
- コンビニでのコスメ販売はブルーオーシャンだった
- 徹底したのは「試しやすさ」と「高いクオリティ」
- ギフティングボックスで露出の頻度を上げる
- タッチポイントとLTVを高め、ブランド確立を目指す
D2Cという言葉の盛り上がりとともに、ここ数年でさまざまなコスメブランドが立ち上がった。その多くが販売チャネルの起点をオンラインに置く中、コンビニを中心に商品を展開し、ヒットを飛ばすコスメブランドがある。それが「sopo(ソポ)」だ。
sopoはアイメイクに特化した商品(カラーマスカラ、リキッドライナー、メイクアップグリッターなど)や、マスクにつきにくいクッションファンデーション、手元が華やぐ絶妙なカラーを揃えたネイルポリッシュなどを、全国のファミリーマート約1万6600店舗で販売するコスメブランド。2020年11月の立ち上げから、1年半ほどで店頭売上が100万本に到達するなど、10〜40代の女性を中心に人気を集めている。
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今回、話を聞いたのはsopoをプロデュースするノイン代表の渡部賢氏。ノインはコスメECアプリ「NOIN(ノイン)」のほか、コスメやスキンケア専用の動画チャンネル「NOIN.tv」などを展開している。
さまざまなコスメブランドがある中、なぜsopoはコンビニを起点に人気を集めることができたのか。その理由について、若年層女性向けSNSメディア「Sucle(シュクレ)」やSNSマーケティング事業を展開するFinT代表の大槻祐依氏が渡部氏に話を聞いた。
コンビニでのコスメ販売はブルーオーシャンだった
大槻:まず最初に聞きたいのは「コンビニに注目した理由」です。ノインはこれまでに化粧品ECプラットフォームを展開してきました。なぜ、コンビニを中心に商品を展開していくことにしたのでしょうか。
渡部:とてもありがたいことに、sopoは販売開始から1年半ほどで累計販売数約100万本を突破しました。この勝因は「化粧品業界の誰もがコンビニに注目していなかった」ことにあると思っています。つまり「コンビニ×コスメ」の市場がブルーオーシャンだったんです。
そもそも、コスメなどの化粧品のEC化率はファッションなどと比べて低い。コロナ禍で日本のEC化率は約8%になりましたが、化粧品はいまだに7%以下。化粧品ECプラットフォーム「NOIN」も、この課題感からスタートした事業でした。
これまで、化粧品の販売ルートは百貨店がメインと言われてきました。しかし、百貨店もインバウンド需要が消失したほか、コロナ禍による臨時休業、時短営業などで客足が遠のき、特に地方では閉店が相次いでいます。そのなかで一気に売上を伸ばしてきたのがドラッグストアでした。とはいえ、そんなドラッグストアでも化粧品販売についてはまだまだ課題があります。
大槻:どのような課題でしょうか。
渡部:ドラッグストアにおける化粧品の販売パターンは2つあります。1つ目は、店舗の壁に陳列カセットごと置かれているパターン、もう1つは平置き台に化粧品が積まれているパターンです。大手化粧品メーカーの商品は前者、そうではないものは後者の形で陳列されていました。そうした状況の中、新たな化粧品メーカーが参入するのは至難の業とも言えます。
その結果、何が起こっているのか。地方ではSNSなどでトレンドのコスメが手に入りにくくなっています。首都圏であれば、ネットで情報収集して職場や学校の帰り道で買えますが、地方はそうではない。コスメを購入できるタッチポイントの数が大きく異なるため、欲しいと思っても購入できない人たちがいる。僕たちはそうした状況に目をつけました。

sopoの専売元であるファミリーマートは全国に1万6600店舗あり、それこそ地方にも多く出店しています。いつもの帰り道とは一本違う道を通れば遭遇するくらいの確率です。そこで「ノインの商品をファミリーマートに置くことができたら、トレンドコスメを購入するタッチポイントを増やせるかもしれない」と考えたんです。
大槻:ファミリーマート側とは、どうやって話し合いを進めたんですか。
渡部:コンビニエンス業界全体が抱えていた経営課題のひとつが「若年層の獲得」でした。とはいえ、若年層がコンビニへ足を運んでいないわけではありませんでした。ですがおにぎりや肉まんを1個だけ買うくらいで、コンビニでの化粧品との接点が低いんです。
NOINのメインユーザーはZ世代。彼らの属性やニーズなどがわかるデータもすでに揃っていました。多くのZ世代の決済手段は、後払いが30%、クレジットカード払いが20%、コンビニ払いが20%程度です。また後払いではコンビニ決済を使うユーザーも多かったんです。そうしたデータもあり、コンビニとNOINのユーザーとの相性は、そもそも良かったんですよね。
徹底したのは「試しやすさ」と「高いクオリティ」
大槻:販売する場所によって、売り方も変えなければならない部分も多いです。sopoは「ファミリーマート専売」として、どの点を意識したんですか。
渡部:化粧品業界が販売場所として、これまでコンビニに期待していなかった一番の理由は、多くのユーザーにとって「緊急時に買いに来る場所」となっていたからです。具体的には、急なお泊りで化粧品が必要になったり、ポーチにないことに気づいたりしたときでなければ、コンビニでコスメを購入する動機がなかったんです。

だからこそ、僕たちは「ファミリーマートでは良質な化粧品を買える」というイメージを定着させることにこだわりました。そこで意識したのが「試しやすいサイズ・価格設定」と「徹底した高いクオリティ」です。
「試しやすいサイズ・価格設定」では、sopoのサイズを小さくしてリーズナブルな価格に設定しました。それと同時に、グレー系やブラウン系などの定番色をあえて避け、イエロー系やグリーン系など「試したい」と思えるカラーラインナップを揃えたんです。あえて定番色を出さないのは、もはや根比べでしたね(笑)。価格帯をリーズナブルにしたおかげで、3色ほどまとめ買いするユーザーも多いです。
なぜ価格を下げられたのかという点では、もう1つ理由があります。ノインはsopo以外の事業があるので、利益はそちらで追いかければいい。その分、sopoは利益率を譲歩できるので、ユーザーにとってメリットになるものを優先的に提供することを決めました。
「徹底した高いクオリティ」はその名のとおり、高い品質を保つことです。それによって「コンビニコスメは緊急時に買うもの=品質が低くても仕方ない」というイメージを覆そうと考えました。誰もがSNSを通じて一次情報にアクセスできる時代だからこそ、小手先のマーケティング手法は通じません。「これが絶対にいい」と思われる品質でなければ勝つことができないのです。

先ほどお話ししたように、NOINのメインユーザーはZ世代。そこで得たデータで他社の弱みをカバーし、それを克服するような戦い方をしてきました。例えば、2021年に発売したsopoのクッションファンデーション。今では常にマスクをつけるようになったから、ファンデーションが崩れやすくなりました。
しかし、sopoのクッションファンデはマットタイプで、かつマスクにつきにくいし、よれない。そのためユーザーからの評判もいいです。
ギフティングボックスで露出の頻度を上げる
大槻:ファミリーマートでsopoを展開する以外の手段もあったように思います。これは、あえてやらなかったのでしょうか。
渡部:実は、NOINでもsopoを広めようとしたことはありました。でも、あまり意味がなかったんですよね。
唯一、注力したのはギフティングボックス(ブランドを代表する商品のセット)でした。理由は、それを手にしたインフルエンサーのみなさんが開封動画を含めてsopoを複数回取り上げてくれるから。今やInstagramでも、ストーリー機能を利用して同じ動画を複数載せることに抵抗がなくなっています。ならば、商品が取り上げられるフリークエンシー(頻度)は多いほうがいい。そのため、商品はもちろん、ギフティングボックス1つとっても妥協しませんでした。

また、美容系YouTuberの人たちは「安くて、クオリティの高いもの」を動画コンテンツとして取り上げる傾向にあります。この「安くて、クオリティの高いもの」にsopoの商品が合致するため、さまざまなYouTuberに取り上げてもらったことも大きかったです。
大槻:逆に、ファミリーマートでの勢いをノインに寄せることは考えていたりしますか。
渡部:どちらかというと、sopoを皮切りに「NOINには魅力的な化粧品がたくさんあるのだ」と広く認知してもらわなくちゃいけないと思っています。それができてはじめて、NOINのブランドが確立され、利益を得られるようになる。ブランドへの信頼性はすぐに構築できるものではないので、そこはじっくりと、焦らずに進めていきたいですね。
sopoは累計100万本の売上を記録していますが、まだ一部のユーザーにしか届いていないと思っています。今後はファンデーションのような定番を出しながら「コンビニコスメ=緊急時用だけじゃない」という流れをもっと強めることが必要です。今後、この流れをどんどん広げていきたいと考えています。
大槻:現在、sopoはアイカラーやマニキュア、カラーマスカラ、クッションファンデーションなどを販売しています。なかでも一番反響があったものはなんですか。
渡部:カラーマスカラです。ヘアメイクさんから教えてもらったことをきっかけに、女優・モデルの本田翼さんがInstagramのライブ配信で紹介してくれました。
実は俳優やモデルは、友人よりもメイク室にいる人たちと会話することのほうが圧倒的に多い。僕らも、マーケティングでは俳優やモデルではなく、ヘアメイクの人たちをターゲットにしているところがありますね。
タッチポイントとLTVを高め、ブランド確立を目指す

大槻:sopoだけでなく、ノインで発表されるオリジナルコスメにはどれも強いこだわりを感じます。渡部さんはもともと化粧品に詳しかったんですか。
渡部:いえ、創業するまでは詳しい知識を持っているわけではありませんでした。ノインを創業してから勉強を始めたんです。それこそ、化粧品を買いまくりました。商品開発時は話題の化粧品を買い集め、一つひとつのテクスチャーや色みを自分でチェックしています。幸いなことに今は売上も伸びていますが、ノイン代表である僕が化粧品EC事業を大外れさせてしまったらと考えると……必死になるしかないですよね(笑)。
化粧品はOEMで少ないやりとりでローンチすることが一般的です。でも、ノインは僕自身が納得できるまでやりとりを続けている。大手企業ではできないやり方を実現させているから、いいものを作れるのは当たり前なんです。
大槻:軌道に乗ってきているノインでは、今後も新商品が続々と登場するように見えますが、反対に今後の取り組みに向けて課題などはあるのでしょうか。
渡部:今のやり方だけで勝ち続けられるとは思っていないです。「SNSなどで話題になる」ことは、あくまでも一過性でしかありません。そこからどうブランドとして定着させていくかは今後の課題です。
sopoのリピート率は、ファミペイを通じてある一定数は見えています。タッチポイントとなる目的でユーザーが試したくなるアイカラーやマニキュアを出し、ブランド自体を好きになってもらう、つまりLTVを上げる目的ではファンデーションのようなベースメイクを展開するなど、これらのカテゴリをクロスセルさせながら、ブランドを確立させていきたい。1〜2年ほどかけて取り組んでいくつもりです。