
2018年から始まった暗号資産(仮想通貨)の「冬」の時代に終止符が打たれ、2021年の暗号資産市場は非常に賑やかになっている。
暗号資産や金融商品のオンライン取引所である米TradingPlatformsによると、2020年時点ですべての暗号資産の時価総額の合計は7580億ドル(約86兆円)だったのに対し、2021年5月時点では既に2.4兆ドル(約250兆円)にもなっている。2021年12月の時点では、ビットコイン単体でも1兆ドル(約110兆円)の時価総額になっている。
暗号資産取引の活発化にともない、法定通貨と連動する暗号資産であるステーブルコインの普及も進んでいる。仮想通貨データ分析企業のGlassnodeによると、ステーブルコインを保有するウォレットの数は2021年9月時点では、前年比で100パーセントの成長を見せている。
とはいえ、まだまだステーブルコイン自体をよく理解していない人も多いのではないだろうか。本稿ではその仕組みや種類、その急成長の背景を、ベンチャーキャピタル・Headline Asiaの林政泰氏が解説する。
価格安定を目的に開発された暗号資産「ステーブルコイン」
暗号資産は価格が乱高下しがちで、その不安定さから実際の「通貨」としては機能しにくい。そこで、安定した価格を実現するように設計されたのが、ステーブルコインと呼ばれる暗号資産だ。ステーブルコインを購入する方法はいくつかある。ステーブルコインを発行する発行体からの購入、発行体の提携先からの購入、またはセカンダリーマーケットでステーブルコインを持つ他人からの購入だ。
ステーブルコインの価格を安定させる仕組みは大きく分けて、「担保型」と「無担保型」に分かれている。担保型では、米ドルなどの法定通貨、ETH(Ethereum)などの他の暗号資産、金などのコモディティ商品を担保にすることによって、ステーブルコインの価値を保つ(価値を固定化する)。例えば米ドルを担保とするステーブルコインでは、理論上、1つのステーブルコインを、いつでも発行体に1米ドルで買ってもらうことが可能だ。一方、無担保型では、発行体が市場需要に応じて供給量を増減させることで、価格を安定させる。市場の需要は非常に早いスピードで変わるため、基本的にはアルゴリズムを使って自動的に供給量を調整している。
では、具体的にどんなステーブルコインが流通しているのだろうか。以下に説明する。
4つの主要ステーブルコインと日本円ステーブルコイン「JPYC」
USDT(Tether)
USDTはTetherが発行する、米ドルに連動した米ドル担保型のステーブルコインだ。発行量の上限は設けられておらず、Tetherに1米ドルを支払うたびに、1USDTが発行される(実際には、各個人が直接Tetherに発行を依頼するようなスキームではなく、取引所などがまとめてTetherに発行を依頼し、個人に販売する流れとなっている)。
現時点で発行量(時価総額)は740億ドル(約8兆3900億円)で、ステーブルコインの中では最大となっている。1日の売買高は790億ドル(約8兆9600億円)前後で、その時価総額を上回るほどだ。Tetherは親会社のBitfinexとともに相場操作をしたことや、発行量と同額の米ドルを担保として保有していない可能性などが疑われてきたが、ネットワーク効果で成長し続けている。下図はUSDTの発行量の推移だ。特に2021年に入ってから、今まで以上のスピードで伸びている。

USDC(USD Coin)
USDCはCentre Consortiumというコンソーシアムが発行する、米ドルに連動した米ドル担保型のステーブルコインだ。前述のUSDTのローンチは2015年上旬。一方で、USDCの発行開始は2018年下旬だった。
かなり後発となったが、USDTの保有量が不明朗になっている中で、USDCは大手会計事務所がその保有されている現金や資産を確認し、準備高が発行しているステーブルコインの数と一致していることを検証し公表している。また、Centre Consortiumの創立メンバーは決済サービス会社のCircleと仮想通貨取引所のCoinbaseだ。Circleの主要株主はGoldman Sachsで、Coinbaseは上場企業。社会的信用性がTetherより高いのは明確だ。USDTと同様に、2021年に入ってから急成長している。

UST(TerraUSD)
USTは韓国のソウルに拠点を置くTerraform Labsが発行する、米ドルに連動する無担保型ステーブルコインだ。Terraformが自社開発したパブリックブロックチェーン「Terra」上で発行されている。
Terraformは別途、LUNAというトークンを発行しており、USTを発行するには、同じ価値のLUNAをバーン(発行済み暗号資産を消滅させること)する。USTの価格を安定させるのは、アービトラージ(裁定取引:相場の価格差を利用して利益を得る)を行う投資家たちだ。
USTの需要が多いと、本来は1USDの価値しかない1USTがそれ以上の価格になってしまう。そこで、1USD分のLUNAを購入し、そのLUNAをバーンして1USTを手に入れる投資家たちが出てくる。1USTを、例えば1.01USDに交換すると、その投資家は0.01USDの差益を手にする。これによって、需要に対して供給が少なかったUSTが供給され、USTの価格が下落し、1USDに近づく。
逆に、1USTが1USDよりも安くなってしまうと、1USTを0.99USDで買い、そのUSTをバーンしてLUNAを手に入れ、LUNAを1USDに交換。そうすることで、0.01USDの差益を手に入れる投資家が出てくる。USTは無担保型ステーブルコインの中では1位の発行量と取引高を誇っている。TerraformはUSTと同じ仕組みで、韓国ウォンに連動するTerraKRW(KRT)も発行している。
DAI(Dai)
DAIは分散型自律組織(DAO)、MakerDAOが発行し、米ドルに連動する、暗号資産担保型のステーブルコインだ。法定通貨担保型以外の担保型の中では、最も発行量の多い一番大きいトークンである。他の主要なステーブルコインの発行体が中央集権型の組織であるのに対し、DAIの発行体は分散型組織。Maker(MKR)という投票権付きのガバナンストークンの保有者によって、民主的に管理されている。DAIの基本的な仕組みは、暗号資産を担保としてスマートコントラクトに入金し、それと同じ価値分のDAIが発行されるというコンセプトになっている。現在は単一の仮想通貨でしか担保できない旧バージョンのトークン(SAI)、そして2019年にローンチされたマルチ担保型トークン(DAI)の2種類がある。
JPYC(JPY Coin)
JPYCは独自のブロックチェーン技術(ERC20)を活用し、日本の法規制を遵守した形で発行される、日本円と連動した担保型のステーブルコインだ(編集部注:林氏が所属するHeadline AsiaはJPYCを発行するJPYCに出資している)。日本円を発行体のJPYCに入金すると、同じ価値分のJPYCが発行される。
海外プレーヤーはステーブルコインに対する規制がない中で、ステーブルコインの発行や販売・流通を行った。そのため、各国の規制当局がステーブルコインに関する法規制の導入に向けて動いている。
一方で、JPYCは日本の法規制に対応し、「前払式支払手段発行体」としてJPYCを発行している。2021年1月のローンチ以来、発行量は7カ月で1億円を突破し、その3カ月後には3億円を突破している。
ユースケースも増えてきた。VISAのプリペイドカードへの交換や、楽天市場といったECモールでの代理購入のほか、松屋銀座の対象フロアでもJPYCを使うことが可能となった。
(編集部注:日本経済新聞は12月7日、金融庁はステーブルコインに規制をかける方針で、発行体を銀行と資金移動業者に限ったうえで、仲介業者も新たに監督対象にすると報じた。JPYCは現行の資金決済法において、暗号資産ではなく通貨建資産であり、自家型前払式支払手段となっている)