアルで顔を合わせないと進まないこともあります。実際に会うことにより新しいものが生まれてくる。B Dash Campが、新たなビジネスのきっかけになり、エコシステムの発展に繋がればと思います」と語った。

渡辺氏は今回のB Dash Campについて、「様々な議論によって、withコロナ時代の日本はどう進むべきか、これからを勝ち抜くために必要なアップデートは何かを明らかにすることを目標としましたが、個人的には既に『持たざる国』になりつつある日本の企業、投資家として、新たな戦い方や分野を見つけることが急務であると改めて認識しました」と総括した。

また、今後のB Dash Campについて、「withコロナのみならず、グローバル競争が進むビジネスの世界で日本のスタートアップがどのように戦うべきかを大きなテーマにしたい」と抱負を語った。

次回は2022年6月1日〜3日に札幌で開催予定。濃厚な時間を過ごした参加者たちが、日本待ったなし! の状況をいかに変えていくのか、そして新たに何を生み出すのか。

B Dash Campのリアルなネットワーキングから生まれるスタートアップの「熱」は、これからも高まっていきそうだ。

問い合わせ先
B Dash Ventures
http://www.bdashventures.com

福岡市のオンラインイベント「ASCENSION 2021」
https://www.ascension-2021.com