
- なぜ東証は市場を再編するのか
- 新しい東証の市場区分、成長企業は「プライム」に
- 既存上場会社はどの市場に移行するのか
東京証券取引所(東証)の市場区分が4月4日に再編される。スタートアップにはなじみの深い新興市場「マザーズ市場」という区名称もなくなることになるが、この見直しはどういう背景で行われるのか。再編まで1カ月を切った今、あらためて状況を解説する。
なぜ東証は市場を再編するのか
そもそもなぜ東証は市場の再編をするのか。その背景には、現状の市場区分では役割が重複しているという課題がある。現在の東証は、2013年に大阪証券取引所(大証)と株式市場を統合している。その際、上場する企業や投資家への影響が出ないよう、両者の市場を維持することを優先した。だがその結果、市場第二部やマザーズ、JASDAQといった新興市場の役割が重複してしまった。また第一部についても、コンセプト自体が不明確になっている状況だ。
コンセプトが不明瞭になる理由の1つが、あいまいな上場基準だ。現状では新規上場の基準よりも上場廃止基準が大幅に低くなっている。上場後も新規上場時の水準を維持する動機付けができず、いわば怠慢な経営を許容している状況とも言える。加えて第一部への直接上場と他市場から第一部への市場変更とでは必要な時価総額などの条件が異なることから、市場変更での一部上場のほうが、企業にとってハードルが低いといういびつな状況になっている。
こうしたことが結果として海外投資家などから市場への不信感を招き、市場全体の信頼性を損なっているという状況だ。それを見直すために東証は現在の市場第一部、市場第二部、マザーズ、JASDAQ(スタンダード・グロース)という市場区分をプライム市場、スタンダード市場、グロース市場の3つの区分に見直すことを決定した。2021年9月から12月30日を既存上場企業の市場選択期間とし、2022年4月4日の一斉移行を進めている。市場再編は海外で先行しており、米ナスダックでは2003年代に市場を再編。最上位の「グローバル・セレクト・マーケット」はAppleやAmazonをはじめとした超優良企業の集まる魅力的な市場にしている。
新しい東証の市場区分、成長企業は「プライム」に
東証が発表した新しい市場区分はそれぞれ次の通り。
プライム市場:多くの機関投資家の投資対象になりうる規模の時価総額(流動性)を持ち、より高いガバナンス水準を備え、投資者との建設的な対話を中心に据えて持続的な成長と中長期的な企業価値の向上にコミットする企業向けの市場
スタンダード市場:公開された市場における投資対象として一定の時価総額(流動性)を持ち、上場企業としての基本的なガバナンス水準を備えつつ、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上にコミットする企業向けの市場
グロース市場:高い成長可能性を実現するための事業計画及びその進捗の適時・適切な開示が行われ一定の市場評価が得られる一方、事業実績の観点から相対的にリスクが高い企業向けの市場

プライム市場の上場基準は厳しく、新規上場および上場維持の基準も株主数800人以上、流通株式数2万単位以上、流通株式時価総額100億円以上となっている。新規上場の場合の時価総額は250億円以上、上場維持の場合の平均売買代金が2000万円以上となっている。
またガバナンスの観点から流通株式比率を35%以上とし、安定株主が3分の2を占めることのない公開性を求めるとしたほか、新規上場で純資産50億円以上、上場維持のためには純資産が正であることも求めるとした。
一方で実質的にマザーズの受け皿となる新興市場のグロースでは、高い成長可能性の発揮という観点から新規上場時の時価総額は定義せず(上場10年後の時価総額40億円以上が維持基準)、流動性についても株主数150人以上、流通株式数1000単位以上、流通株式時価総額5億円以上としている。なお、選択した市場区分の上場維持基準を充たしていない場合であっても、改善計画や進ちょく状況を共有することで上場の維持を認める経過措置も用意している。
既存上場会社はどの市場に移行するのか
東証が1月11日に公表した内容によると、上場企業の移行先はプライム市場が1841社、スタンダードが市場1477社、グロース市場は459社。もともと第一部に上場していた企業2185社のうち、スタンダードへの移行を選んだ企業は344社で、8割強がプライム市場を選択したかたちになる。ただしプライム市場を選択した企業のうち、新たな上場基準を満たしていない企業は600社以上(スタンダード市場移行企業を含む)で、経過措置を利用することになる。
今回の市場再編にともない、東証が公表している株式指数のTOPIXにも今後は変更が加わる。これまでのTOPIXでは、東証株価指数は一部上場企業すべてを対象としていた。4月4日以降も当面は、選択市場に関わらず同じ銘柄を継続して採用するが、2022年10月末から2025年1月末までの移行期間を経て、流通株式時価総額100億円未満の銘柄について段階的に除外していく予定だ。