(左)メルロジ代表取締役 COOの進藤智之氏、(右)メルロジ代表取締役CEOの野辺 一也氏
(左)メルロジ代表取締役 COOの進藤智之氏、(右)メルロジ代表取締役CEOの野辺 一也氏
  • 複雑化した配送メニュー、配送会社とユーザーの負担を軽減
  • ユーザー2000万人のデータを活用、効率的な集荷物流網を構築
  • 競合意識はない。配送会社とも協業
  • すべてのサービスの裏で支えているような存在に

メルカリが持つデータとテクノロジーを活用し、効率的な集荷物流網を構築する──そんなコンセプトのもと、メルカリは10月28日に物流サービスの企画・開発・運営を手がける100%子会社・メルロジを設立した。

メルカリが物流に関する取り組みを行うのは、これが初めてではない。過去にはフリマアプリ内で取引された荷物の発送・集荷の効率化に取り組んでいる。メルペイの全国約234万の加盟店のうち1000カ所で対面の接客なしで発送できる「メルカリポスト」、日本郵便と連携して郵便ポストから発送できる「ゆうパケットポスト」などのサービスを開発してきた。

そのメルカリが、あえて自前で物流サービスの開発を手がける子会社を設立した意図とは。そして、メルロジはなぜ「集荷における物流網の効率的な構築」と「自社タッチポイントの拡大」を目指すのか。

メルロジ代表取締役 CEOの野辺一也氏と代表取締役 COOの進藤智之氏に、記者会見では語られなかった会社設立の背景、今後の展開などについて聞いた。

複雑化した配送メニュー、配送会社とユーザーの負担を軽減

──メルロジ設立の経緯から詳しく教えてください。具体的に設立の構想はいつからあったのでしょうか。

野辺:たしか、2018年頃だったと思います。当時、メルカリでの取引量が増え、(荷物を発送する場所の中心となっていた)コンビニエンスストア業界内でも「このままメルカリの発送をすべて受け続けて、大丈夫なのか?」と議論がされるようになっていました。

さらに、(メルカリの)アプリ内においても配送メニューが複雑化しており、ユーザーにとって“わかりやすい”ものとは言えなくなってきていました。

そうした状況を踏まえ、(メルカリ代表取締役CEOの)山田進太郎をはじめとした経営陣とともに、「ユーザー体験の向上」と「パートナーへの負担軽減」の2軸で考えたときに、「社会的責任を意識して、もっと物流にも投資していくべき」とディスカッションをしたことが起点になっています。

実際にユーザー調査をしてみると、「カウンターで発送だけのために列に並ぶのが面倒」という意見が多かったんです。そこで荷物の発送における体験向上へのニーズが高いことを感じました。そこから取り次ぎの負担自体を減らすために試験的に始まったのが、メルカリポストです。

メルペイの全国約234万の加盟店のうち1000ヶ所で対面の接客なしで発送できる「メルカリポスト」
メルペイの全国約234万の加盟店のうち1000ヶ所で対面の接客なしで発送できる「メルカリポスト」

そこから、さらに集荷メニューを広げていくと中型・大型の荷物の取り扱いや梱包作業の手間といったニーズがどんどん生まれていき、オフラインのタッチポイントの重要性を実感しました。そこで立ち上げたのが、メルカリを体験しながら学べる旗艦店「メルカリステーション」(東京・新宿、武蔵小杉のほか、期間限定で全国各地のマルイなどで展開するメルカリの実店舗)です。

メルカリステーションによって、オフラインのタッチポイントの投資対効果が見えてきたところで、そこから先の集荷も含めたネットワークの構築と集荷の過程で付加価値を提供していく余地の大きさを感じました。そこから、メルロジ設立の検討が始まりました。

進藤を含め、ロジスティクスのバックグラウンドを持つメンバーに入ってもらい、仮説検証を実施。ようやく事業化の判断ができたため、今回の発表となりました。

──ユーザー体験向上とロジスティクスパートナーの負担軽減のために選択肢を増やしたものの、わかりづらくなってしまった部分もあった。そこをメルロジによって単純化しよう、と。

野辺:メニューの拡大と使いやすさを両立する。そのための意思決定ですね。2021年11月時点では、コンビニエンスストア各社ごとにアプリ内での遷移、サービス名や金額などに差があり、非常に配送メニューが複雑化していました。それらを一本化するために、メルカリが物流領域に参入する必要がある、と決断したんです。

ユーザー2000万人のデータを活用、効率的な集荷物流網を構築

──今回は集荷の部分にフォーカスされていますが、メルロジ独自の強みは何でしょうか。

進藤:先日の会見でもお話ししましたが、強みは「データを駆使したエリア展開」「自社タッチポイントの活用」「集荷過程での付加価値提供」の3つです。

その中でも最大の強みは、メルカリユーザー2000万人のトランザクションデータを保有している点です。膨大なデータから導き出されるユーザーのニーズを、物流サービスへとフィードバックしていける。ユーザーの声をもとに協業するロジスティクスパートナー企業にとっても理想のネットワーク構築に向けて改善していける点は、他にはない強みだと思います。

──データをもとに物流サービスを改善した具体的な事例はありますか。

進藤:まだ実例はありませんので、仮説検証段階の話をさせてください。

例えば、通常のECサービスの場合、出荷時間のトランザクションを見ると夕方から夜にかけて上がっていく傾向があります。しかし、メルカリの場合は自分で梱包して出勤前に出荷する方が多いのか、朝から昼の時間帯に寄っている傾向がありました。

メルカリの場合、本来は午前中に集荷をすれば効率的です。ただ、一般的な配送会社のオペレーションと組んだ場合、(集荷量の母数が多い)他のECサービスと同様に夕方集荷するネットワークに乗ってしまう可能性があるわけです。

そこを私たちが自前で集荷物流網を構築し、テコ入れしていけば、配送会社が業務を平準化するきっかけになるかもしれない。また、ユーザーにとってもより早くお届けすることが可能になるかもしれない。このような仮説を構築できること自体、私たちがトランザクションのデータを扱える大きなメリットだと思います。

いずれは、集荷状況をリアルタイムで把握し、車の積載量に合わせて回っていく順番を構築できれば、また新しい独自のネットワークがつくれると思っています。

競合意識はない。配送会社とも協業

──物流サービスを手がける会社を立ち上げるとなった場合、「既存のロジスティクスパートナーとのコンフリクトは大丈夫なのか」という疑問も生まれると思います。

野辺:集荷における最大の課題は、ユーザーも配送会社もコンビニエンスストアに依存しきっている点にあります。例えば、私たちが「こういうサービスをつくりたい」となったときに、「ロジスティクスパートナーの合意は得られたのに、(業務負荷が増すため)コンビニエンスストアに断られた」ということが起こり得るわけです。

しかし、メルロジが自社で集荷のタッチポイントをつくることができれば、サービス設計の自由度が上がる。私たちとロジスティクスパートナーの間で、「このサービスいいですね」という合意さえ取れれば実装できる。実際に、前向きな話の方が多いですよ。私たちがきちんと投資を行い、物流の効率性・安全性を担保していきたいと思います。

その一方で、全国に荷物を届けるためには、これまでにロジスティクスパートナーが構築してきた配送ネットワークやサービスと融合していくことは不可欠。だからこそ、私たちは集荷に限定した状態で事業参入しているわけです。

──ちなみに競合環境についてはどのように考えていますか。

野辺:競合意識みたいなものは、正直ないですね。また集荷に特化してサービスを提供している会社はないと思っています。競合意識というよりも、もっと広い視野でメルカリを通じてモノが循環される世の中をつくるための投資をしていきたいと思っています。

進藤:どこかの企業をウォッチするというよりも、ユーザーの声に耳を傾けることの方が大切だと考えています。

すべてのサービスの裏で支えているような存在に

──「集荷過程での付加価値提供」の部分についても教えてください。現在、梱包レス発送の実証実験中だと思うのですが、手応えは感じていますか。

進藤:大きく2つの評価を得ている感覚はあります。1つ目は、「梱包の手間が省けることで出品の負担が減った」という評価。もう1つは、「ゴルフクラブやギターのようにユーザー自身では梱包しづらかったり、簡易梱包していくと配送会社から断られたりするようなものを出品できるようになった」という評価です。

価格面の精査や梱包レス発送サービスを展開していくタッチポイントの検討など課題は多くありますが、ユーザーの声をベースに改善などを続け、大きくスケールさせていきたいと思います。

──価格はどれくらいを想定しているのでしょうか。

進藤:まだ最終的な価格は決定していません。実証実験をもとに決めていきたいと思っています。ただ、「高い金額を払えばやってもらえるだろう」という世界になってしまうのは、本意ではありません。オペレーションの負荷と価格のバランスをしっかりと取って、ユーザーに選ばれるサービスとして提供していきたいと思っています。

──発送前商品のリペアやクリーニングについてはどのように展開していく予定ですか。

野辺:私たちにリペアやクリーニングのノウハウがあるわけではないので、基本的にはパートナーと連携していくことになります。

ただ、先日の会見でもご説明しましたが、メルカリと修理ショップ「ミスターミニット」がコラボした「メルカリ リペア」に関しては、キャパシティ的にも、タッチポイント機能としても提供余地があるとのことで、相性の良さを感じています。

──この事業を通じて、メルロジはどのような存在になっていきたいと考えていますか。

野辺:まずは、メルカリのユーザーにとってありとあらゆるものが簡単にやり取りできるサービスを提供していくこと。次に、ユーザー間の取引を成立させていくうえで、一人ひとりの事業者にとって負担の少ないネットワークを構築していくこと。そして、捨てるものがなくなる世の中をつくることで、地球環境にも寄与していきたいと考えています。縁の下の力持ち的に、すべてのサービスの裏で支えているような存在になりたいですね。

進藤:ロジスティクスというビジネスモデルは、直接ユーザーと接点を持つ事業ではないので、インフラとして社会や生活を下支えしたいと思っています。そのためにも、ただ単にものを運ぶだけではなく、テクノロジーを活用しながら、物流に関わるすべての人にとってやさしい存在になりたいですね。「2024年までにメルカリポストを8000カ所設置する」という目標を掲げていますが、これも通過点だと思っています。