
- 株主コミュニティを活用、オンラインで未上場株の売り買いを可能に
- 未上場株の流動性を高めてリスクマネーの循環を後押しへ
- ゆくゆくは私募での大型調達の実現も視野に
メルカリに近い感覚で、個人間で「未上場のベンチャー企業の株式」をネット上にて売り買いできる──。日本でもそのような世界観がこれから実現していくかもしれない。
株式投資型クラウドファンディングサービス「FUNDINNO(ファンディーノ)」を展開する日本クラウドキャピタルは、12月8日に新サービス「FUNDINNO MARKET」を公開した。
同サービスを端的に説明すると“未上場株のセカンダリーマーケット”だ。冒頭で触れた通り、個人投資家同士がオンライン上で未上場株を売買できる。
サービスの運営にあたっては日本証券業協会が提供する「株主コミュニティ」という制度を活用した。
この制度を用いた未上場株の取引は以前から存在していたものの、オンライン上で取引が完結する仕組み自体は日本で初めての試みになるという。ローンチに先立ち、日本クラウドキャピタルでは10月22日に第一種金融商品取引業への変更登録も済ませた。
まずは過去にFUNDINNOで資金調達をしたベンチャー企業4社の株式からスタートし、少しずつ対象を拡大する予定。FUNDINNO MARKETを通じて未上場株の流動性を高めていくことで、リスクマネーの循環を促進し、未上場企業への投資を加速させることを目指す。
株主コミュニティを活用、オンラインで未上場株の売り買いを可能に

FUNDINNO MARKETでは企業(銘柄)ごとに形成される株主コミュニティに投資家が参加し、それぞれの株式の取引を行う。
企業と投資家はそれぞれ審査があるため、株式を売買したいと思った企業が審査を通過していなければ取引はできない。また複数企業の株式を取引したい場合にはそれぞれのコミュニティへ参加する必要がある。たとえば10社の株式を売買したければ、10個のコミュニティに参加するといった具合だ。
取引の流れや仕組みも上場株のマーケットとは異なる。FUNDINNO MARKETでの株の売買は、売りたい人と買いたい人を1対1でマッチングする相対取引形式。1カ月のうちに1週間ほど設けられているマッチング期間に取引が確定する。注文は指値で、早いものが優先される仕組みだ。
そのため上場株のように取引が即時にどんどん進むわけではない。このようなマッチングの形態をとっていることもあって、日本クラウドキャピタル代表取締役CEOの柴原祐喜氏は「イメージとしてはベンチャー株のメルカリのようなサービス」だと説明する。
また銘柄ごとの注文状況を把握するための“板”が存在せず、投資家はその都度状況を自ら問い合わせる必要がある点なども上場株との違いだ。

FUNDINNO MARKETの利用料金はローンチ時点では無料となっているが、ユーザーの利用状況なども踏まえながら中長期的には取引の手数料や参加料といったかたちでマネタイズを検討していくという。
未上場株の流動性を高めてリスクマネーの循環を後押しへ
以前から柴原氏は3つの課題を解決することによって、日本のスタートアップを支援していきたいと話していた。
1つめの課題は「リスクマネーの供給量が少ない」こと。アメリカや中国などに比べても、日本ではスタートアップに流れるリスクマネーの量がまだまだ少ない。そこで2017年にFUNDINNOを立ち上げ、家計から未上場企業に直接資金が流れる仕組みを開発。特に資金ニーズが旺盛なシード・アーリー期の企業の成長を後押ししてきた。
2つめの課題は「未上場株に関する情報の非対称性が大きい」こと。これに関しても2019年にローンチしたクラウド経営管理サービス「FUNDOOR」を通じて、スタートアップの事業計画の作成や予実管理とともに、株主とのコミュニケーションもサポートしている。
そして3つめが、今回FUNDINNO MARKETによって解決しようとしている「未上場株の流動性が乏しい」という課題だ。
投資した資金が何らかのかたちで投資家のもとへ返ってくる仕組みがなければ、リスクマネーは循環していかない。そのためには「エグジットの手段をいかに作っていくかがポイント」であり、「エグジットの手段が多様化することで投資家のさまざまな換金ニーズに応えられる」と柴原氏は話す。
IPOやM&Aに比べるとセカンダリーマーケットにおけるリターンの期待値は小さくなるが、保有期間を短縮し、換金までの時間を早められるというメリットがある。
「(事業を通じて)何かを成し遂げたいと思った時、お金がないと事業はなかなか進みません。そこで重要になるのが投資家の協力です。その点はFUNDINNOで少しずつ実現できつつあるという思いがある反面、エクイティファイナンスの世界は一般的に換金までに長い時間を要することを課題に感じていました」
「FUNDINNO MARKETによって一部ではあるものの流動化を実現することで、リスクマネーの循環を後押しできると考えています。循環が生まれれば、再投資という概念も生まれる。これによってリスクマネーの供給をさらに高めていきます」(柴原氏)

ゆくゆくは私募での大型調達の実現も視野に
この新たなエグジット手段が浸透すれば、投資対象となる企業の幅も広がる可能性がある。
必ずしもIPOやM&Aを目指していないような企業や、IPOまでの時間軸が長くて資金調達に苦戦していた企業でも「エクイティ」という調達手段を選択できるようになるかもしれない。
今回のタイミングではセカンダリーマーケットの機能のみになっているが、将来的には企業がFUNDINNO MARKETを介して「私募による大型調達」を実施することも可能になる見込み。FUNDINNO MARKET自体も、ゆくゆくはこの2つの側面をもつサービスとして打ち出していきたいという。
「融資などで資金を集めながら経営をしてきた中小企業などにも、FUNDINNO MARKETを活用してもらえるようにしたいと考えています。自社のファンに『ファン投資家』になってもらい、その資金や支援を基に事業を成長させていく。投資家に対しては配当や株主優待など、インカムゲインに近いかたちでリターンを渡していくこともできます」(日本クラウドキャピタル執行役員の向井純太郎氏)

たとえば米国ではナスダックが2015年に買収したSecondMarketを始め、近年もEquityZenやCarta(CartaX)など複数のプレーヤーが未上場株の取引サービスを手がけてきた。株式投資型クラウドファンディングを取り巻く状況なども含めて「日本は3周遅れ、4周遅れと言われることも多い」からこそ、「少しでも早く開拓していきたい」と柴原氏。
まずはFUNDINNOの時と同様に実績を積み重ねていきながら、市場を活性化させていきたいという。