
- 2022年中に26作品をリリース
- 小学館の役割は「ジャンルの幅を広げる」こと
- 2022年以降は“国産ウェブトゥーン”の展開が本格化か
縦スクロール、フルカラーでスマートフォンに特化。韓国発の“漫画の新しいかたち“とも言えるウェブトゥーン。現状、「ピッコマ」や「LINEマンガ」といった漫画アプリに掲載されるウェブトゥーンのほとんどは、韓国で制作された作品だ。だが2022年以降は、“国産ウェブトゥーン”の展開が本格化しそうだ。
日本では2021年、ソラジマやLOCKER ROOM、taskeyといったスタートアップなどが、ウェブトゥーンに特化した制作スタジオを設立。国内にはウェブトゥーンの制作経験者がほぼいないため、人材獲得や育成に力を入れてきた。
だが12月に入ってからは、DMM.comがウェブトゥーン市場への参入を発表。またソラジマは、小学館や集英社からの資金調達を明らかにした(金額は非公開)。同社はこれまでもオリジナル作品を展開してきたが、今後は出版社とも協業し、ウェブトゥーン制作に取りかかる。
今後の展開について、ソラジマ代表取締役社長の萩原鼓十郎氏、そして小学館・第一コミック局プロデューサーの井上拓生氏に話を聞いた。
2022年中に26作品をリリース
ソラジマは2019年2月設立のスタートアップだ。設立当初より出版社のIP(著作物)を活用したYouTubeアニメを作成し、2021年8月に新事業としてウェブトゥーン制作を開始した。今では『婚約を破棄された悪役令嬢は荒野に生きる。』、『高貴な聖女が現れたので、孤児あがりの聖女はいらなくなりました?』、『シンデレラ・コンプレックス』という3つのウェブトゥーン作品を配信している。
ソラジマでは2022年以降、調達した資金をもとに、ウェブトゥーンの量産化に挑む。来年中には新たに26作品のリリースを予定しているという。
「基本的にはすでにヒット作品が出てきているジャンルのウェブトゥーンを制作していきます。男性向けの異世界ファンタジー、女性向けの異世界ファンタジー、そして現代を舞台にした、不倫・離婚といったテーマの作品です」
「ですが、それだけでは異例の大ヒットを記録するような新たなジャンルを開拓することはできません。そのため、制作するウェブトゥーンの8割は既存のヒットジャンルの作品。そして残りの2割では型破りなジャンルに挑戦したいと考えています。例えばアメリカン・コミックスのような作品は作れそうだと思いますし、映画でいう“ジャパニーズホラー”もヒントになり得るのではないでしょうか」(萩原氏)
また来年は「作品を海外にも展開していく年にしたい」とも萩原氏は言う。
「2022年の後半からは、海外プラットフォームでの連載という動きも必要になってくると思っています。国内市場の先行きはまだ不透明ですが、海外ではすでに市場が確立しているからです。韓国、中国や北米といった市場を狙っていきます」(萩原氏)
小学館の役割は「ジャンルの幅を広げる」こと
小学館では12月3日、玩具メーカーのバンダイと共同展開するウェブトゥーンコンテストの「TOON GATE(トゥーンゲイト)」を開始した。TOON GATEではキャラクターやアイデアを一般募集。応募締め切りは1月31日で、小学館は採用されたキャラクターやアイデアをもとに、ウェブトゥーンを制作する。井上氏はTOON GATEの担当者の一人だ。
ウェブトゥーンの魅力について、井上氏は「スマートフォンに特化した、圧倒的な読みやすさにあります」と説明する。
「横読みの漫画を読むには、実はそれなりのリテラシーが必要です。『漫画の読み方が分からない』という子供もいます。『変形コマ』が使われていたり、ネームが複雑に入り組んでいたりすると、大人でも『どういう順番で読めば良いのだろう』と思うこともあるでしょう。一方、ウェブトゥーンであれば迷いはありません。だからこそ、漫画を読み慣れていない海外の人たちにも読まれているのではないでしょうか」(井上氏)
だが現状、ウェブトーンは“悪役令嬢モノ”や“異世界モノ”といった特定のジャンルのコンテンツばかりが展開されている。そのため、「ジャンルの幅を広げることが小学館の役割なのではないか」と井上氏は説明する。
「日本の横読み漫画には、恋愛、アクション、ラブコメ、スポーツなど、非常に多様なジャンルがあります。一方、ウェブトゥーンはまだレンジが狭い気がしています。子供向け作品など、ウェブトゥーンはまだまだ可能性のあるフォーマットだと思っています」(井上氏)
井上氏は小学館の今後のウェブトゥーン展開については明言しなかった。だが、TOON GATEと並行するかたちで、2022年中のリリースを視野にウェブトゥーンの企画・制作を進めていくという。
2022年以降は“国産ウェブトゥーン”の展開が本格化か
前述のとおり12月3日にはDMM.comがウェブトゥーン市場への参入を表明した。今後はウェブトゥーンの制作スタジオや配信プラットフォームを構築。2022年中にはオリジナルコンテンツを含む、国内外のウェブトゥーンの配信を開始する予定だという。
プラットフォーム構築を目指しているのはDMM.comだけではない。ゲーム会社のアカツキも、グローバルなウェブトゥーンプラットフォームの展開を視野に、LOCKER ROOMなどの国内スタートアップに出資している。また、業界関係者によると、これまでソーシャルゲームなどを手がけてきた複数の国内メガベンチャーもプラットフォームを準備中だという。
今年は国内でも複数のウェブトゥーンスタジオが立ち上がり、本格展開に向けて準備を進めてきた年だった。そして来年はソラジマや小学館、DMM.comを含む、さまざまな日本企業によるウェブトゥーンが市場に投下される見込みだ。国産コンテンツの増加により、ここ日本でもウェブトゥーンの本格的な盛り上がりが期待できるのではないか。