
- 自分に最適なレベルの問題を出題、記憶を手助けする学習アプリ
- “ブラックボックス”になっていた自学自習の状況を可視化
- 「記憶の会社」を作った理由
- 専門学校や社会人教育領域などへの展開も強化
「EdTech(エドテック)」という言葉が存在するように、教育はインターネットやテクノロジーの台頭によって大きな変化を遂げた領域の1つだ。
今やインターネット環境と1台のデバイスさえあれば、さまざまな知見に無料ないし低単価でアクセスできるようになった。日本ではオンライン学習サービスの「スタディサプリ」やAI先生「atama+(アタマプラス)」などの登場によって、小中高生の学習スタイルも変わり始めている。
だが学習のプロセスを「わかる(理解)」と「できる(定着)」に分解してみると、どうだろうか。前者に関しては上述したサービスを筆頭に新たな選択肢が次々と台頭し始めている反面、後者についてはいまだにアナログな方法が主流で、改善できる余地も大きい。
「何かが『わかる』体験は映像授業などによってどんどん進化していっていますが、その内容を再現できるように記憶する方法については、今でも紙を使ったアウトプットが主流です。一方で使っている時間に着目すると、多くの人が理解よりも定着(自学自習による記憶)に圧倒的に時間を費やしている。この市場は規模も大きく、チャンスがあると考えています」
そう話すのは、解いて憶える記憶アプリ「Monoxer(モノグサ)」を開発するモノグサ代表取締役CEOの竹内孝太朗氏だ。
同社が手掛けるMonoxerは、テクノロジーの活用によってユーザーの記憶定着を手助けするサービス。現在は塾や学校などの教育機関向けにサービスを提供しており、約450社・3400教室以上で導入が進む。
今後モノグサでは組織体制を強化しながら、専門学校や大学、社会人教育などにも領域を広げていく計画。そのための資金として、以下の投資家を引受先とする第三者割当増資により約18.1億円を調達した。
- Global Brain
- Z Venture Capital
- Salesforce Ventures
- WiL
- UB Ventures
自分に最適なレベルの問題を出題、記憶を手助けする学習アプリ

“今の自分に最適なレベル”の問題を出題し、本番までに忘れないように絶妙なタイミングで反復を促し、おまけに丸つけも自動でやってくれる──。生徒側の視点からMonoxerのわかりやすい特徴を紹介するとそんなところだろうか。
同サービスは「解いて憶える記憶アプリ」をうたっている通り、さまざまな問題を実際に解きながら記憶していく。出題される問題は生徒の学習状況を踏まえてMonoxerが自動で作成しており、同じ単語帳や問題集に取り組んでいたとしても、進捗状況によって出題形式や難易度が異なるのがミソだ。
たとえばある星の名前を答える問題だったとしても「選択式」「書き写し」「自由入力」など出題形式はさまざまで、いつも同じ形式だとは限らない。学習が進むほどだんだんと難易度が上がり、問題を解き続けるだけで自然と憶えられるように設計されている。

また学習計画機能を使えば、試験日など特定の期日を指定しておくと「当日に憶えておくために必要な学習計画」が自動で作られる。1日単位で解くべき問題が示されるので、ユーザーはMonoxerに沿って学習を進めていくだけでいい。
記憶定着には先生の力も欠かせないが、上述したような事細かなサポートを生徒1人ひとりに対して人力でやっていては相当な負担がかかるだろう。Monoxerの場合はその大部分を機械が担ってくれるため、先生の業務量を大幅に増やすことなく、各生徒に合った記憶定着の支援ができる。
2021年4月にはMonoxer上で小テストを実施し、AIが自動で採点する小テスト機能も実装した。この機能では丸付けの作業が一切いらないほか、紙の印刷やコピーの手間もない。

またアナログなやり方では知れなかった“学習データ”が可視化されるのも、デジタル化のメリットだ。Monoxerでは「誰がいつどれくらい学習しているか」といった履歴に加え、学習後の定着度合い(記憶度)もわかる。
「この生徒は進捗が遅れてしまっているため励ましてあげたほうが良い」「この生徒は先週より学習回数が増えているので褒めてあげるべき」といった情報も自動で抽出されるので、生徒のフォローをする際にも役立つ。
サービスの料金は生徒数に応じた月額課金制で、目安としては「だいたい1組織あたり年額5万円ほどから」利用できる。また同サービスには出版社が用意した問題集や単語帳を購入できるマーケットプレイスも用意されており、ここでの手数料もモノグサの収益源だ。
“ブラックボックス”になっていた自学自習の状況を可視化

現在Monoxerは河合塾や明光義塾を始めとした大手の学習塾や学校を始め、3400教室以上で導入されている。竹内氏によると特に多いのが中学生の年代。小中高が大部分を占めるが、近年は18歳以上の専門学校や大学、社会人教育における利用事例も少しずつ増えているそうだ。
導入企業の幅は広がってきているものの、「自学自習がブラックボックスになってしまっているという点はすぐに共感してもらえる」と竹内氏は話す。
「成績が良い生徒は頭が良いから、要領が良いからと考えられがちなのですが、先生が出した宿題を1回だけ埋めて憶えられる子はほとんどいません。結局は自学自習の時間にプラスアルファの努力をしているから憶えられているにすぎないのですが、従来はそこが完全にブラックボックスになってしまっていた。Monoxerを使えばその状況が可視化されるというのがわかりやすい価値です」(竹内氏)

近年では“Monoxerを使うことで成績向上につながったケース”がいくつも生まれてきている。
たとえば都内の進学校では、約90名の中学2年生のコースで英検3級の合格率が前年の59%から93%に向上。約70名の高校2年生のコースでも準2級の合格率が34%から80%に上がるなど、大きな成果が出た。
看護師や理学療法士の国家資格取得に向けてMonoxerを活用する専門学校でも、導入3カ月後に実施した校内模試の平均点が前年よりも30点ほど高くなった。
竹内氏によると、特に「これを憶えたら合格できる(良い成績が取れる)」というのが定義されている領域ほどMonoxerが効果を発揮しやすい。実際に英検の場合は出版社とタッグを組み、その整理を進めたことが成果にもつながったのだという。
「記憶の会社」を作った理由
モノグサは竹内氏が高校の同級生である畔柳(くろやなぎ)圭佑氏(代表取締役CTO)と共同で2016年に立ち上げた。
竹内氏は前職のリクルート時代に中古車領域の広告営業を経験した後、スタディサプリの営業組織の立ち上げや事業開発を経験。一方の畔柳氏はGoogle出身のソフトウェアエンジニアだ。

“記憶に関する課題を解決するサービス”というテーマで2人が起業を決めたのは、竹内氏が「世界中の英単語帳を自由にシェアできるようなサービス」のアイデアを畔柳氏に持ちかけたことがきっかけ。
当時ビジネス英会話を学んでいた竹内氏は、書店で「TOEICスコア800」のような単語帳をいくつも目にした。「でも自分が学びたいのはTOEICなどではなく、突然フィリピンに赴任したとしても、現地で使えるような英単語。実際にそれを経験した先輩から『こうやって憶えたよ』というリストを共有できるサービスがあれば便利だと思った」(竹内氏)という。
ただ、畔柳氏はそのアイデアを聞いて「そもそも同一のジャンルでいくつも単語帳があるということは、憶えるプロセスや方法のところに課題があるのではないか」と考えた。そこから議論が進み、2人は“記憶テック”の会社を作ることになる。
当初はtoC向けのアプリとしての色が強かったが、ビジネスとしての可能性やマネタイズの方法を検討する中でまずは教育領域のSaaSとして拡大することを決めた。とはいえ、しばらくは売るのが大変で苦戦を強いられた。
「世の中にあるSaaSの多くは顧客に明確なペインがあって、(そのSaaSによって)何かが楽になったり、コストが削減されたりします。でも自分たちの場合はそうではありません。そもそも顧客は『憶え方』や『記憶』に対してお金を払っていたわけでもなければ、大きな業務負担があったわけでもない。だから何かをリプレイスするわけではなく、生徒の成績が上がるというところに価値を感じてもらって、アドオン(追加)で導入してもらう必要がありました」(竹内氏)
良いものを作っているという自信はあったが、当初はコンセプトで売っている感覚にも近かった。その状況が直近1年ほどで明確に変わってきているという。
コロナ禍で遠隔授業への移行が進み、生徒の状況が今まで以上に見えづらくなり、そこに課題を感じる事業者が増えた。それと並行して、事例が積み重なってきたことで「Monoxerをきちんと使いこなした生徒は、成績が上がっていること」を明示的に示せるようになった。
専門学校や社会人教育領域などへの展開も強化
今後は引き続き学習塾や教育機関向けにサービスの導入を加速させつつ、他の領域にも事業を広げる。
既存の領域で今後鍵を握るのがコンテンツの拡充。「少なくとも教育領域においては、記憶定着をサポートするために必要な機能がそろってきた」(竹内氏)中で、出版社との連携も強化しながらマーケットプレイスの拡大に取り組んでいくという。
また専門学校や大学、社会人教育領域などへの展開も進めていくほか、中長期的には日本国外への展開についても進めていく方針だという。