
- 「1家に1台、ロボットがある世界」を目指して
- 四足歩行ロボットを「特殊な物」から「身近に楽しめる物」に
- 幅広い人々が楽しめるロボット犬へ
2020年度から、小学校で必修化されたプログラミング教育。これを皮切りに、中学校でも必修化され、2022年度からは高等学校においても必修化されるなど、ますますプログラミング教育に対する注目が高まっている。
テクノロジーを適切かつ効果的に活用していくには、まずその仕組みを理解する必要がある。急速に変化するこれからの時代に対応する上で、プログラミングを学ぶことは必要不可欠だろう。しかしながら、「プログラミング教育」と聞いてピンとくる人はなかなかいないのではないだろうか。「実際にどこから始めたらいいのかわからない」「具体的にどのようなことを学ぶのかわからない」といった声は後を絶たない。
そうした中、マンダンテクノロジーは楽しみながらプログラミングを学べるロボット犬「Mini Pupper(ミニぷぱ)」を開発し、ロボット市場に投入した。
Mini Pupperは、これまでの「難しい」「高額」といったロボット工学への堅いイメージを刷新し、もっと身近に感じられるようにという発想のもと開発された。プログラミング言語で操作したり、AIで空間認識や物体検知ができたりと、初心者も専門家もレベル・年齢を問わずにロボット工学やプログラミングを同時に学ぶことができるため、幅広い年齢層に対応した教材と言ってもいいかもしれない。
なぜ、マンダンテクノロジーはMini Pupperを開発することにしたのか。以下は、マンダンテクノロジー代表のアフリーズ・ガン氏によるコラムである。
「1家に1台、ロボットがある世界」を目指して
マンダンテクノロジーは2020年に設立したベンチャー企業。「1家に1台、ロボットがある世界。」をビジョンに掲げ、家庭や教育のシーンに焦点を当てながら、AI技術を使ったロボット製品を開発することで、人々の生活をより良いものにすることを目指している。
新型コロナウイルス感染症の影響でリモートワークが急速に普及し、自宅で過ごす時間が増えた今の時代において、その時間を有効かつスキルアップに生かせるよう提案したのが、Mini Pupperだ。

ロボット市場において、四足歩行ロボットは車輪付きロボットなどと比べて、人が入れないような複雑な地形や狭い空間でも移動が可能になるため、幅広いシーンでの活躍が見込まれる。また、情報革命の流れの中で、AIの普及はこれからの生産、生活、サービス、人との関わり方に大きな影響を与えるはずだと考えている。
AIを活用したロボットや機械は、人々が事前にプログラミングしたあらゆる作業やタスクを遂行してくれる。これは将来、私たちの社会や生活の前提になっていくだろう。
このように、AIとプログラミングは切っても切れない関係にあり、未来の社会を支える人材育成の観点からも、今後どのようなプログラミング教育を行うかが、明日のAI発展に大きく影響してくると考えている。だからこそ、誰もが気軽にプログラミングやAIを学べるロボットとしてMini Pupperを市場へ投入した。
四足歩行ロボットを「特殊な物」から「身近に楽しめる物」に
開発のきっかけとなったのは、スタンフォード大学の学生グループ・Stanford Student Roboticsでネイサン・カウ氏が中心となって開発した四足ロボット「Stanford Pupper」の販売代理店として、2020年にマンダンテクノロジーが全世界に向けて数百台販売した経験にある。この販売を経て、世界中の多くの有名大学や個人の愛好家からフィードバックを受け、世間のニーズを深く理解していった。
しかし、これまでの四足歩行ロボットは、あくまで一部の大企業や研究機関などが扱える「特殊な物」であり、高度な技術が必要、かつ高価な物だった。
そこでマンダンテクノロジーが主導しながら、Stanford Pupper創設者のカウ氏を含む世界中の愛好家とともに、高度な技術を一般に公開した。さらに価格もなるべく抑えた状態で、多くの人に四足歩行ロボットの技術や製品を簡単に楽しんでもらいたい、との強い想いを込めて、Mini Pupperを開発することにした。

幅広い人々が楽しめるロボット犬へ
Mini Pupperの開発においてポイントとなったのは、初めてロボットに触れる人から専門家まで、さまざまな人が楽しめるようにすることだ。自ら進んで学習できるよう、親しみやすいデザインに仕上げただけではなく、初心者でも組み立てられるように溶接不要とした。
しかし、四足歩行ロボットの開発・製造には、高度で複雑な技術を必要とする。サプライチェーンが未成熟なこともあり、大量生産を実現できる企業や個人はほんの一握りしかいない。今回のMini Pupperにおいても、四足歩行ロボットのプロトタイプを作成することは決して容易ではなかった。
特に困難だった点の1つは、ROS(Robot Operating System)やOpenCVフレームワーク(Open Source Computer Vision Library)の調整作業などで、そこに数カ月もの時間を費やした。結果的にROSを通して、高度な動きとアクションコンビネーションを覚えさせることが可能となっている。
また、応援購入サービス「Makuake」で販売するにあたり、さらなる改良を進めていった。例えば、Mini Pupperの足の部分は耐久性のあるカーボンファイバープレートで構成されており、高度なカット技術が必要になるが、従来の技術ではどうしても切り口が荒くなってしまう課題があった。
子どもにもたくさん触れてもらって、プログラミングを学んで欲しいという思いもあり、切り口を改善するためさらに時間とコストをかけ、工場に最新のカットマシーンを導入することで滑らかなエッジに仕上げることに成功した。さらには搭載されているバッテリー容量も大幅に増加し、簡単に取り外せるような工夫も施した。
このように、内部システムからボディの細部に至るまで試行錯誤を繰り返したことで、ロボット工学をこれから学ぶ人や、プログラミング初心者、専門家など、子どもから大人まで幅広い年齢層にも扱ってもらえる製品になったのではないか、と感じている。
今後、四足歩行ロボットを含めたロボット製品は、ますます身近なものとして発展していくと考えている。また近い将来、AI研究が進展することにより、ロボットが人と同じように考えたり、ロボットと人のコミュニケーションがより円滑になったりと、ロボットの自立性や効率はますます改良されていくだろう。
その中で、マンダンテクノロジーはロボティクス企業として、教育・家庭用の四足歩行ロボットをさらに身近なものとして発展させて、より日常生活や公共の場において活躍できるように挑戦を続けていきたい。そして、その発展を担っていく次世代人材の教育にも注力した上で、少子高齢化による労働人口の減少などの社会課題の解決へ貢献しながら、人々が便利に幸せに暮らすことができる環境づくりを目指していく。

アフリーズ・ガン マンダンテクノロジー代表
2006年からCASKY社にてエンジニア業務、2015年からタンダーソフト社でカメラのプロジェクト、2018年からサンダーコム社でロボット製品のディレクター業務にそれぞれ従事。ロボティックス・エンジニア分野で16年間勤め上げた後、2020年にマンダンテクノロジーを設立。直近では日本法人も設立。