Luupが2月に発表した新しい電動キックボード
Luupが2月に発表した新しい電動キックボード
  • 誤差はわずか数センチ、衛星活用の測位サービス導入へ
  • 海外ではすでに「歩道侵入で即走行不可」の事例も
  • 新機体の導入で「違反機体ではない」ことを明確化
  • 韓国のプレーヤーも日本市場参入へ

日本でも普及が進む電動キックボードだが、ユーザーによる交通違反や事故も目立つ。警視庁によると、2021年に東京都内で電動キックボードの無免許運転などの検挙や、指導や報告を受けたケースは207件にのぼる。そのうち55件はシェアリングサービスのユーザー、152件は個人所有のユーザーだった。

交通違反や事故の増加を受け、東京都内を中心に電動キックボードのシェアリングサービス「LUUP」を展開するスタートアップのLuupでは、安全対策を強化している。2022年1月には衛星システムを活用した実証実験をスタートした。同様の取り組みは海外で先行しており、機体の正確な位置情報を把握することで、「歩道ではストップ」「危険エリアではスピードダウン」といった遠隔操作が可能となる。

そして2月にはユーザーの安全性を高めた新機体も発表。カラーが黒色ベースにミントグリーンのアクセントが入ったものから、白とミントグリーンの明るいものに変更された。これには夜間の視認性向上のほか、個人所有の電動キックボードとの視覚的な差別化を図る狙いもある。シェアリングサービスと所有ではヘルメットの着用義務や必要な保安部品といった交通ルールが異なるが、警察官の誤認により、適法に走行していたLuupユーザーが指導を受けるケースもあったからだ。

韓国のプレーヤーも2022年中に日本市場へと参入することを表明しており、今後は以前にも増してより多くの電動キックボードを街中で見かけることとなるだろう。その上で最重要となるのはユーザーや市民の安全性だ。Luup代表取締役の岡井大輝氏は「電動キックボードだからこそできる、テクノロジーを活用した安全施策もある」と語る。

誤差はわずか数センチ、衛星活用の測位サービス導入へ

Luupではアプリで初回ユーザーに交通ルールのテストを実施したり、「歩道走行や逆走は違反」と利用者ごとに通知することで、安全運転を促している。違反ユーザーはアカウントを永久凍結するほか、安全講習会も開催している。だが、安全面においては現状、ユーザーの自覚に頼る部分が大きい。そこでLuupでは遠隔操作による違反走行や交通事故の未然防止も視野に入れ、1月から日本の準天頂衛星システム「みちびき」を活用した実証実験を開始した。

これまでLuupは米国のGPS衛星を使用し、機体の位置を取得してきた。だが、GPSの測位誤差は数メートル程度。機体が走行しているのが車道なのか歩道なのかといった区別は難しい。そこで目をつけたのが、みちびきを活用し、高精度な衛星測位を行う「サブメータ級測位補強サービス」だ。「みちびきでは機能を制限する代わりに日本での精度を上げている」(岡井氏)ため、測位誤差を数センチメートル程度にまで抑えられるという。

具体的にはサブメータ級測位補強サービスの利用に必要な受信機「QZ1」を実証実験用の機体に装着。QZ1を装着した機体は1月より都内を走行し、位置情報測位データを収集している。3月からは走行データの分析を行い、走行箇所判定の精度を検証していく計画だ。機体の正確な走行位置を把握することで「スピードを強制的に制限することも可能となる」と岡井氏は言う。

「事故が頻発する交差点に進入するであろうユーザーに対して、直前に『気をつけてください』『その交差点では多くの事故が発生しています』といったアラートを出すこともできるようになります」(岡井氏)

海外ではすでに「歩道侵入で即走行不可」の事例も

同様の取り組みは海外で先行している。電動キックボードシェアの世界最大手である米BIRDは2021年10月、高精度測位サービスを展開するスイスのu-bloxと共同で、センチメートル級の精度を持つ歩道検知技術、「Smart Sidewalk Protection」を発表した。

BIRDとu-bloxでは人工衛星を利用した位置情報(GNSS)、車載センサー、高精度マップを組み合わせ、機体が歩道に進入するとユーザーに警告が届き、走行できなくなる仕組みを実現した。2021年にはウィスコンシン州・ミルウォーキーやカリフォルニア州・サンディエゴなど、米国の一部地域でテストを実施。2022年にはより広く展開していく。

また電動キックボードシェア「LINK」を展開する米スタートアップ・Superpedestrianも、「Pedestrian Defense」という安全システムの本格導入に向けて動いている。Pedestrian Defenceでは精密な位置情報をもとに、歩行走行や逆走といった違反走行をリアルタイムに検知し、機体を制御する。同社ではPedestrian Defenseに対応した新たな機体を開発し、2022年中に米国と欧州の25都市に展開することを目指している。

新機体の導入で「違反機体ではない」ことを明確化

Luupが2月に発表した新機体では、故障リスクの軽減を目的にナンバープレートの位置を上げたほか、自立時の安定性のためにスタンドも変更した。そして何より目に付くのは黒基調から明るいカラーへの変更だ。これには前述のとおり、夜間での視認性向上のほか、「違反機体ではない」ことをより明確にするという意図がある。

Luupなどのシェア事業者が特例として適用されている小型特殊自動車と一般の電動キックボードが分類される原動機付自転車では、ヘルメットの着用義務や必要な保安部品に関するルールが異なるため、ユーザーだけでなく、違反を取り締まる警察官も混乱している状況、と岡井氏は話す。

「(Luupが展開する)適法な機体に乗っているのにも関わらず、遠方から警察官に注意されるといったケースが多発しています。そのため、遠目で見てもLUUPの機体だと分かりやすいデザインに変更しました」(岡井氏)

韓国のプレーヤーも日本市場参入へ

警視庁はこれまで「多様な交通主体の交通ルール等の在り方に関する有識者検討会」において、電動キックボードや自動配送ロボットなど多様な交通主体が登場していることを受け、今後の交通ルールの在り方を検討してきた。

同有識者会議が2021年12月に出した最終報告書では、時速20キロメートルまでの電動キックボードを「小型低速車」として扱う。その場合、時速20キロメートル以下の電動キックボードについては、16歳以上の場合、運転免許は不要となる。警察庁は2022年の通常国会に、道路交通法の改正案を提出する見通しだ。

運転免許が不要となれば、LUUPなどのシェアサービスを利用するユーザーは急増するだろう。だが、それは道路交通法を熟知しないユーザーの増加も意味する。

米ウェブメディア「TechCrunch」が報じたところによると、韓国の電動キックボードシェア事業者「Swing」が2022年中にも日本市場への参入を目指している。また業界関係者によると、2023年以降に日本市場への参入を目指す海外プレーヤーも存在する。

電動キックボードの社会実装が本格化する中、各事業者は真に安全なサービスのあり方を問われている。

時期は未定だが、Luupは最終的にはすべての電動キックボードを遠隔操作可能にしていく計画だ。同社では2023年には高齢者も乗れる機体の展開を目指すが、安全性を担保する上で、遠隔操作ができなければ「その社会実装には踏み切れない」と岡井氏は述べた。