資金調達やプロダクトのリリース、ファンド組成、人事異動──日々、さまざまな動きがあるスタートアップ業界。今週(1月31日から2月4日)はどんな動きがあったのだろうか。

いま、押さえておくべき「スタートアップ業界のニュース」をDIAMOND SIGNAL編集部が独自の視点からピックアップする。今週、注目したキーワードは「サステナブル」だ。

「脱炭素」に取り組むスタートアップが大型調達

核融合に挑む京都フュージョニアリングが総額20億円の資金調達

発電過程で二酸化炭素を排出しないカーボンニュートラル(炭素中立)の特長を持ち、エネルギー問題と環境問題を根本的に解決できる究極的な技術として注目されている「核融合」。近年、海外では“次世代のエネルギー”として大きな注目を集めており、米グーグルや米マイクロソフト共同創業者のビル・ゲイツ氏、米アマゾン・ドット・コム創業者のジェフ・ベゾス氏なども「核融合発電」に取り組むスタートアップに投資をしている。

海外スタートアップの多くは核融合炉の建設に取り組んでいる中、核融合炉の建設ではなく、核融合炉の基幹装置の販売に取り組んでいるのが京都発の核融合スタートアップ・京都フュージョニアリングだ。同社は2019年、核融合に関する研究開発を続けてきた京都大学の小西哲之教授らによって設立された。

京都フュージョニアリングは現在、核融合炉の加熱装置や熱取出し装置、核融合プラントエンジニアリングの技術開発、事業開発に取り組んでいる。

その開発スピードを高めるべく、2022年2月2日にCoral Capital、JICベンチャー・グロース・インベストメンツ、ジャフコ グループ、大和企業投資、DBJキャピタル、JGC MIRAI Innovation Fundの5社を引受先として、総額16.7億円の資金調達を実施した。

エクイティでの資金調達に加えて、京都銀行、三井住友銀行、三菱UFJ銀行などの国内大手金融機関と総額7億円の無担保融資契約も締結を進めている。

核融合開発は、日本、米国、英国、欧州、中国などの世界7カ国が参加している国際プロジェクトであるITER計画を中心に進められている一方、国家ごとの開発も進んでいる。2021年10月には英国でも「英国政府の核融合戦略」が発表され、日本政府も2022年夏までに核融合国家戦略を策定することを発表している。

今後、さらに開発が進んでいくであろう核融合技術。海外では巨額の資金がつぎ込まれる中で、日本のスタートアップはどのような存在感を示せるのだろうか。

企業のCO2排出量を可視化するbooost technologiesが総額12億円の資金調達

2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、いわゆる2050年カーボンニュートラル。この目標の達成に向けて、重要となるのがCO2排出量の削減だ。

2021年6月には東京証券取引所が「コーポレートガバナンス・コード」を改訂し、2022年4月4日以降、東証市場再編後のプライム市場上場会社に対して気候変動によるリスク情報(非財務情報)の開示を実質的に義務付けることを発表した。

カーボンニュートラルに関する情報開示が企業に求められるようになったこともあり、自社のCO2排出量を可視化するニーズが増えている。そんなニーズをくみとるサービスを展開しているのが、2015年設立のbooost technologiesだ。

同社はCO2排出量の「可視化」「計画策定」「予実管理・オフセット」「報告レポート」を簡単に行えるCO2排出量可視化・脱炭素化クラウド「ENERGY X GREEN」を提供しており、上場企業を中心に導入が進んでいる。

もともと、booost technologiesはCO2フリー電力などの調達や供給を可能とするクラウド型エネルギーマネジメントシステム 「ENERGY X」を展開していたが、2021年からエネルギー分野での専門性と知見を活かすかたちで、ENERGY X GREENも立ち上げた。

高まる企業からのニーズに応えるべく、booost technologiesは2月2日、グロービス・キャピタル・パートナーズ、東京大学エッジキャピタル(UTEC)、 NTTドコモ・ベンチャーズから総額12億円の資金調達を実施した。アライアンス・パートナーシップ構築のためのパートナーサクセス体制の強化、導入先のお客様に対する支援体制強化に向けた採用拡大のほか、業界ごとに最適化した機能や、可視化後の排出量削減のための機能拡充に取り組むという。

CO2排出量の可視化について、米サンフランシスコ発のシューズブランド「Allbirds」では、商品の製造から廃棄までにどれだけの二酸化炭素を排出するかを示す数値「カーボンフットプリント」を全商品に表示すると発表している。今後どれだけカーボンニュートラルの実現に貢献しているかどうか、で企業が選ばれる時代がやってきそうだ。

ジェネシア・ベンチャーズが約100億円規模のファンド組成、 ESG投資方針も策定

こうしたCO2の排出などがもたらす気候変動リスクへの対応、カーボンニュートラルの実現に向けた取り組みは何も起業家だけに限った話ではない。投資家にも求められている。

海外では、著名VCが気候変動や環境問題に特化したファンドを新たに立ち上げる動きも出てきており、日本でも先日、独立系ベンチャーキャピタルのANRIが気候変動や環境問題に特化した新ファンド「ANRI GREEN 1号」を立ち上げたほか、元ゴールドマン・サックスのキャシー松井氏らもESG重視型ファンド「MPower Partners Fund L.P.」を立ち上げた。

こうしたファンド組成もそうだが、今後はベンチャーキャピタルが投資をするにあたって、気候変動や環境問題に配慮しているかどうかも求められる流れになっている。

日本と東南アジアのプレシード/シード期のスタートアップへ投資を行うジェネシア・ベンチャーズも、1月31日に新ファンド「Genesia Venture Fund3号投資事業有限責任組合」の一次募集が総額約100億円規模で完了したことと同時に PRI(責任投資原則)への署名を実施。それに合わせてESG投資方針も策定している。

ジェネシア・ベンチャーズの新ファンドにはオリエンタルランド・イノベーションズ、キャナルベンチャーズが運営するCVCF2投資事業有限責任組合、グリー、産業革新投資機構、みずほキャピタル株式会社、みずほ銀行のほか非公開の国内機関投資家が出資している。なお、最終的には総額150億円でのファンド組成を目指す予定だという。

その他のスタートアップニュース

タレントマネジメントシステムのHRBrain、18億円の資金調達

さまざまな人事にまつわる業務をクラウドで一元化するタレントマネジメントシステム「HRBrain」を展開するHR Brainは2月2日、Seiga Asset Management、Eight Roads Ventures Japan、第一生命保険、みずほキャピタルを引受先とした16億円の第三者割当増資、2億円のデットファイナンスを合わせて総額18億円の資金調達を実施した。

植物肉スタートアップのDAIZ、30億円の資金調達

発芽大豆由来の植物肉「ミラクルミート」を開発・生産するDAIZは2月1日、日清食品ホールディングス、丸井グループ、三菱ケミカルホールディングスなどの事業会社6社、インベストメントLab、三井住友海上キャピタル、グローバル・ブレインなどの金融投資家4社を引受先とした第三者割当増資によって、総額30億円の資金調達を実施した。

メタバース領域のmonoAIが7.5億円の資金調達

バーチャル空間プラットフォーム「XR CLOUD」を展開するmonoAI technologyは1月31日、Sony Innovation Fund、GMCM VENTURES PTE. LTD.、きらぼしキャピタル夢・はばたき1号投資事業有限責任組合、アドウェイズ、イグニス、個人投資家を引受先とした総額7.5億円の資金調達を実施した。

美容医療の口コミ・予約アプリ「トリビュー」が10億円の資金調達

美容医療の口コミ・予約アプリ「トリビュー」を運営するトリビューは2月1日、ニッセイ・キャピタル、KDDI Open Innovation Fund、W ventures、三菱UFJキャピタルなどから総額10億円の調達を実施した。

アカツキ、50億円規模の新ファンド「Dawn Capital」を組成

2018年に、起業家への投資・支援、アーティスト・クリエイターなどの多様な才能への投資、他企業とのコラボレーションなど幅広い投資を目的にしたファンド「Heart Driven Fund」を組成したアカツキ。同社は1月31日、スタートアップ企業への投資を更に拡大するため、新ファンド「Dawn Capital」を設立した。

テレビCMを科学するサイカが37億円の資金調達

広告効果分析ツール「MAGELLAN(マゼラン)」、成果報酬型テレビCM広告代理事業「ADVA(アドバ)」を展開するサイカは2月2日、シニフィアンとみずほキャピタルが共同で運営するTHE FUND、Yamauchi-No. 10 Family Officeと社名非公開の海外機関投資家から総額37億円の資金調達を実施した。

リモートワーク事業のキャスターが約13億円の資金調達

オンラインアシスタントサービス「CASTER BIZ(キャスタービズ)」をはじめとするリモートワーク中心の人材事業を展開するキャスターは2月2日、インキュベイトファンド、グリーンコインベストメント、AXIOM ASIA Private Capital、UNICORN2号ファンド(山口キャピタルが運用)、第一生命保険から総額約13億円の資金調達を実施した。