
ダークストアと呼ばれるデリバリーに特化した店舗を活用し、注文から10〜20分程度で商品を届ける“新業態のネットスーパー”が国内外で立ち上がり始めている。
自社で拠点を構え、在庫を抱える点は通常のスーパーと同じだが、そこに顧客が来店することはない。あくまでもデリバリー限定の倉庫であり、商品の注文もモバイルアプリ経由でのみ可能だ。ただ扱う商品は食料品や日用品など幅広く、配達にかかる時間が従来のネットスーパーよりも圧倒的に短い。
こうしたサービスは「クイックコマース(Qコマース)」という名称で紹介されることも多く、この1〜2年の間に欧米では急速に市場が立ち上がり、ドイツのGorillasを筆頭に複数のユニコーンが生まれた。日本でもそれを追いかけるようにスタートアップや大手フードデリバリー事業者などが参入し、都内を中心にサービスを始めている。
2021年設立のMeshもこの領域で事業展開を目指している1社で、今夏にもダークストア型のスーパーを始める計画。そのための資金としてCoral Capital、デライト・ベンチャーズ、W ventures、堀井翔太氏から総額約2億円を調達した。
ユーザーが専用のアプリから食品や飲料、日用品などを購入すると、注文から20分以内に商品が届く──。Meshが開発を進めるデリバリー専門スーパーではそのような体験を目指している。
Meshの創業者で代表取締役CEOを務める佐藤峻氏は新卒でディー・エヌ・エー(DeNA)に入社し、タクシー配車アプリの「タクベル」(JapanTaxiとの統合により現在はGO)など複数の事業に携わった。
その後は同じくDeNA出身で前職時代から親交のあった大見周平氏が立ち上げたChompyで、フードデリバリー領域の事業作りを経験。かねてから起業を考えていたこともあり、デライト・ベンチャーズを経て2021年11月にMeshを立ち上げた。
起業にあたっては約50個の事業案を検討したが、その中の1つが海外でも盛り上がり始めていたダークストア型のクイックコマースだったという。
「DeNA時代にユーザーとして(カーシェアリングサービスの)Anycaを使っていて、楽しい思い出ができました。このサービスを通じて同じような体験をする人が毎日たくさん生まれていて、しかもそれを作ったのが自分もよく知っている大見さんだった。事業の持つ力はすごいと思ったし、自分もそのような事業を作りたいと思ったんです」(佐藤氏)
いくつものアイデアの中からクイックコマースに決めたのは、このサービスであればあらゆる人が利用対象になり得る上に、使う頻度も高く、国を超えていける可能性もあるから。「買い物の体験を抜本的に変えていけると感じた」という。

ニーズを検証するべく、サービスを開発する前には50〜60人に「普段の買い物」に関してさまざまな切り口でインタビューも実施した。その中で「(スーパーで)購入するものをどのタイミングで決めているか」を聞いたところ、8割以上の人が「売り場に行ってから決める」と回答したそうだ。
「それを受けて思ったのが、食品の買い物はオンデマンドにデリバリーすべきであるということでした。普段の買い物では売り場でオンデマンドに需要が発生し、その場で買う物を決めている人が多い。ただ(配達までに時間を要する)ネットスーパーなどの場合は明日必要になるであろう物を、そこからさかのぼって考えなければいけないような仕様になっているものもあります。UXを考えるとオンデマンドであるべきだと考えました」(佐藤氏)
正式に会社を設立する前の2021年5〜6月ごろには事業領域を決め、具体的なサービスの仕様を検討したり、チームを組成しながら準備を進めてきた。
当時は日本にほとんどプレーヤーがいない状況だったが、現在は少々状況が異なる。クイックゲットやOniGOといったスタートアップに加え、UberやWolt、Coupangといったグローバル企業やZホールディングスなど資本力のある事業者が関連するサービスを開始した。
巨大資本が入ってきている状況に関しては正直怖い気持ちもあるというが、プロダクトごとに違いを出すことはでき、後発かつスタートアップでも成長できる余地があるというのが佐藤氏の見立てだ。アプリ上の店舗において、ユーザーが欲しいと思う商品をどれだけ網羅し、提案していけるか。そこを「いかにデータドリブンで実現できるか」が1つの鍵になるという。
MeshではGorillasなどと同様に細かいエリアごとに拠点を開設し、そこから半径1.6キロほどに絞ってサービスを提供することで短時間での配送を実現する計画。まずは今夏にも東京23区内の一部エリアからサービスを始める予定だ。