
- ユーザーのあらゆる“面倒ごと”をLINE経由で解決
- 「大の外食好き」が高じてコンシェルジュサービスで起業
- 資格を取得し、代理購入や旅行手配にも対応
- 「事前登録のみ開始」の理由は品質維持のため
ついつい重い腰が上がらない飲食店の予約や変更、宅配便の再配達依頼――こうした面倒を一手に引き受けてくれる月額制のサービス「mend」が事前登録を開始した。学生時代からスタートアップでインターンを経験してきた同サービスを展開するsomewhere代表の甚田翔也氏に、サービス開発の経緯について話を聞いた。(フリーランスライター 本多カツヒロ)
ユーザーのあらゆる“面倒ごと”をLINE経由で解決
会食の店選びや予約・変更、宅配便の再配達依頼、ついつい先延ばしにしてしまう日常生活の面倒な手続きを、専用アカウントとのLINEのやり取りのみで代行してくれるサービスがある。その名は「mend(メンド)」。
運営元のスタートアップ企業・somewhereはこれまで2年間、スタートアップ経営者や投資家など数十名に限定して試験的にサービスを展開してきたが、いよいよ本格稼働を始める。同社は3月2日、一般向けに事前登録の受付を開始した。
また同時に、2019年3月に個人投資家から3500万円、2019年12月に千葉道場ファンド、FGN ABBALabファンドなどから7500万円の資金調達を実施し、累計資金調達額が1.1億円に達したことも明らかにした。
mendは、ユーザーのさまざまな“面倒ごと”をLINE経由で解決するコンシェルジュサービスだ。
たとえば会食の店選びをLINE経由でお願いすると、人数や日時、場所、個室の有無はもちろんのこと、店の雰囲気など定性的な情報までもLINE上でユーザーとすり合わせ、最短で30分で店を予約してくれる。その他にも旅行の手配や調べ物など、オンライン上で調べたり、設定したりすれば解決できることであれば、基本的に対応する。ただし、反社会的なリスクがあるものや弁護士の見解が必要なリサーチなど、法に抵触するリクエストには応じていない。
料金プランはライトで2万4800円、スタンダードで3万9800円、プレミアムで5万9800円(すべて月額定額、税抜)の3種類。スタンダードで月に1回、プレミアムだと無制限で「すごい予約」というサービスがついてくる。これは、予約困難な飲食店の予約や購入困難な人気スニーカーなどの取り置きといった、より難易度の高い依頼に対応するというものだ。

「大の外食好き」が高じてコンシェルジュサービスで起業
サービスを提供するsomewhere代表取締役の甚田翔也氏は、学生時代から複数のスタートアップに関わってきた人物。高校時代はバスケットボールの強化選手としても活躍した甚田氏は、早稲田大学に入学したのちにIT業界での起業を志した。
中でも興味を持ったのはエンジニアとデザイナーだったが、絵心がないから難しいとデザイナーへの道を諦め、エンジニアの道へ進むことを決めた。その当時、連続起業家の家入一真氏(現・CAMPFIRE代表取締役)が立ち上げていたウェブサービスを開発集団「liverty」に参加し、サービスの開発を通じてプログラミングを学んだ。
その縁で、当時livertyのいちサービスとしてスタートしたBASEなど複数のスタートアップで学生インターンを体験し、新卒でマチマチに入社した後、フリーランスのエンジニアとして活躍していていた。自身も起業を考えていたあるとき、プライベートでも親交のあった投資家から「ハイクラス人材の生活をサポートする、コンシェルジュデスクが欲しい」とmendのもととなる事業の提案をされた。
学生時代から大の外食好きだったという甚田氏。一時は給料の8~9割を外食にあて、さまざまな飲食店をめぐっていた。そのため、飲食店選びに困った知人たちからの相談を受けていた。そうした経験もあったことから、mendのオペレーションのイメージができ、違和感なく事業をスタートできたという。当初はFacebookのメッセンジャーを使って、知り合いの経営者の要望を聞く、というアナログなところからサービスを始めた。
昨今、口コミサイトや検索サイトなどに業者が入り、信頼性が疑われる騒ぎになったことも少なくない。こういった背景から「意思決定のコストが上がっている」と甚田氏は指摘する。が正しい情報か見極めるのに苦労するからこそ、時間のない経営者の会食場所選びだけでも価値になると考えた。
資格を取得し、代理購入や旅行手配にも対応
ユーザーからの依頼は飲食店の提案や予約内容の変更などが半分ほどを占めるが、前述のとおり代理購入や旅行の手配などもあるという。
ただ、これらは資格のない業者が代行することは法に抵触するため、自社で古物商や旅行業の資格も取得した。他にもさまざまな依頼があるという。
「次に面会する人のことを知りたいから、その人のことがよく分かるインタビュー記事を送ってほしい、朝食、昼食をテキストや写真で送ってきて、夜に摂取可能なカロリーを教えてというリクエストなどもあります」(甚田氏)
2年間のテスト期間では発見も多かった。その1つがユーザーの行動の変化だ。
「我々のサービスを利用頂いた方々は、GoogleやSNSで検索をしなくなったり、AmazonなどのECサイトを訪れなくなったります。消費行動のリクエストがすべて我々のサービスに集約される。また、代理購入は、一種の“電子ウォレット”のような扱いになる。これはこれまでになかった価値なのではないかと思います」(甚田氏)
ただ、気になる点もある。ハイクラス人材をターゲットにするのであれば、ビジネス上の会食予約などは秘書の仕事と競合しないのかということだ。この点に関して甚田氏は次のように語る。
「僕たちも最初は競合するのではないかと考えていたんです。しかし、実際のところ秘書の方は、オフラインでの業務をたくさん抱えているので、競合ではなく秘書業務を補完するようなかたちでサービスを利用してもらっています」(甚田氏)
「事前登録のみ開始」の理由は品質維持のため
2年間のテスト期間を経て、満を持しての事前登録を開始したmend。今後は事前登録したユーザーの一部からサービスを提供していくという。その理由について、甚田氏は「最初から多くの人へサービスを提供するとオペレーションが機能しなくなり、結果、高品質のコミュニケーションが取れなくなってしまうから」と説明する。米国では、2015年頃に「Magic」というSMSを利用したコンシェルジュサービスが話題になったが、ユーザーを拡大した結果、オペレーションが機能しなくなったと指摘されている。その教訓から同じ轍を踏むまいという気持ちもあるのだろう。
将来的な展開について問うと、「正直なんとも言えない」と前置きした上で次のように語った。
「10年後も変わっていないのは、ユーザーが生活で使い続けてもらえるようなサービスを提供したいという思いです。ただ、mendだけで完結するつもりはなく、横展開で違うプロダクトを展開できればいいなとは考えています」(甚田氏)