HERO Impact CapitalのGeneral Partnerを務める渡邊拓氏
HERO Impact CapitalのGeneral Partnerを務める渡邊拓氏

脱炭素や超高齢社会への対応策といった地球規模の課題を解決する上で、熱量を持った“若い研究者”こそがキーパーソンになる──。そのような考えから、若手研究者が創業する研究開発型スタートアップの支援に注力することを目指したベンチャーキャピタルが新たに誕生した。

名前はHERO Impact Capital。1号ファンドは総額30億円規模を予定しており、主に創業期の研究開発型スタートアップに対して数千万円〜1億円程度を出資する。テーマとなるのは「脱炭素」や「超高齢社会」を中心とした地球課題の解決。AIやロボティクス、バイオなどの領域で独自の研究に取り組む人材を、会社の創業時から支援する。

HERO Impact Capitalを立ち上げた渡邊拓氏は京都府出身の29歳。2017年にAI特化型のVCであるディープコアに参画し、20社以上の研究開発型のスタートアップへの投資や支援に携わってきた。今回HERO Impact Capitalには渡邊氏の前職であるディープコアのほか、Mistletoe Venture PartnersがLPとして出資している。

渡邊氏がVCに興味を持つようになったのは大学生の頃だ。慶應義塾大学在学中にNPO法人AIESEC JAPAN(アイセック・ジャパン)で代表を務めたが、同世代のメンバーから続々と起業家が生まれた。

渡邊氏自身は、どちらかというとそういった起業家や研究者をサポートすることにより強い関心を持っていたそう。もともと資産の一部を若手研究者に寄付する活動を個人でしていたこともあり、こうした取り組みをさらに大きな規模でやるための方法を模索していた。そんな時に、知人の紹介で独立系VCのEast Venturesと出会ったことが1つの転換点となった。

「研究者への寄付を通じて、新しいサイエンスとテクノロジーの力が世界を変えていくのだと感じましたし、そこに対するリスペクトの気持ちが強くなりました。その上でどのようなエコシステムを作れれば世界がもっと良くなるのか。それを考えていた時にEast Venturesと出会ったんです」(渡邊氏)

East Venturesでのアルバイトを通じてVCの仕事の面白さと同時に、VC自体も成長産業であることを知った。そこからVCとしてのキャリアを志し、現在に至るのだという。

近年は国内外でもディープテック系のスタートアップへの投資が盛り上がり始めている。特に脱炭素や気候変動領域はその代表格で、領域特化型のファンドも生まれてきた。

一方で資金の供給量が増えても、一気に研究畑出身の起業家が増えるとは限らない。そのギャップを埋める可能性を持っているのが若い研究者であり、「エクイティファイナンス」という仕組みを活用しながら、彼ら彼女らが起業に挑戦しやすくなる環境を作るのがHERO Impact Capitalの1つの役割でもある。

「この数年、研究開発型スタートアップへの投資をやってきた中で、創業前の支援がすごく重要だなと感じました。特に『アカデミックな観点での良い研究』ではなく、『社会実装や事業としてインパクトを作る上での良い研究』とは何かを一緒にデザインしていくことに大きな価値がある。そこをシードラウンドのVCとして支援していきます」(渡邊氏)

HERO Impact Capitalでの活動は、渡邊氏のこれまでの活動の集大成のようなものになる。若い研究者に資金を提供し、会社を立ち上げる前後から一緒にチャレンジをする。加えて若手研究者へ寄付をする財団や、投資先をハンズオン支援する研究所を設ける計画。この財団にはファンド運営の成功報酬の一部を分配することで、次世代の研究者へ資金が循環する仕組みを作っていきたいという。

「これまでを振り返っても、若い研究者が新しい科学技術の未来を作ってきたと考えています。地球課題を解決する方法にはいろいろなアプローチがありますが、自分たちとしては若い研究者にフォーカスをして、地球課題と資本が重なる点を作っていくことでインパクトを出していきたいと思っています」(渡邊氏)