
- FIP制度により、電力系スタートアップに注目が集まる
- 京大発のスタートアップが「歯の再生治療薬」を開発
- その他のスタートアップニュース
温室効果ガス(GHG)の排出を全体としてゼロにする──いわゆるカーボンニュートラルの実現に向けて、CO2を排出しない再生可能エネルギーの導入など、世界各国でエネルギー産業が大きく変化し始めている。
そうした流れを受け、日本でも2022年4月に売電価格に対して一定のプレミアム(補助額)を上乗せする「FIP(フィード・イン・プレミアム)制度」が開始される予定だ。約1カ月後にFIP制度が始まることもあってか、今週(3月5日から11日)は電力系のスタートアップの資金調達、新サービスリリースなどの発表が目立った。
いま、押さえておくべき「スタートアップ業界のニュース」をDIAMOND SIGNAL編集部が独自の視点からピックアップしてお伝えする連載「スタートアップ最新動向-Weekly SIGNAL」。今週は電力系スタートアップの動きのほか、歯の再生治療薬を開発したスタートアップの動きを取り上げた。
FIP制度により、電力系スタートアップに注目が集まる
脱炭素やカーボンニュートラルといった言葉とともに、頻繁に耳にするようになった、CO2を排出しない再生可能エネルギー。日本では再生可能エネルギーの導入を促すため、2012年に再生可能エネルギーの設備から発電された電気を、電力会社があらかじめ決められた価格で買い取る「FIT(フィード・イン・タリフ)制度」を開始した。
この制度によって太陽光発電などの普及が進んだ一方、発電した電気は常に固定の価格で買い取ってもらえるため、需給のバランスを意識する必要がなく、結果的に発電事業者の間で競争が起きずにいた。
2022年4月にスタートするFIP制度は、再生可能エネルギー発電事業者が発電した電気を卸電力取引市場や相対取引で売電をした場合、基準価格(FIP価格)と市場価格の差額をプレミアム額(補助金)をつける、というもの。卸電力取引市場で取引をし、再生可能エネルギーで発電された電力にプレミアム額をプラスすることで、再生可能エネルギー発電事業者に対して投資インセンティブを提供する。
Looop、独自の固定買取価格サービスを開始
FIP制度は電力需給に応じて変動する市場価格を意識し、市場価格が高いときに売電をすることで収益を拡大できる一方、時間帯や季節による市場変動、長期の気候変動や長期的な市場価格の下落などで投資回収の予見性を損なうことも懸念されていた。
そうしたデメリットも踏まえ、再生可能エネルギーを中心としたエネルギーサービスを手がけるLooopは3月8日、FIP認定を受けた発電所から電力と環境価値を固定価格で購入するサービス「Looop FITプレミアム」を全国(沖縄と離島を除く)で開始することを発表した。
同サービスは、LooopがFIP基準価格や従来のFIT認定価格よりも高い固定価格で、発電事業者から電力および環境価値を一定期間にわたって買い取るというもの。発電所の建設を検討中の法人や個人、すでに売電を開始している発電所所有者などを対象にサービスを提供していくそうで、想定買取価格は各取引先との相対契約になるという。
再エネ&蓄電池の運用管理を手がけるTensor Energyが7000万円の資金調達
また、再生可能エネルギー開発業者と発電事業者向けに、FITやFIP、その他の相対契約に対応したアセットポートフォリオのマネジメント、AIによる発電予測と電力取引市場の予測、オペレーションの自動化、経済性と環境価値の可視化を行う、オーケストレーションプラットフォームの開発を手がけているのがTensor Enegyだ。
同社は3月8日、ジェネシア・ベンチャーズから7000万円の資金調達を実施したことを発表した。調達した資金をもとに開発を進め、2022年末にベータ版の公開を目指す。
また、2023年以降に急増すると予想されるFIP電源アセットの稼働に向けて、再エネのオペレーションの自動化、リスク管理、蓄電システム連携といった機能もベータ版の公開後に順次リリースしていく予定だという。
電力卸売のエナジーグリッドが18億円の資金調達
旧一般電力電気事業者や商社から、電力をまとまったボリューム(10MW~50MW)で調達し、新電力会社に小分け(0.1MW~5MW程度)にして販売する“電力卸売”を展開するエナジーグリッドは3月7日、ファミリーオフィスや個人の資産家などを引受先とするプライベート・デットによって、約18億円の資金調達を実施したことを発表した。
京大発のスタートアップが「歯の再生治療薬」を開発
無歯顎(歯が一本もない状態のこと)の治療法として、一般的に知られているのは義歯やインプラントの人工歯だ。そうした中、骨形成たんぱく質であるBMPなどの働きを阻害する分子を発見し、その分子を抑制する抗体を開発したのがトレジェムバイオファーマだ。同社は京都大学大学院医学研究科 口腔外科学分野の髙橋克氏の研究結果にもとづき、2020年5月に設立された歯の再生を促す新規医薬品を開発するスタートアップ。
前出した抗体は無歯症モデル動物で欠損歯が回復する効果は確認しており、現在は先天性無歯症を最初の適応疾患として、研究開発を進めている。先天性無歯症は患者が未成年で顎骨が発達期にあるため義歯やインプラントの適用が困難であり、成人するまで根治的な治療法がなかった。しかし、トレジェムバイオファーマの開発した抗体によって、先天性無歯症患者の自己歯を再生させることも可能となる。

治療薬の開発、臨床試験(治験)の前段階の安全性試験に乗り出すべく、同社は3月8日、京都大学イノベーションキャピタル、Astellas Venture Management、Gemseki、フューチャーベンチャーキャピタル、京信ソーシャルキャピタル、京都市スタートアップ支援2号ファンドから総額4億5000万円の資金調達を実施したことを発表した。
抗体は永久歯の後の第三生歯を発生させることも期待されており、将来的には高齢者のオーラルフレイル(口腔内の虚弱)改善まで展開していく見込みだという。
その他のスタートアップニュース
TieUps、総額1億円の資金調達を実施
プロフィールサイト「lit.link」、コミュニティSNS「WeClip」の開発・運営をするTieUpsは3月7日、Headline Asia、ANOBAKA、吉川徹氏(マイベスト代表取締役)からJ-KISS型新株予約権の発行によって、デットファイナンスと合わせて、総額1億円の資金調達を実施したことを発表した。
alma、総額約1.3億円の資金調達を実施
世界中のデザインプロセスとデザインチームが集まるプラットフォーム「Cocoda(ココダ)」などを運営するalma(アルマ)は3月7日、複数のエンジェル投資家から総額約1.3億円の資金調達を実施したことを発表した。
ZIZAI、DMMグループへ参画し新会社を設立
パチンコ業界に特化した総合プラットフォーム「スロパチステーション」などを運営するZIZAIは3月8日、発行済全株式をDMM.comに譲渡し、DMMグループに参画したことを発表した。なお、Youtubeチャンネルを運営する動画事業に関しては、新会社・MEDIXに承継させている。
G.U.テクノロジーズ、2億6000万円の追加資金調達を実施
ブロックチェーン関連スタートアップのG.U.テクノロジーズは3月8日、Coral Capital、自然キャピタルから2億6000万円の追加資金調達を実施し、プレシリーズAラウンドで総額3億6100万円の資金調達を完了したことを発表した。
ElevationSpace、約3.1億円の資金調達を実施
宇宙環境利用プラットフォームを開発する東北大学発ベンチャー・ElevationSpaceは3月9日、ジェネシア・ベンチャーズ、みらい創造機構、MAKOTOキャピタル、リバネスキャピタル、東北大学ベンチャーパートナーズ、Plug and Play Japanから約3.1億円の資金調達を実施したことを発表した。
collEco、約7000万円の資金調達を実施
ファッションレンタルサービス「collEco(コレコ)」を運営するcollEcoは3月9日、W ventures、AAファンド、mint、iFund、児玉昇司氏(ラクサス・テクノロジーズ代表取締役)、片石貴展氏(yutori代表取締役)などから約7000万円の資金調達を実施したことを発表した。