
- 子育て世代を中心に利用者増、ネットスーパーに変わる選択肢
- 欧米で広がるダークストア、「日本でも勝機がある」
- 資金調達で体制強化、年内に東京23区でのサービス提供目指す
Zホールディングスグループが「Yahoo!マート by ASKUL」を通じて本格的に事業を開始するなど、「クイックコマース(Qコマース)」と呼ばれる即配ECサービスが日本でも徐々に盛り上がりつつある。
2021年6月創業のOniGOもこの領域で事業を展開するスタートアップの1社。東京都内の一部エリアを対象に“10分で食料品や日用品を届ける宅配スーパー”を展開してきたが、年内をめどに東京23区内をカバーすることを目指し、7.2億円を調達した。
今回同社に出資をしたのは東京大学エッジキャピタルパートナーズ、サムライインキュベート、Plug and Play Japanを含む複数の投資家。OniGOではこれまでエンジェル投資家などから資金を集めており、創業から9カ月で累計調達額は約11.8億円となった。
子育て世代を中心に利用者増、ネットスーパーに変わる選択肢
OniGOは都内の複数箇所にネット販売に特化した倉庫拠点(ダークストア)を設け、半径約1〜1.5km圏内を対象に宅配サービスを展開している。2021年8月に目黒で1号店をスタートしたことを機に、現在は自社で3店舗を運営。4月にも新店舗をオープンする予定だ。
対象エリアのユーザーはモバイルアプリ「OniGO」を使って、ネットスーパーと同じような感覚で食料品や生活用品などを注文できる。配送料は一律300円。注文から最短10分程度で商品が届くスピード感が、既存のネットスーパーにはない大きな特徴だ。

仕組みとしてはユーザーの決済が完了すると、拠点に待機しているOniGOのピッキング担当者(ピッカー)のアプリに通知が届く。ピッカーは注文内容に沿って棚から商品を集め、配送担当者(ライダー)が指定の場所まで運ぶ。
OniGO代表取締役の梅下直也氏によると子育て世代がコアなユーザーだ。ネットスーパーを利用している層と近いが、既存のサービスでは「届くのが翌日で、時間指定をしても2〜3時間家にいないといけないのが面倒」といったように配送部分にペインを感じている人も多い。その課題を解消する手段として、初期の顧客を獲得できているという。
ネットスーパーと同様の用途で使うユーザーが多いこともあり、生鮮食品や野菜、フルーツ、肉などが売れ筋商品なのだそう。一般的なスーパーに比べると商品数は限られているものの、OniGOでは約1600種類(SKU)の商品を扱っている。

欧米で広がるダークストア、「日本でも勝機がある」
梅下氏は新卒で入社した三井住友銀行を経て、2015年に中古車のオークション事業を手掛けるカープライスを創業。2019年に同社を楽天に売却した。その後はスタートアップの資金調達を支援する会社をやりながらも、再び自身で事業を立ち上げる機会を探っていたという。
そんな時、海外の起業家仲間から「欧米で急拡大しているQコマースが、なぜ日本では広がっていないのか」を聞かれ、海外の状況や日本の市場の調査を始めたことがOniGOを立ち上げるきっかけになった。
もっとも、最初から日本でのクイックコマースやダークストア事業に可能性を感じていたわけではない。むしろ当初はどちらかというと否定的だったようだ。
「日本はオーバーストアでコンビニもたくさんあり、Uber Eatsや出前館のようなサービスも存在する。この領域の専門家でもなかったのでレッドオーシャンだし、お金もかかるし機能しないのではないかと思っていました。でもデリバリサービスや既存のリテールとは全く異なるビジネスモデルだという話を聞き、リサーチを進めていく中で勝ち筋があるかもしれないなというのが見えてきたんです。Qコマースは社会的に良いインパクトを与えられるポテンシャルを持った事業であり、ビジネスモデルとしても優れている。それなら本気でやってみようと考えました」(梅下氏)

ダークストアの構造自体は単純で、店舗から生まれた粗利で運営にかかったコストをカバーできればいい。そこでポイントになるのが固定費がどれくらいになるのか、顧客を獲得して売上をきちんと確保できるか、そして配送料の問題をクリアできるかだという。
まず固定費(設備)については、顧客が実際に来店するわけではないため通常の店舗よりも安くできる余地がある。内装にこだわる必要もなく、配送用の自転車などを除けば棚や冷蔵庫があれば十分だ。
ユーザー獲得に関しては、これまで多くのネットスーパーが苦戦してきたところだと梅下氏は話す。ネックになってきたのが「欠品」だ。
「ユーザーが増えていくと店頭在庫が足りなくなり、注文して決済までしたのに『在庫がありませんでした』といったことが発生してしまう。これは海外でも同じです。なぜ(先行する企業が)ダークストアで、リテールの在庫を使わないようにしているかというと、スケールするに伴って20%程度の欠品率が発生してしまうから。これではユーザーが離れていってしまいます。ダークストアの場合はリアルタイムで在庫を管理し、デジタルの在庫数と棚の在庫数が基本的には一致する。だから欠品率が1%以下に抑えることができ、良いユーザー体験を実現することで、損益分岐点を超えていけるチャンスがあります」(梅下氏)
このような構造のため、新興国など配送費を安く抑えられるエリアであればダークストアは十分にスケールできるというのが梅下氏の考えだ。ただ日本の場合は配送費、要は配送員の人件費の観点から、同じようにやっていては採算が合わない。
「我々は配送員をコストではなく、ラストワンマイルのアセットだと考えています。いろいろな領域がDX化している中で、ラストワンマイルの物流ニーズが高まってきている。もちろんダークストアの事業においてもこのアセットを活用しますが、そこだけではボリュームの関係などもあって最適化は難しいです。(配送リソースを使って)追加で収益を生み出すことが重要。(ダークストア以外の領域とも)コンバインすることで、事業として成立させていくことを想定しています」(梅下氏)
配送スタッフについてギグワーカーを起用するのではなく、アルバイトとして雇っているのも将来の展開を見越してのことだ。もちろんクイックコマースを展開していく上で「ユーザーが頼みたいと思った時にすぐ頼めないと使い勝手が悪くなってしまう」ため、利便性を追求する目的も大きい。
ただ今後配送力を活かして事業を広げていく上でも、その核となる配達リソースを自社で持っておくことが重要になるという。すでにOniGOでは自社の配送力やノウハウを活用するかたちで、セブン&アイ・ホールディングスのグループ会社で食品スーパーを展開するヨークやローソンストア100と協業し、実証実験にも取り組み始めている。

資金調達で体制強化、年内に東京23区でのサービス提供目指す
米GopuffやトルコのGetir、ドイツのGorillasやFlinkなど、世界ではすでにいくつものユニコーンが生まれているQコマースの領域。日本でも冒頭で触れたZホールディングスのほか、グローバル企業から国内発のスタートアップまでプレーヤーが徐々に増えてきた。
ユーザーから見れば似たようなサービスに思えるものもあるが、細かいUI/UXなどによって使い勝手は大きく変わってくるというのが梅下氏の見立て。そのために自社ですべてのシステムをフルスクラッチで開発してきた。
今後は買い物のデータに基づいたサジェストの仕組みなども含めて、ユーザー体験を磨いていく計画。そのために今回調達した資金を用いて組織の強化を進めていく。また調達した資金は新規拠点の開設にも投資をしていく方針。まずは年内で東京23区をカバーする体制の構築を目指すという。