Notion Labsの日本第1号社員・西勝清氏のイラスト すべての画像提供:Notion Labs
  • LinkedIn時代の同僚に誘われて入社
  • Notion Labsは職人の工房のような職場
  • 2021年中にNotionを“日本語化”

「タスク管理」、「メモ作成・保存」、「データベース」や「スプレッドシート」など、さまざまな機能を兼ね備えたオールインワン情報共有ツールの「Notion」。タスクは「Trello」、メモは「Evernote」といった具合にツールを併用せずとも、Notionだけで多くの機能が揃う。日本語版がないにもかかわらず、その“網羅性“からIT系クリエイターやエンジニアを皮切りに人気を集め、日本でもユーザーがジワジワ増えている。

Notionを開発し提供するNotion Labsは米サンフランシスコに拠点を置く。4月に約54億円(5000万ドル)の資金調達を実施し、企業価値が約2100億円(20億ドル)となったユニコーン企業だ。

共同創業者でCEOのIvan Zhao(アイバン・ザオ)氏は7月の取材で、同社は日本を注力市場として見ていると説明した。日本はエンタープライズ向けのプロダクトにとって巨大な市場だからだ。世界中には400万人以上のNotionユーザーが存在するが、その多くは日本人だという。

またザオ氏は、日本での事業展開を進めるために「スタッフの採用を進めている段階」だと話していたが、9月には日本第1号社員を採用した。

DIAMOND SIGNALでは、Head of Sales(営業責任者)として、新たにNotion Labsに加わった西勝清氏に、日本でのビジネス戦略について話を聞いた。西氏は「2021年中にNotionを日本語化する」と明かす。

LinkedIn時代の同僚に誘われて入社

──Notion Labsに入社するまでのキャリアについてお聞かせ下さい。Cisco Systems、LinkedIn、WeWorkでは主に営業や戦略立案を担当されていました。なぜ外資系企業に限定してお仕事をされてきたのでしょうか。

私は「自分の人生でこのようなことを成し遂げたい」というライフミッションを定めています。それに沿ってキャリアを積み重ねてきました。

そのライフミッションとは、海外のイノベーティブなテクノロジーやプラクティスを日本に持ってくることです。それによって、日本の企業や社会の生産性を高める。日本のグローバルでの経済的な競争性を保つ、もしくは向上することに貢献していきたい。こう強く思っています。そのため、先ほど名前の挙がったような外資企業に勤めてきました。

加えて、私は福岡県の出身です。地方出身というのもあり「人々の距離を越えた交流により新しいものが誕生する」世界の実現に貢献したい。このように考えています。コラボレーション、コミュニティー、ネットワークは私にとって大事なキーワードです。

──Notion Labsに入社するに至った経緯を教えてください。

Notion LabsのCOOであるAkshay Kothari(アクシェイ・コターリー)はLinkedIn時代の同僚です。アクシェイはLinkedInでInternational Head of Product(製品の国際責任者)で、私は日本の営業マネージャーでした。日本でのビジネスデベロップメントにおいて、一緒のプロジェクトに入ったこともありました。

とはいえ、彼は本社勤務ですし、LinkedInはそれなりに規模が大きい。知り合いではありましたが、日々やりとりをしていたわけではありません。

アクシェイから6月くらいに、「Notionの日本展開を考えている」という連絡があり、そこからすべてが始まりました。最初は日本のビジネストレンドなどについて情報交換をしていたのですが、1カ月ほどたったころ「入社に興味はあるか」と話を持ちかけられ、そのまま採用インタビューになった流れです。

アクシェイがCOOになったことでNotionという企業のことを知ってはいたものの、プロダクトには「触ったことがある」という程度でした。本格的に使うようになったのは、アクシェイとの会話が始まってからです。使い出すとその魅力の虜となり、夜更かしもしました。“自分にとって理想のソフトウェアを作り込める”ところが魅力的だな、と感じました。

Notion Labsは職人の工房のような職場

──採用面接などはすべてオンラインで行ったのでしょうか。CEOのザオ氏は前回の取材からもArtistic(芸術家気質)でVisonary(先見の明のある)なイメージがあるのですが、西さんはどのような印象を受けましたか。​

アクシェイとはLinkedIn時代に会ったことがあるのですが、他のメンバーにはまだ直接は会えていません。インタビューはすべてオンラインで行いました。私の最終面接の面接官はアイバンでした。

アイバンはArtisticでVisionaryだと私も感じています。加えて、Dedication(献身)やSimple(簡素)といった言葉のイメージを持ちました。

Notion Labsのミッションは、それぞれのユーザーが自分向けのツールをNotion上で作ることによって、生活を良くしていけるようにすること。そして私のミッションは日本の企業や社会の生産性を高めることです。彼との面接では、「これまで自身のミッションを達成するために何をしてきたのか」ということをお互いが話し合いました。なのでDedicationという単語が、彼と話していて思い浮かびました。

アイバンとは京都についても話しました。京都の職人の技や気質などについてです。(編集部注:Notionは、一度事業に失敗したザオ氏と共同創業者のSimon Last(サイモン・ラスト)氏が、従業員をレイオフし再起を図るため、京都に滞在して開発したプロダクト)

アイバンを見ていると、京都の文化から強く影響を受けていると感じられます。無駄な装飾はプロダクトにも生活においても施さない。もし装飾がある時には特別な意味がある。そういった意味で、Simpleという言葉は彼にマッチしていると思います。

Notion Labsの文化はとても職人気質だと感じています。すべてのメンバーが一貫して、職人気質、アーティスト気質、圧倒的なクオリティを追求する気質を持ち合わせています。そして「こじんまりとしているな」とも感じます。チームの連携が密で、黙々と良い道具を作ろうとしている工房のような職場です。でも、やることが多いので、みんな非常に忙しそうにしています。

職人気質でとっつきにくそうな印象もあるかもしれませんが、実際には親しみやすく、暖かい会社です。

2021年中にNotionを“日本語化”

──ザオ氏を筆頭にNotion LabsのメンバーはSNSなどで自身のキャラクターのイラストを使っていますよね。これは強制的に使わされるものなのですか。

全然強制ではないですよ(笑)。入社するときに写真を送るとイラストがもらえるのですが、それをLinkedInやTwitterのアイコンにしないといけないというルールは全くないです。

私は自分のイラストを見たときに、キュートでクールだな、と思いました。「実際の自分と比較してイラストは随分と可愛らしい感じになったな」というのが第一印象でしたが、妻が「良い感じ」と言っていたこともあり、色々なSNSのアイコンに使っています。

私はイラスト自体がNotionのこだわっている世界観を体現していると感じています。日本第1号社員だったので、その世界観を伝えていく意図もあり、SNSのアイコンはイラストで統一しています。イラストはすべて当社のデザイナーたちが描いています。

多くのユーザーから「自分のキャラクターもほしい」と言われるので、何か対応を考える必要があるかもしれません。このイラストを使っているだけで、テック界隈の人たちからは「Notionの人だ」と認識されるので、嬉しく思っています。

──Notion Labsの日本第1号社員として何を担当されているのでしょうか。

基本的には営業とマーケティングが主な仕事の範囲です。ですが、日本には私1人しかいないため、ビジネスオペレーション全般を担当している状況です。

日本はNotion Labsにとって、とても重要な市場です。米国以外で営業担当を雇ったのは日本が初めてで、それが私です。Notionは英語のプロダクトなのに、日本にはすでに多くのユーザーがいて、コミュニティーも活発です。

日本において、Notionは個人だけではなく、あらゆる規模の企業において使われています。スタートアップであれば、全社でNotionを活用していることが多い。数万人規模のエンタープライズですと、社内の一部のチームが使っているといった状況です。

すでにユーザーが多いこと、そしてエンタープライズ向けのプロダクトにとって非常に大きな市場があること。この2つの理由から、日本はNotion Labsにとって重要な国なのです。加えて、アイバンは日本が好きです。京都の文化から多大な影響を受けていますしね。

新しくて品質が良いものが好きな人たちが多い国なので、我々は日本に高いポテンシャルを感じています。

──日本での今後のビジネスプランを教えてください。

ビジネスプランについては、2つの事項に特化して注力していきます。1つ目はローカリゼーション。2021年中にNotionを日本語化しようと考えています。

長く外資系企業で働いてきて感じたのは、製品のローカリゼーションはかなり複雑だということです。単に「日本語化しました」というのは良くなくて、プロダクトの世界観やトーンにこだわった日本語化をしていくのが重要です。

Notionを知る、使う、サポートを受ける。すべてのプロセスにおいてユーザーが自然だと感じられるローカリゼーションを意識して進めています。

2つ目はコミュニティです。Notionには世界中にコミュニティがあり、共に成長してきています。日本にも強力なコミュニティがあります。私は昨日も一昨日も、ユーザーが開催するミートアップに参加してきました。

私には、まだコミュニティにいない人をコミュニティの人たちと繋いだり、ミートアップ開催のサポートをしたり、必要な情報を提供したり、といった面で協力ができると考えています。コミュニティをサポートして、共に成長していくことが重要です。

「ローカリゼーションとコミュニティに注力」と言うと単純すぎると思われるかもしれませんが、今後色々と展開していく上で、土台づくりは非常に大事なのです。