
2021年の上半期は長引く緊急事態宣言・まん延防止等重点措置に伴い、我々は自粛生活を余儀なくされた。しかし、ワクチン接種が進むにつれ、コロナの感染状況は落ち着きを見せ始め、9月末には緊急事態宣言とまん延防止等重点措置が全面的に解除された。
少しずつコロナ前のような生活に戻りつつあり、2022年は本格的に“コロナ後の生き方”について考える年になるだろう。起業家たちはこの1年をどう振り返り、そして2022年はどのような年になると考えているのか。
DIAMOND SIGNAL編集部は過去に取り上げたことのある起業家たちにアンケートを実施。その結果を前後編にわけて紹介する。掲載は五十音順。(前編の記事はこちら)。
黄皓(コウ・コウ)氏 / ミラーフィット代表取締役社長
- 2021年の振り返り
オンラインに関しては、ライブ配信領域やオンラインフィットネス領域、オンラインショッピング領域が伸びた印象です。オフラインでの体験を、オンライン化できた(しやすかった)領域が伸びたような気がします。また、個人間のコミュニケーションが取れるサービスが大幅に伸びました。個人がクリエイターになり、そのクリエイターにファンがつき、コミュニケーションエコノミーが拡大したように思います。Zoomなどのミーティングツールだけでなく、ライブ配信サービスなどがコロナ禍を席巻したと感じています。
一方、オフラインでは個室(パーソナル)サービスが伸びた印象です。個室焼肉やパーソナルトレーニングジムが大きく伸びました。これまでの大衆型の単純消費よりも、パーソナライズされた体験が価値を発揮したと思います。
- 2022年のトレンド予測
オンラインでのコミュニケーション領域は引き続き伸びると思います。生のコミュニケーションは以前よりも付加価値は高くなっていますが、時間や場所に縛られるため参加コストが高いのも事実です。そこがオンラインで代用できるようになると、より気軽に、より広くコミュニケーションが取れるようになるため市場は大きいと感じています。
オンラインが伸びる一方で、体験型サービスもより重宝されると思います。その中でもオフラインの旅行産業は復興に向かっていくため、体験型サービスがより伸びると期待しています。
Ivan Zhao(アイバン・ザオ)氏 / Notion Labs共同創業者CEO
- 2021年の振り返り
2020年に引き続き、「従業員のエンパワーメント」が進みました。企業がツール導入する際の購買決定において、従業員がより大きな発言力を持つようになってきています。そしてソフトウェアを選ぶ上で、ユーザーはより“快適さ“、”使いやすさ“、そして“美しさ“を重視するようになってきたと感じています。
我々が提供する「Notion」に関して言うと、2020年はユーザーがNotionを発見する年でした。2021年は昨年にNotionを発見したユーザーが、他のユーザーに使い方をレクチャーするような動きが目立ちました。
- 2022年のトレンド予測
2021年に引き続き、2022年においてもユーザーコミュニティがサービスやプロダクトの拡大に大きく貢献するでしょう。これは一般消費者向けのサービスだけでなく、エンタープライズ向けのプロダクトにおいても同様です。
スタートアップのメッセージを世に広め、プロダクトの認知度を高める上では、ユーザーコミュニティは欠かせない存在です。より多くの起業家やスタートアップ関係者が、コミュニティの重要性を意識するようになってきています。
鳥羽周作氏 / シズる代表取締役社長CEO兼CSO
- 2021年の振り返り
2021年は2020年と比べて、シェフ個人の活躍が目立った気がします。2020年はデリバリーなどがコロナ禍で盛り上がった気がしますが、あくまで店舗営業の延長線上での取り組みでした。ただ、2021年はよりシェフ個人の価値にフォーカスされた結果、いろいろなフィールドで食を通じてコンテンツを作る人が増えたように思います。これをきっかけに店舗だけで利益を生まない考えが加速し、飲食業界の新しいスタンダードになったと思います。
- 2022年のトレンド予測
先程の話とも少し近いですが、飲食店の在り方や考え方が変わりつつある中で、“レストラン”という業態だけでなく、レストランクオリティーのファストフード店などが増えそうだなと思います。監修という形なのか自社開発なのかはわかりませんが、フラッグシップとは別の切り口で、より身近なお店を出すレストランが増えると思います。
その理由としてはシェフの発信力が高まったことが大きいです。シェフがより身近な存在になり、安価ながらもシェフの考えが体感できるものがあると、結果的によりたくさんの人がレストラン(フラッグシップ)にも訪れる動機につながると思います。新しい客層を獲得する、という観点からも非常に有効な手段だなと思っています。
Duy Doan(デュイ・ドーン)氏 / StockX Japan 統括
- 2021年の振り返り
新型コロナウイルスの感染拡大により、人々は外出自粛を余儀なくされ、オンラインで交流するようになりました。StockXはこのような世の中の変化に伴って拡大したサービスの1つです。私が特に興味を持っているのは、暗号資産やブロックチェーンの技術発展に伴うWeb3の台頭です。ここ数ヶ月でNFTの認知度は爆発的に向上しました。
さまざまなアーティストがデジタル作品を販売し、マネタイズできることに大きな可能性を感じています。ポップカルチャーとリンクすることで、多くの人々がNFTやその周辺技術に興味を抱くようになりました。
- 2022年のトレンド予測
2021年にはFacebookが社名をMetaに変更し、メタバースに注力していくことを宣言しました。2022年にはより多くのサービスがメタバースに関連した事業を仕掛けてくるでしょう。とは言え、“リアルな場”の重要性も忘れてはなりません。コロナ禍で人々はオンラインでのコミュニケーションを余儀なくされ、結果として対面での交流のニーズが高まりました。そのため、リアルな体験を提供することで、オンラインでの体験を補完することが、ブランドの成長において欠かせなくなってきています。
福島良典氏 / LayerX代表取締役CEO
- 2021年の振り返り
ワクチンの圧倒的な開発速度に代表される、創薬プロセスのDX。開発秘話のポッドキャストをを聞きましたが、まさにこれぞDXとソフトウェアのアジリティという話でした。ワクチンは象徴的でしたが、SaaS、Fintech、自動運転、小売DX、医療DX、製造業DX、教育DXなどあらゆるリアル産業へのソフトウェアの侵食が着実に進んだ1年だったと思います。
その他のトレンドとして、Facebookがメタバースの会社になる、Web3トレンドの勃興、NFTの盛り上がり、引き続き強い仮想通貨の相場など含めた、既存社会への延長線ではないアンチテーゼ的な文脈の領域も盛り上がった1年と感じます。
また非常に個人的なお話なのですが今年ありがたいことに結婚をし、子どもも授かることができました。それによりD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)的文脈への興味がとても強くなりました。改めて会社としての働き方、子育て・プライベート・仕事の両立を考えるようになり、そういった仕組みに投資している会社や制度への関心が以前にも増して高まりました。
世の中的にもそういう会社でなければ優秀な人材が採用できない、というようなトレンドチェンジが起こっていることも認識できました。
- 2022年のトレンド予測
(自分の詳しい領域以外はトレンドを予測するのもおこがましいので、自身の事業領域のみにとどめます)
電子帳簿保存法の対応です。これは全事業者に影響します。その割には認知度が低いのでぜひ「電子帳簿保存法」で検索してみてください。
ビジネストレンドでは、「箱型SaaS」から「手続き型SaaS」への移行が進みそうです。データ化・データ保存を行う箱型SaaSは一巡し、ML(機械学習)とSaaSの融合、FintechとSaaSの融合が起こります。より深い業務や手続き的業務の効率化(手続き型SaaS)の成長が顕著になるでしょう。AIベンダーはSaaS企業に、SaaS企業はFintech企業にリブランディングする1年になるでしょう。それにより根本的に優位性の作り方が変わり、ビジネスモデルの変化が起こります。既存SaaS企業と新興SaaS企業の中での大きな順位変動が、実はこの時に起こり始めていた、となる1年になるでしょう。
BtoBプロダクトの作り方も大きく変わり、BtoB、BtoCといった区切りは意味がなくなり「すべての企業がtoC化」します。その最初のトレンドとしてPLG(Product Led Growth、製品主導の成長)型の企業の成長率が大きく上がることになると思います。
福田恵里氏 / SHE代表取締役CEO
- 2021年の振り返り
2021年はESG、SDGs、D&Iなどのサステナビリティやダイバーシティを表すキーワードがより一層活発に聞かれるようになったと思います。
特にESG投資やソーシャルインパクト投資に関しては、この1年で海外からの流れを受け、日本国内の投資家の温度感にもかなり変化を感じました。スタートアップの起業家やベンチャーキャピタリストが集まる招待制カンファレンス・IVSのピッチコンテスト「LAUNCHPAD」で優勝した際、多くの審査員の人たちが言っていましたが、社会的意義だけではなく、経済合理性としても成り立つ、その両方を叶えるビジネスを実現することがこれからのインクルーシブな社会に絶対に必要であるという風潮に、業界全体の流れが変わってきつつあります。
実際にキャシー松井さんたちが率いるMpowerなど、ESG投資に特化したファンドが国内で出てきたのも今年の印象的な出来事でした。
また上記の変化に伴い、「パーパス経営」という概念も盛り上がりを見せました。気候変動、ジェンダーギャップなど社会課題が溢れる今、企業のパーパス(=社会的存在意義)が、より強く問われるようになっており、従来の資本主義・利益至上主義システムの緩やかな衰退を感じるような年でもあったと思います。
- 2022年のトレンド予測
2020年ごろからコロナによって教育のデジタル化が加速し、リカレント教育(社会人の学び直し)やリスキリング(新たなスキルの獲得)領域が盛り上がっていましたが、いまはオンライン学習体験の形がより共創型・インタラクティブ型に進化していく兆しが見られます。
例えば、UdemyやCourseraのような従来の動画でのオンライン学習(MOOCs型)ではなく、プロジェクトやワークショップ型の共同実践を通じて学ぶコホート学習やPBL(Project-Based-Learning)が主流になっていく点が挙げられると思います。
Cohort学習はすでに海外では注目を集めている学習形態であり、Udemy共同創業者らが設立したコホート学習のスタートアップ、Mavenはa16zなどから2000万ドル(約22億円)を調達しているので、この流れは今後広がっていくだろうと予想しています。
また、2022年4月から18歳が成人となり、Z世代の社会参画がさらに促進されることで、ジェンダーやサステナビリティなど、感度の高い世代の価値観をより一層理解することが企業にも求められるようになりそうです。
古川健介氏 / アル代表取締役CEO
- 2021年の振り返り
主に、クリエイターエコノミー・Web3の領域が一気に話題になったと思っています。
これらを抽象的に解釈すると、「インターネット上で活動をする個人たちのマネタイズ手法が一気に拡大する兆候が来ている」だと思っています。企業などによる中抜きをなくすのがインターネットだ、といわれていましたが、その部分が文化的に浸透してきてようやく花開いた、という面と、「プラットフォームが多くを中抜きするよね」というところで、Web3への期待が強くなっている、という両方の側面がありそうです。
また「サブスクリプション」という手法が一般化したことで、SaaSが花開いたのと同じように、C向けビジネスがこれから花開く背景になりそうな予感があります。
2020年では、コロナによって活動の場所がオンラインに移行するケースが多くなっていたものの、まだ「仮の手法」という感じでした。それが長引くことで、本格的にオンラインに軸足を移している人が増えてきたからこそ、このような流れがぐっと来ているのだと思います。
- 2022年のトレンド予測
「もうすでに来てる」と思われがちですが、意外と「ライブ配信」はここからな気がしています。リッチなリアルタイムコミュニケーションに人は向かうはずなので、「メタバース以前のコミュニケーション手法」として、小規模で話すライブ配信などが水面下で進化していくような気がしています。
また、デジタルギフトのECにも注目しています。gifteeやLINEギフトが伸びているのを見ると、こちらもコロナで成長した新しい流れとして注目がされるのではないでしょうか。
松本龍祐氏 / カンカク代表取締役
- 2021年の振り返り
オンライン飲み会の広がりのような、「コロナ禍をどう乗り切るか」という一時的なブームから、家飲みの定着やアウトドア活動、地方移住など、人々の志向の変化が本格的に進んだのではないかと思います。その結果、これまでの都心一極集中やトレンド集中型から、地方への分散や家族を中心とした小規模なコミュニティへの回帰と、オンライン上で新たな都市を構築していくようなメタバースの流れが同時に起きているのが、とても興味深い出来事でした。
- 2022年のトレンド予測
ポスト都市化・分散化がどこまで進むか、という点に注目をしています。コロナ禍での移動制限をきっかけに、ライフスタイルや趣味の多様化が進みました。今後はそこから派生する形で居住への考え方も大きく変化するでしょう。そして、もう少し長いスパンで考えると、自動運転技術の発達によって「良い土地・場所」という概念も変わっていくと思います。
多拠点生活プラットフォームの「ADDress」や、“現代版のタイムシェア”とも言える「NOT A HOTEL」などのような、「住む」「暮らす」に変化をもたらすサービスがこれからさらに増えていきそうです。また、ど真ん中で住宅のDXに取り組んでいる「HOMMA」も楽しみで、住んでみたいです。投資視点でも相対的に不動産が注目されるケースが来年以降増えていくのではないかな、と考えています。