ネットプロテクションズ代表取締役の柴田紳氏
  • カタログ通販に学んだBNPLの仕組み
  • 未払いリスクを最小化し利益を上げる、運用ハードルの高さ

提供会社の上場や買収が相次ぎ、注目の集まる「BNPL」。これは「Buy Now, Pay Later」の略で、文字通り「今買って、後で支払う」後払い式の決済手段のことだ。本連載では日本や世界を取り巻くBNPLの現在について、ネットプロテクションズ代表取締役の柴田紳氏が計3回にわたって解説する。第1回となる本稿では、ネットプロテクションズ創業の経緯と登場当初のBNPLビジネスの状況について振り返る。

BNPLは今、EC(Electronic Commerce)などにおけるクレジットカードに代わる決済方法として、世界中で注目を集めています。BNPLのサービスでは、決済するユーザー(購入者)からは手数料は取らず、ECサイトなどの事業者から手数料を取るのが一般的です。その上で商品を受け取ってから支払いができるので、世界中のユーザーから高い支持を得ています。

BNPLの大手ベンダーとしてはスウェーデンのKlarna、米国のAffirm、オーストラリアのAfter Payなどがあります。これらの企業は自国だけでなく他国にもサービスを展開しており、2010年代後半から決済取扱高が急激に増えている。

欧米の話題が先行するBNPL市場ですが、日本でも2000年台からサービスが始まっていました。2000年創業のネットプロテクションズがBNPLのサービスを開始したのは2002年。前述のKlarnaが設立された2005年よりも前のことです。

ネットプロテクションズが作成したBNPLカオスマップ 各社ロゴや展開地域などは2020年時点での情報

カタログ通販に学んだBNPLの仕組み

私は、1998年に一橋大学卒業後、日商岩井(現:双日)に入社し、2001年には日商岩井系のIT関連投資会社であるITXに転職しました。ITXではECが今後拡大すると予測し、それとともにEC向け決済のビジネス拡大も期待できることから、2001年11月に後払い決済を行おうとしていたネットプロテクションズを買収しました。この買収に関わり、出向というかたちでネットプロテクションズに入社しました。

しかし実際に入社してみると、想像とは異なる状況が広がっていました。サービスの大枠はすでにできていると聞かされていたにも関わらず、構想から何から、まったく存在していなかったのです。そこで、後払いとはどういうスキームなのか、誰にどんな価値を提供するものかを考え、後払い決済の全てのサービスをゼロから作ることになりました。

当時は参考になるような、先行のBNPLビジネスはグローバルにもありませんでした。そのため、まずはクレジットカードのスキームについて学び、その上でカタログ通販のビジネスモデルに注目しました。カタログ通販では、ユーザーがカタログを見て商品を注文すると、商品と一緒に請求書が届きます。商品を受け取った後に支払いをするこの仕組みは、まさに「後払い」だったのです。

参画から4カ月後の2002年3月には、早くもテストサービスの形でBtoC通販向け決済「NP後払い」の提供を開始しました。後払いのサービス自体は提供できましたが、この時点でもまだ、このビジネスがうまくいくとは思っていませんでした。

当時の私には金融の知識もなければ、会社経営の経験もありませんでした。その中で後払いという新しい仕組みを作り社会に提供する。何もかも手探りでやるしかなく、自信はまったくなかったのです。大手商社からの転職。失敗すればそれまでのキャリアが失墜する恐怖感もありましたが、とにかく前向きに進めることだけを考えました。

実際に提供を開始してみると、利用してもらうショップの開拓には当初苦労しましたが、一旦事業者に導入してもらえれば、購入者であるユーザーはすぐに使ってくれました。導入したEC店舗によっては、決済手段の2、3割をNP後払いが占めるケースも出てきたのです。この結果を見て、少なくともユーザー側にはニーズがあるという手応えを得ることができました。

2001年頃は日本のECの勃興期であり、EC市場は年々大きく拡大していました。当初のECサイトにおける決済手段の多くは、振り込みやクレジットカードによる前払いでした。ECサイトが増え、前払いでの決済が増加すれば、「代金は支払ったけれど商品が届かない」「届いたものが画像と違う」といったトラブルが発生し、社会問題にすらなっていました。また購入者に代金を振り込ませて商品を送らない、詐欺も発生します。後払いは、トラブルを回避したい購入者のニーズに応えることができていたのです。

ユーザーにニーズのあるBNPLは、今後間違いなく伸びると確信しました。しかし利用が拡大しても、ビジネスとして成立させるためのハードルはかなり高いものでした。ユーザーの利用が増えれば支払いが滞ったり、商品だけを受け取る詐欺なども増えたりします。ユーザーの未払い率をきちんとコントロールした上で、サービス提供者として利益を上げなければなりません。その実現方法が分からず、当時は眠れない日々が続きました。

未払いリスクを最小化し利益を上げる、運用ハードルの高さ

ビジネスモデルとして参考にしたカタログ通販とBNPLのサービスには大きく異なる点があります。カタログ通販においては、カタログ通販事業者が商品販売も決済手段の提供も行っています。そのためカタログ通販事業者は、未払いのリスクを自社の中である程度容易にコントロールすることができます。たとえば、詐欺被害の発生する恐れがある商材があれば、それを自社内の判断のみでカタログから外すことができるのです。

対して決済手段だけを提供するBNPLのビジネスモデルでは、取り扱う商品の選定はあくまで販売するEC店舗が行います。つまりBNPL事業者のみで、未払いリスクのコントロールを完結させることができないのです。

そうした構造の中、購買力のあるEC店舗はBNPL事業者に対して、手数料の値下げなど、さまざまな要求をしてきます。さらには未払いリスクの考慮に加えて、ユーザーの利便性の向上にも務めなければなりません。これら多くの要求のバランスを取りながら、ビジネスのボリュームを拡大しリスクも減らす。その正解が見つからない中、手探りの事業推進が続きました。

リスクが増えることを承知で、ネットプロテクションズではビジネス拡大のために、当面はNP後払いを採用してくれるECサイトの獲得に注力しました。採用してくれるECショップが増えれば、運用は大変になります。そのため運用負荷を軽減しリスクを最小化するための仕組み作りを、並行して行いました。これを苦労しながら続け、黒字化したのが2008年でした。

サービス開始当初から資金調達をしてマーケティングプロモーションなどに投資していれば、もっと早くに規模を拡大し、黒字化できたかもしれません。しかしながら資本構造上それはできなかったので、地道な改善と成長を続けました。結果的にリスクを最小化するための運用ノウハウが蓄積され、ユーザーや事業者の拡大にも耐えられる土台を作ることができました。

その後は大企業にも徐々にNP後払いが普及し、認知も向上しました。2014年頃からは国内にも競合サービスが登場し始めることになりましたが、2010年度の決済取扱高は約240億円まで成長し、2015年度には1000億円を超えました。さらに2020年度には約4300億円まで拡大するに至りました。