Photo:bowie15/Getty Images
Photo:bowie15/Getty Images
  • “不適切な内容”のダブルスタンダード
  • 根底にある女性の身体へのタブー視
  • 広告の不平等を改善するために、企業や個人ができること

人口の半分以上をターゲットとしているフェムテック。米調査会社CB Insightsが発行したレポートでは、現在のフェムテック市場は350億ドル(約3.8兆円)で、2025年までに500億ドル(約5.5兆円)にまで拡大すると予想されている。また、米国のフェムテック専門ファンド・Coyote Venturesは、2027年までに1.18兆ドル(約129兆円)にまで成長する見込みだ。

急成長が期待されているにも関わらず、フェムテック企業のCAC(顧客1人を獲得するために費やすコスト​​)は、通常の2倍以上だという。

ジャッキー・ロットマン氏 Center for Intimacy Justiceウェブサイトより
ジャッキー・ロットマン氏 Center for Intimacy Justiceウェブサイトより

その理由の1つとして、Facebookや地下鉄、イベントなどの広告プラットフォームによる理不尽な検閲、「広告の不平等」があると言われている。実際、男性向け製品であるバイアグラや、勃起不全(ED)、抜け毛などに悩みを持つ男性向けのデジタルヘルス企業・Himsなどの広告は問題無いとされているのに対し、女性向けの遠隔医療やセクシャルウェルネス製品の広告は、“不適切である”と拒絶されるケースがあるというのだ。

今回、そういった、セクシャルヘルスを含むヘルスケア広告におけるジェンダー平等をテーマに活動する非営利団体、Center for Intimacy Justiceを立ち上げた、ジャッキー・ロットマン氏に話を聞いた。

“不適切な内容”のダブルスタンダード

米国の広告業界では、「一般大衆を不快な気分にさせない」とするガイドラインがあるが、これは男性向けと女性向けのソリューションにおいて対応が変わるなど、ダブルスタンダードの状態だという。そういった広告の不平等について、ロットマン氏が母校のスタンフォード大学ビジネススクールで講演した時の動画から解説していく。

下記は、ニューヨークの地下鉄に掲載された広告だ。勃起不全や抜け毛など、男性向けコンプレックスをターゲットにしたD2Cヘルス企業のHimsなどのものである。サボテン、植物などを男性器に見立て、ターゲットとなる男性に訴えかけている。

Jackie Rotman: Intimacy Justice: Business Practices to Support Sexual Equalityより抜粋
Jackie Rotman: Intimacy Justice: Business Practices to Support Sexual Equalityより抜粋

下記は、女性向けセクシャルウェルネス企業のUnboundがニューヨーク市の地下鉄に掲載を依頼した広告だ。パッと見ても何の広告だが分からないようになっているが、この広告は、“不適切である”と掲載を拒絶された。

Jackie Rotman: Intimacy Justice: Business Practices to Support Sexual Equalityより抜粋
Jackie Rotman: Intimacy Justice: Business Practices to Support Sexual Equalityより抜粋

別の例を見てみよう。下記は、前回の記事でも紹介した更年期向け遠隔医療を手がけるGennevの広告だが、これも不適切として“プラットフォームから認可されていない”広告に振り分けられている。

Center for Intimacy Justiceウェブサイトより
Center for Intimacy Justiceウェブサイトより

また、膣の萎縮を抑制することを目的としたヘルステック製品を製造しているJoyluxは、ソーシャルメディアから広告掲載を拒否されたという。失禁や膣の乾燥など、加齢や出産にまつわる女性の悩みを解決するために開発された製品にも関わらず、セックストイに分類されてしまっているというのだ。

根底にある女性の身体へのタブー視

このように、本来認可されるべきソリューションが“不適切である”とされ、拒絶されてしまう現実がある。基本的にこのような事象が起こった場合、Facebookなどの広告プラットフォームに問い合わせをすると、「今回の件はたまたま間違えて分類されてしまった」と回答が返ってくるとロットマン氏はいう。

Center for Intimacy Justiceは、このような事象が一度きりではなく、構造的問題であることを指摘するため、さまざまなケースを集めたリサーチを続け、近々結果を発表するとしている。ロットマン氏は次のように語る。

「女性の健康に関するソリューションを不適切とみなすのは、アルゴリズムが原因だと言われています。Facebookはこの問題について、数年前から指摘を受け続けています。にも関わらず、改善からはほど遠い状況です。プラットフォーム側が十分なリソースや人を十分に投資していないのではないかと考えています」(ロットマン氏)

近年、米大手小売チェーンのターゲットやCVSファーマシーなどがフェムテックスタートアップと提携し、D2C製品をオフラインで販売するケースが増えている。

しかし、フェムテックスタートアップがFacebookなどで広告できない場合、小売店側がリスクと捉え、提携を解消するケースもあるという。ここにも、広告の不平等がフェムテック業界の成長を阻んでいることが見て取れる。

広告の不平等を改善するために、企業や個人ができること

実は、男性向けのヘルステック企業も最初からすんなり広告ができたかというと、そうではなかった。前述のHimsや男性向けクリニック「Roman」を提供するスタートアップ・Roなども、広告を掲載できなかったのだ。このようなスタートアップの成功を願う投資家などが、広告関係者に掛け合い、それまでは不適切とされていた類似製品の広告が可能になったという。

同様に、現在憂き目を見ているフェムテック企業の広告に関しても、より多くの人が問題を認識し、声を上げていくことが必要だ。HimsやRoのように、投資家、広告関係者とつながりのある大企業や政府関係者といった、仲間を増やしていくことも重要だろう。

そのような動きは、米国では、実際に少しずつ始まっている。その例を1つ紹介しよう。フェムテックスタートアップが中心になり、このような広告規制に対して、世の中の認知を高めるため、approved, not approve(意訳:広告として適切か、否か)というウェブサイトを立ち上げた。

同ウェブサイトでは、広告の例が出てきて、サイトを訪れた人が広告として適切か、不適切かどうかを選ぶクイズが出題される。

approved, not approveのサイトより
この画像が広告として適切か否かと問う「approved, not approve」(approved, not approveのサイトより)

筆者は、広告として掲載して問題ないと判断し、approved(承認)をクリックした。そうすると、結果のページが表示される。なんと、この広告は、性的な写真や表現が全く含まれていないのにもかかわらず、Instagramによって拒否されたという。

approved, not approveのサイトより
この画像は、性的な写真や表現が含まれていないがInstagramによって拒否されたという(approved, not approveのサイトより)

このような問題を6問解くと、自分の認識と、広告規制とのズレがわかる。筆者は、6つの広告全てに対して、現在の広告規制と意見が異なるということになった。結果をツイートしたり、問題の詳細を深掘りするような動きが促されている。

approved, not approveのサイトより
問題を6問解くと、自分の認識と広告規制とのズレがわかる(approved, not approveのサイトより)

より多くの人に、このウェブサイトで自分の認識と広告規制がどの程度オーバーラップするのか、試していただきたい。最後に、ロットマン氏に次世代への期待を聞いた。

「女性も男性も、さまざまな性自認の人が、平等に、マーケティングやビジネス開発に取り組める世の中になって欲しいと思っています。さまざまなバックグラウンドの人が、大衆にソリューションを提供できるようにすることで、起業家のエコシステムをより強固なものにしていきたいと考えています」(ロットマン氏)

前回取り上げた更年期障害に取り組むファウンダーたちのほとんどは、自身が更年期を迎えた際に、身をもって、更年期向け商品やサービスが不足していることを実感したため、自分がやるしかない、と、商品やサービス開発に取り組んだという。

さまざまな立場の人々が、問題に気づき、ソリューションを出していくことこそが、イノベーションにつながるのではないか。その第一歩として、より多くの人がこの問題を知ることが重要だと考える。