「Camel」は複数のデリバリーサービスの注文を1台のタブレットで一元管理できる
「Camel」は複数のデリバリーサービスの注文を1台のタブレットで一元管理できる
  • 飲食店の悩みのタネになってきた「タブレット問題」
  • 海外ではビジョン・ファンドも出資、複数のスタートアップが参入
  • 「クイックコマース」の拡大でフード以外の領域にもチャンス

消費者にとっても、飲食店にとっても当たり前の選択肢になり始めている「フードデリバリー」。2016年9月に東京からスタートしたUber Eatsはコロナ禍を背景に急成長し、すでに全都道府県でサービスを展開。2022年1月に日本での登録店舗数が15万店を突破した。日本発のサービスでは出前館の加盟店も10万点を超える規模になった。

フードデリバリー市場が急速に拡大する一方で、食事を提供する飲食店には新たな課題が生まれている。「タブレット地獄」がまさにその代表例だ。

飲食店はデリバリーサービスの注文をタブレット端末で受注するが、通常は対応するサービスの数だけ端末が必要になる。つまりサービスの数が増えるほど、店舗のキッチンに設置される端末も増えていく。特に「ゴーストレストラン」など1つの拠点で複数のブランドを展開するような場合には端末数が膨大な数になるため、タブレット地獄と言われるような事態になるわけだ。

デリバリーサービスの普及にともない、こうした飲食店の新たな課題を解消することを目指したサービスも国内外で増えつつある。日本のtacomsが2021年5月に正式ローンチした注文一元管理サービス「Camel」もその1つで、約1年半で累計250社・5500店舗に活用されるまでになった。

tacomsでは組織体制の拡充やプロダクト開発の強化に向けて、XTech VenturesとANRIよりシリーズAラウンドで3億円の資金調達を実施。2022年中に現在の約3倍となる50名規模まで組織を拡大し、事業をさらに加速させる計画だ。

飲食店の悩みのタネになってきた「タブレット問題」

複数のデリバリーブランドを展開する店舗ではタブレット端末の数が膨大な数になることもある
複数のデリバリーブランドを展開する店舗ではタブレット端末の数が膨大な数になることもある

Camelはさまざまなデリバリーサービスからの注文を“1台のタブレット”で一括受注できるシステムだ。

複数の端末を使い分ける必要がないため、店舗側の注文管理にまつわる業務負荷を抑えられるのが特徴。店舗のPOSなどと連携することでハンディ端末への注文情報の再入力など細かい業務をなくせるほか、デリバリー経由での売上を分析するためのツールとしても使える。

tacoms代表取締役社長の宮本晴太氏によると、飲食店の悩みのタネになっているのが「タブレット端末の数の問題」と「POSとの連携」だ。

導入するタブレット端末が多くなるほど店舗のスペースを圧迫する上、サービスごとに異なる操作方法を覚えなければならない。注文状況の管理はもちろんのこと、メニューの登録や更新作業も各端末ごとで必要になるため、その分だけ負担が増える。

「本当は顧客接点を増やすために複数のデリバリーサービスを導入したいものの、(タブレットが)足かせとなっているという店舗も多いです」(宮本氏)

POSについても同様だ。とある飲食店の現場では、デリバリーサービスから注文が入った際に「店舗のPOSに手打ちで注文を入力し直す」ということをやっているそう。大手の事業者では1店舗あたりで扱う注文が多かったり、店舗数自体が多かったりするためその負荷が大きい。そのためPOSと連携して、このような業務を自動化できる仕組みにはニーズがあるという。

宮本氏は現在も東京大学に在学中の起業家で、2019年にtacomsを立ち上げた。

当初は同年代の学生をターゲットにしたデリバリーサービスを開発していたが、飲食店に話を聞く中で行き着いたのがタブレット問題だ。そこから事業の方向性を変え、試しに簡単なデモとサービス資料をさまざまな飲食店に送ってみた。すると大手チェーン店なども含めて複数社から「そこで困っていた」という反応があったため、本格的にCAMELの開発を始めた。

今では個人店から1000店舗以上を展開する大手チェーンまで、累計で約250社が同サービスを導入する。

海外ではビジョン・ファンドも出資、複数のスタートアップが参入

上述したとおり、CAMELのように飲食店のデリバリー関連の課題を解決するサービスは国内外で増えている。

海外ではソフトバンク・ビジョン・ファンドなどが投資をするOrdermarkや、先日1.5億ドルを調達したばかりのDeliverectなどが代表格。Deliverectはベルギー発のスタートアップで、同じような事業者がさまざまな地域で生まれ始めている。日本でもOrderlyやOrdeeなどすでに複数のサービスが存在する状況だ。

tacomsでは比較的早い段階からこの領域で事業を始め、連携するパートナーの数や顧客サポート体制を充実させながら事業を広げてきた。

「パートナーの数」は顧客にとって1番わかりやすい価値だ。現在CAMELはUber EatsやDiDi Food、menuなど9つのデリバリー・テイクアウトサービスと連携している。CAMEL上で管理できるサービスが増えるほど顧客にとっての利便性も上がるため、POS事業会社なども含めてパートナー数の拡大は今後の注力ポイントになるという。

また宮本氏が勝ち筋に挙げるのが「サービスラインナップの拡充」だ。今後は注文の一元管理に留まらず、「デリバリーオペレーション全体を支援できるようなサービス」への進化を目指す。

「今は注文の管理とPOS管理しか対応できていませんが、デリバリーの一連のオペレーションにまだまだ他の課題も存在します。(デリバリー事業は)きちんとやればパワフルだけど、それらの課題を解決する十分なソリューションはまだありません。tacomsとしてはサービスの幅を広げ、デリバリー業務のオールインワンパッケージを目指していきます」(宮本氏)

その取り組みの一環としてモバイルオーダー受け取りロッカー「ピックアップドア」を展開する寺岡精工と協業し、4月からサービス連携を始める計画だ。

この連携により、飲食店はCamelで受注した注文を専用のロッカーを通じて配達員へとスムーズに受け渡せるようになる。これまではデリバリー配達員とテイクアウト受け取り客、店内飲食客が混在してしまってレジ周辺が混雑したり、配達員が到着するたびに受渡し作業が発生して時間を取られてしまったりといった課題があった。

「クイックコマース」の拡大でフード以外の領域にもチャンス

tacoms代表取締役社長の宮本晴太氏
tacoms代表取締役社長の宮本晴太氏

宮本氏は小売事業者などと話をする中で、デリバリーに関しては飲食店と同じような課題が他の業界でも存在することを感じたという。tacomsでは将来的に飲食以外の領域への事業展開も見据えており、小売市場で製品を展開する寺岡精工と協業した背景にはそのような狙いもある。

近年はデリバリーサービスのフード領域以外への拡張が進む。Uber Eatsを例に出すと日本でもローソンやコストコ、ドラッグストアなど飲食店以外との取り組みを強化。2021年11月には食品・日用品専門店の「Uber Eats Market」をスタートした。

Uber Eats Marketのような形態のサービスは、国内外で徐々に盛り上がり始めている「クイックコマース」にも大きく関連する。クイックコマースとはいわゆる「スマホから注文すれば15〜30分ほどでさまざまな商品を届けてくれる」サービスのことで、海外ではGopuffやGorillasを筆頭に複数のユニコーンが誕生している。

日本でもQuickGetやOniGOのようにスタートアップが手掛けるサービスに加え、Zホールディングスが「Yahoo!マート by ASKUL」を通じて食料品や日用品のクイックコマースを本格的にスタートするなど、大手企業の動きも見逃せない。

飲食に限らずさまざまな領域にデリバリーサービスが浸透していけば、tacomsのようにその裏側を支えるプレーヤーにとってもチャンスが広がっていきそうだ。