ネイリー代表取締役CEOの浅倉健吾氏
ネイリー代表取締役CEOの浅倉健吾氏
  • 大手クーポンサイトに依存しきった業界構造を変える
  • 月100万円を稼ぐネイリストも誕生
  • 夏ごろをめどに“ネイルサロン版Uber”のようなサービスも予定

観光、飲食、音楽、イベント──こうした業界と同じように、コロナ禍で大きな打撃を受けた業界のひとつに「ネイルサロン業界」がある。帝国データバンクの調査によれば、外出自粛の影響などにより、2020年にネイルサロンの倒産件数は過去最多を記録した。

また、在宅時間の増加に伴い、自分好みのネイルポリッシュ(マニキュア)やセルフジェルネイルを自宅で楽しむ人も増えた。その結果、ネイルサロンに足を運ぶ必要性を感じる人が少なくなり、コロナの感染が落ち着きを見せ始めたとはいえ、コロナ前ほどの需要にまでは戻っていない。

ネイルサロン業界全体に漂う閉塞感を打開すべく、さまざまな取り組みを行っているのが、個人とネイリストをつなぐネイル予約アプリ「Nailie(ネイリー)」を展開するネイリーだ。需要が冷え込んでいるネイルサロン業界に復活の兆しはあるのか。ネイリー代表取締役CEOの浅倉健吾氏に話を聞いた。

ネイル予約アプリ「ネイリー」
ネイル予約アプリ「ネイリー」 画像提供:ネイリー

大手クーポンサイトに依存しきった業界構造を変える

ネイリーの設立は2016年9月。代表を務める浅倉氏はもともと、首都圏や九州を中心にネイルサロン「TRU NAIL&EYELASH(トゥルーネイル&アイラッシュ)」を国内で28店舗展開、ベトナム・ホーチミンにも1店舗展開するファイブスターの経営を行っている人物。

ネイルサロンを経営しながら、ネイル予約アプリを立ち上げることにした理由──その背景にあるのが、大手クーポンサイトに依存しきった業界構造だ。

「自分が経営しているネイルサロンは多店舗展開するなど上手くいっており、その収益を大手クーポンサイトの広告に充てることができています。しかし、ネイルサロンをやっている人の9割以上が個人です。自分たちは広告費を年間約1億円ほど投下していますが、個人にそれだけの費用を支払える人はいません。仮に広告掲載したとしても、金額が少ないため掲載枠が下の方になり、予約につながりにくいのが現状です」(浅倉氏)

ネイルサロン業界を俯瞰(ふかん)して見たときに、母数として多いのは個人。であれば、個人のネイリストが掲載費を気にすることなく集客できるプラットフォームがあれば、ネイルサロン業界全体が変わるのではないか。そう考え、ネイリーを立ち上げることにした。

「ネイルサロンをやっている身からすると、個人とネイリストが直接つながり予約できるようなシステムは脅威です。ただ、他の人に開発されるくらいなら、自分たちでやった方がいいと思い、着手することにしました」(浅倉氏)

月100万円を稼ぐネイリストも誕生

ファイブスターとは別会社として、ネイリーを設立。とはいえ、当初は浅倉氏自身にサービス・アプリ開発の経験がなかったため、開発は想像した以上に難航し、半年の予定が1年半ほどかかることになった。

2018年4月に東京エリア限定でスタートした後、8月に正式リリース。約2年弱でアプリのダウンロード数は80万を記録しているほか、15000人以上のネイリストが登録している。

ネイリーはネイリストが投稿したネイル画像からデザインを探し、気に入ったネイリストに直接予約できるネイル予約アプリ。事前にクレジットカードを登録しておくことでアプリ内で予約から決済までを完結することができる。また掲載費は無料とし、予約が入った場合のみ手数料が発生する仕組みとなっているため、ネイリスト側は従来の検索・予約サイトよりも安い価格でサービスを利用することができる。

ネイリーの仕組み 画像提供:ネイリー
ネイリーの仕組み 画像提供:ネイリー

「ネイルサロンは当日キャンセル、いわゆるドタキャンが多いのですが、事前にクレジットカードで決済を済ませておくことでドタキャンを防げるほか、面倒な会計業務も短縮することもできます。そうした点がネイリーの特徴となっています」(浅倉氏)

リリース初期に関西、東海、九州、東北など各地の人気ネイリストが“ネイリーオフィシャルネイリスト”として参加したことで、早い段階で一定数のネイリストを確保できたという。今ではネイリー内で月100万円を稼ぐネイリストも生まれてきている。

「ネイリストは美容師と異なり、国家資格もいらないですし、場所の制限もなく材料費も安いため、本来は個人が活躍しやすい職種です。しかし、今までは働く場所が大手のサロンなどに限られており、土日出勤も多いほか、(福利厚生が手薄なため)出産したら辞めざるを得ない状況でした。そのためネイリストをやってみたいけれども、仕方なく会社員として働いている人も多くいます。ただ、ネイリーを使えばスキマ時間を使って自宅でもネイルができるようになります。『ネイリストをやってみたい』と思ったら、まずネイリーに登録してもらう。そんな流れを作れたらと思います。そうすれば業界全体が盛り上がります」(浅倉氏)

夏ごろをめどに“ネイルサロン版Uber”のようなサービスも予定

浅倉氏によれば、ネイルサロンに行ったことがあるF1層(20〜34歳までの女性)の割合はまだ25%ほどしかないという。その需要を喚起するため、ネイリーでは12月13日から、総額2億円分のクーポンを配布するキャンペーン、まさにネイルサロン版の“Go Toキャンペーン“とも言える取り組みを開始した。クーポンを配布することで“ネイルサロンに足を運ぶきっかけ“をつくり、そこを起点に新規ユーザーの獲得を狙っていく。

「ネイルポリッシュやネイルシールなどを使い、自宅でセルフネイルを楽しんでいる人たちも、自分では難しいデザインを人にやってほしい、あるいはもっと頻繁にネイルのデザインを変えてみたいと思うようになるはずです。そのときにネイリーを第一想起してもらえるよう、ここからマーケティングにさらに力を入れていきます」(浅倉氏)

今回のキャンペーンの反応を見て、来年にはさらに大規模なキャンペーンを展開していく予定だという。それと同時並行で、新サービスの立ち上げにも着手していく。浅倉氏によれば、“ネイルサロン版のUber”のようなサービスを展開する予定だという。

「個人のネイリストは直近の予約が電話で来ることも多く、なかなかすべての予約を管理しきれないんです。そのため、ネイリー上では空きがあるのに、実は予約で埋まっていたということが頻繁にあります。そうした課題を解決するために、すぐネイルの予約をしたい人たちが、半径1キロ圏内で予約に空きがあるネイリストとマッチングするというサービスを開発しており、夏ごろをめどにリリースの予定です」(浅倉氏)

それ以外にも、今後ネイル商材を購入できるECプラットフォームやインフルエンサーとコラボし、一般ユーザー向けのネイルのD2Cブランドなども展開していく予定だ。