- ソケットに差すだけで自宅をIoT化
- 「モジュール」で機能を提供、今後はスピーカーや虫除けも提供
- 災害避難用の「取り外せる電球」が出発点
- 「出して終わり」ではなく、「進化する」IoT製品
- あらゆるIoTメーカーと「協業」関係でありたい
インターネットにつなげて機能を拡張したり、スマートフォンやスマートスピーカーで手軽に操作したりできる「スマート家電」。使えば便利だが、配線やアプリの設定などが面倒で、導入までには一手間かかる。そんな悩みを“電球ソケット”で解決するのが、広島発のスタートアップが開発する「stak(スタック)」だ。開発元に話を聞いた。(編集・ライター 野口直希)

ソケットに差すだけで自宅をIoT化
広島のスタートアップ・stakが提供する「stak」は、照明器具のソケットに、一般的な電球と同じように差し込むだけで、室内のIoT化を実現する製品だ。家庭用の照明器具でよく使われる「E26型」のソケットに対応。本体部分にはWi-FiとBluetoothを搭載しており、着脱式の照明モジュールやリモコンモジュールをつなぐことで、スマホアプリから照明や家電を操作できるようになる。アプリは国内主要メーカーのエアコンとテレビに標準で対応しているだけでなく、手動での学習機能も備えているので、赤外線リモコンで操作する多くの家電を、1つのアプリで操作できるようになる。
一般的なスマートリモコンの場合は、リモコンのために電源を用意してコンセントを延ばさなければならない。しかし、stakはソケットからそのまま電力を供給できるため、無駄なスペースを取らずに家電をスマート化できる。
スマートスピーカーの「Amazon Echo」や「Google Home」とも連携しており、音声でも操作できる。また、あらかじめ設定しておけば、「毎朝6時にエアコンを起動」「スマホの持ち主が家から100メートル以上離れたら電灯をスイッチオフにする」といったように、タイマーや距離に応じた自動操作もできる。
「モジュール」で機能を提供、今後はスピーカーや虫除けも提供
前述のとおり、stakの大きな特徴は、各機能が「モジュール」として物理的に分かれている点だ。モジュールの着脱部にはマグネットを使用しており、付け外しに工具は必要ない。
現在、提供しているモジュールは、照明とリモコンの2種類のみ。今後は好みの香りを発する「フレグランスモジュール」やBluetooth内蔵で天井から音声を流せる「スピーカーモジュール」、人感センサーで外出時の異常を察知し、スマホに知らせてくれる「カメラモジュール」、特殊な周波数の音波で虫を遠ざける「虫除けモジュール」なども発売する予定だ。ユーザーは好みのモジュール、つまり必要な機能だけを自由に追加できる。
2018年11月にクラウドファンディングサービスの「Makuake」で製品を発表し、300万円以上の資金を集めた。現在は「Amazon.co.jp」およびプラススタイルのIoT製品販売サイト「+Style(プラススタイル)」で商品を販売している。通信機能を備える本体部分のみサブスクリプション(月額制)モデルとなっており、月額480円。モジュールは売り切りで、リモコンモジュールが2500円、照明モジュールが3500円となっている。

災害避難用の「取り外せる電球」が出発点
stakの創業は2014年(当時の社名はNeedol)。当初はアプリ開発に専念していたが、広島で発生した土砂災害をきっかけに、自社プロダクトの開発にピボット。その理由を、CEOの植田振一郎氏はこう語る。
「テレビの報道で、夜間の不安定な足場に苦労しながら避難する人々の姿を目にしたんです。日常的に使う道具を便利にすることで、彼らを支援したかった。弊社にはデザインや動画など、IT以外にもさまざまな得意分野を持つメンバーがそろっている。このチームならば、自社プロダクトも開発できるという自信がありました」
そこで手がけたのが、着脱可能な電球だ。普段は照明として使用するが、震災時にはソケットから取り外せば一晩中点灯。クラウドに接続すれば災害用伝言サービスに「公民館で待っているよ」といったメッセージを残すこともできる。
行政機関に持ち込んだ試作品は評価こそされたものの、開発費用などの面からリリースを断念。その後もスマートスピーカーを搭載したライトなど、電球をベースにしたプロダクトをいくつか開発したが、いずれも販売には至らなかった。
「とはいえ、stakの『取り外し可能な電球』というアイデアや、マグネットによる着脱技術は、この頃に生まれました。stakを開発できたのは、これまでの紆余曲折があったからこそです」(植田氏)
「出して終わり」ではなく、「進化する」IoT製品
そんな彼らが新たなプロダクトとして着目したのが、スマート家電だ。2018年にIT専門調査会社 IDC Japanが行った調査によれば、2022年までにスマートスピーカーや照明といった家庭で使用するIP接続デバイスは年平均約15%の勢いで成長し、2022年の支出額は11兆円を超えると予測されている。しかし、日本におけるスマート家電の盛り上がりは「米国に比べるとまだまだ」と植田氏は言う。
「TVCMなどで宣伝されているにもかかわらず、日本で実際にスマート家電を利用している人はごくわずか。それは製品同士が独立しているため、導入してもあまり生活を便利にしてくれるイメージが湧かないのが理由ではないでしょうか。
米国ではすでに、複数メーカーの家電をひとつに集約するスマートリモコンが人気を博しています。あらゆるサービスを開放的につなげる仕組みこそが、モノとインターネットの融合であるIoTの本質だと思ったんです」
そこでstakでは、モジュールを増やすことで「拡張」できる仕組みを採用した。たとえば寝室ではリモコンモジュールとフレグランスモジュールを設置して、睡眠30分前から空調とリラックスできる香りを流し、玄関では照明モジュールだけを設置。外出時にはstak本体を持ち歩いて虫よけやカメラを使うなど、シチュエーションにあわせて必要な機能だけを利用できるようになる。

サブスクリプションモデルを採用したのも、サービスの拡張に伴って継続的な収益を上げるためだ。現在は本体のみ月額480円で各モジュールは買い切りだが、利用可能なモジュールが増えた頃には、全てのモジュールを定額で利用可能にするつもりだという。
「日本のIoT製品は『出して終わり』のものが多く、ユーザーにとっては長く使い続けることができるのかわからない。それが購入をためらう一因になっていたのではないでしょうか」(植田氏)
「サブスクリプションモデルを採ったIoT製品というと聞きなじみがないかもしれませんが、イメージしてほしいのはAmazonプライムです。初期は翌日配達や送料無料のみを提供していましたが、いまでは映画やドラマ、音楽の配信などサービス範囲が大幅に拡大しています。stakもモジュールの充実によって、『進化する』サービスを目指します」(植田氏)
モジュール拡張型のスマートデバイスというコンセプトが支持され、前述の通り2018年11月に行ったクラウドファンディングでは300万円以上を集めた。stakの製造や販売に注力するために、2019年2月には社名もstakに変更した。
すでにハウスメーカーの積水ハウスや、貸し会議室を運営するティーケーピーも導入を検討中。利用者が部屋を出たら自動でエアコンやテレビのスイッチを切るなど、節電目的での利用を想定しているという。
あらゆるIoTメーカーと「協業」関係でありたい
拡大市場とはいえ、大手家電メーカー各社やスマートスピーカーを手がけるAmazon、Googleなど、先行企業が多数存在するIoT市場。リソースの少ないスタートアップとして、こうした企業とどのように関わっていくのか。
「彼らを競合だとは捉えていません。stakではAPIを公開しており、すでに一部のプロダクトを外部メーカーに開発していただいています。将来的には、我々は手数料のみをいただき、開発メーカーが売れた分だけもうかるApp Storeのような仕組みを用意するつもりです。スマート家電を手がける他メーカーは我々にとって競合ではなく、協業相手だと思っています。
正直、これからIoT市場がどのような方向に進んでいくのかはわかりません。拡張式を採用したのは、そのためでもあります。市場変化に合わせたモジュールを自社で開発する、あるいは技術力のあるメーカーに開発してもらうことで、常に最新のニーズを捉えることができる。多くの企業と協力して、日本のIoT市場をスケールさせたいですね」(植田氏)