ナナメウエ代表取締役の石濵嵩博氏
ナナメウエ代表取締役の石濵嵩博氏
  • ユーザー増の背景に「既存SNSのメディア化」
  • 「Yay!はメタバースの本命だと考えている」
  • バーチャルワールド×暗号資産領域で存在感のあるサービスへ

同世代で共通の趣味・趣向を持ったユーザー同士が匿名でつながり、グループ通話やテキストチャットを通じて交流できる音声SNS「Yay!(イェイ)」。Z世代を中心に登録者数が500万人を超える同サービスが、“既存の大手SNSにはない特徴”を強みにユーザー数を拡大している。

運営元のナナメウエが2020年1月のサービスローンチ時から重視してきたのが「(ユーザーが)素を出せるコミュニティ」を実現することだ。

一部のインフルエンサーが人気を集めるタイプのSNSとは異なり、階層構造を作らず、幅広いユーザーが“承認”を得やすい仕組みを構築。匿名かつフラットなコミュニティによって、「既存のSNSは投稿のハードルが高い」と感じるユーザーでも気軽にコミュニケーションができる場所を提供してきた。

特に10代から20代前半の利用者が多く、24歳以下が約85%を占める。具体的なアクティブユーザー数などは開示されていないものの、ナナメウエ代表取締役の石濵嵩博氏は「デイリーで数十万人が活用するコミュニティに成長してきている」と話す。

中長期的にはメタバース化が加速する時代において、これまで作り上げてきたコミュニティを土台にトークンエコノミーの要素を取り入れる計画だ。トークンを用いてユーザーがサービス運営に関与したり、報酬を受け取ったりできるようなWeb3時代の新たなバーチャルワールドを作っていきたいという。

そのための資金としてナナメウエでは以下の投資家および金融機関からの融資により約16億円を調達した。

  • SBIインベストメント
  • FFGベンチャービジネスパートナーズ
  • アカツキ
  • Headline Asia
  • Infinity Ventures Crypto
  • DG Daiwa Ventures
  • 90s Management
  • スカイランドベンチャーズ
  • 複数名の個人投資家

ユーザー増の背景に「既存SNSのメディア化」

あらためてYay!とはどのようなサービスか。石濵氏は「(さまざまなSNSに親しんできた人であれば)TwitterとDiscord、それからmixiコミュニティの良い部分を集めたようなサービスだと言えばわかりやすいかもしれないです」という。

ナナメウエが展開する通話コミュニティ「Yay!」
ナナメウエが展開する通話コミュニティ「Yay!」

冒頭でも触れた通りYay!は匿名性のコミュニティで、同世代の人や同じ趣味・趣向を持つ人と交流しやすいのが特徴だ。掲示板のようなオープンなタイムラインに加えて、「荒野行動(オンラインバトルロワイヤルゲーム)」や「勉強サークル」といったように共通点のあるユーザーが集まって“サークル”を作り、交流できる。

また1つのウリとなっているのが最大18人で使えるグループ通話機能。メンバーと音声でつながりながらゲームやYouTube、雑談を一緒に楽しむ場所として使われており、中には6〜7時間に渡って通話をつなぎっぱなしのユーザーも存在するそうだ。

1年前と比べてもDAU(デイリーアクティブユーザー)が約2倍に成長しているYay!だが、その背景には「各種SNSがメディア化することにより、ユーザーの息苦しさがピークを迎えていることが関係している」と石濵氏は話す。

「既存のSNSの投稿ハードルが上がった結果、インフルエンサー以外のユーザーは投稿せず見るだけになってきていると思うんです。たとえば以前は『起きたなう』とか『牛丼なう』とかちょっとした投稿をするユーザーも珍しくなかったですが、今はそんな投稿をするユーザーはほとんどいない。自分も週末に旅行に行って写真を撮ったとしても、投資家や起業家の友人から遊んでいると思われたくないので、FacebookやTwitterには投稿しなくなりました。昔は自撮りをどんどんアップしていたけど、今はすぐに他の人と比べられてしまうから投稿しなくなったという声も聞きます」(石濵氏)

石濵氏はSNSの本質は「承認」であり、何気ない投稿に対しても周囲からリアクションをもらえることが重要だという。一方でSNSが見るだけのメディアになってしまうと、その楽しさも減ってしまう。石濵氏の言葉を借りれば“既存SNSに対するアンチテーゼとして”、Yay!を利用するユーザーが増えている側面もありそうだ。

「自分たちのコンセプトは絶対にメディア化しないこと。自分の素が出せるコミュニティとして、アンチインフルエンサープラットフォームであることを掲げてきました」(石濵氏)

Yay!の画面。グループ通話機能は同サービスの特徴の1つ
Yay!の画面。グループ通話機能は同サービスの特徴の1つで、常時接続SNSとして長時間つなぎっぱなしにするユーザーもいるという

Yay!では独自のアルゴリズムによって世代や趣味・趣向が近いと思われるユーザーの投稿が「おすすめ」として表示されることで、幅広い人に承認が行き渡るような構造を作ってきた。そのため同サービスでは「10万人のフォロワーがいるインフルエンサー」はほとんど存在しないが、一方で既存のSNSよりも100人〜200人のフォロワーを集めやすいという。

また階層構造を作らないためにライブ配信のような機能は実装せず、あくまで双方向の通話にこだわるなどフラットなコミュニティを維持するための機能設計をしてきた。

「Yay!はメタバースの本命だと考えている」

2021年にフェイスブックがMetaへと社名を変更し、メタバース領域に年間1兆円規模の投資を実行するという戦略を打ち立てたことは大きな話題を集めた。

メタバースの定義や考え方は人によって異なるが、石濵氏は「リアルとは切り離された関係性の中で、自分の素を出せるコミュニティが存在するバーチャル空間であること」がメタバースの重要な要素であり、その観点では「Yay!はメタバースの本命であると考えている」と話す。

メタバースに関連する代表的なサービスとしては「Decentraland」や「The Sandbox」などの名前が挙がることも多いが、これらは現時点で「コミュニティのないプロジェクト」であり、その点がYay!とは異なるという。

今後Yay!ではこれまで築き上げてきた独自のバーチャルグラフによるコミュニティを土台にしつつ、次のステップとしてその上にトークンエコノミーを実装していく。要はユーザーがYay!を楽しみながらコミュニティに貢献すれば、貢献度に応じて報酬がもらえるような世界観だ。

最終的にはNFTやVR、アバターなども含めたコンテンツを充実させることで、ユーザーが毎日活用し、経済活動が行われるような世界の実現を目指していくという。

「ここ数年、さまざまな分野で『民主化』をテーマとした革命が起こっています。SNSであれば中央集権やインフルエンサーオリエンテッドなものから、匿名かつフラットで多様性が認められるものへとユーザーが移動し始めている。ファイナンスであれば自律分散型のネットワークであるブロックチェーン技術やトークンエコノミー による資産形成の注目度が増し、2021年12月時点で暗号資産の時価総額は250兆円規模にまで拡大しました」

「僕たちはこのソーシャルとファイナンスの民主化が混ざり合って、これからのメタバースを形成していくと考えています。現在は暗号資産全般で投機的な面が強く、資産を増やした先で出口となるような選択肢が、ステーブルコインやNFTへの投資など限られている。今後手にした暗号資産をどこに保存していくのか。それこそがデジタル空間における自分の居場所やコミュニティであるメタバースになると思うんです」(石濵氏)

「Yay!はメタバースの本命」と話す石濵氏
「Yay!はメタバースの本命」と話す石濵氏

バーチャルワールド×暗号資産領域で存在感のあるサービスへ

ナナメウエでは今回調達した資金を活用して組織体制の強化やサービスの機能開発、マーケティングやセキュリティ面への投資を進めていく方針だ。

特に以前から力を入れてきたセキュリティ面については、さまざまなユーザーが安心して利用できるバーチャル空間を作る上で今まで以上に重要になる。

以前から​​年齢確認を必須とした上で年が離れたユーザーとのコミュニケーションを制限してきたほか、ユーザーの許諾を得てサービス内で送信された画像をAIでチェックし、適切ではない画像を検知した場合にはアカウントを凍結するといった対応もしてきた。

またAIと人を組み合わせたコンテンツ監視体制をさらに強化することで、より効率的にモニタリングができる仕組みを整える計画だ。元警視総監の樋口建史氏を社外取締役として招くなど、ガバナンス面の強化も進めている。

「会社としてはバーチャルワールド×暗号資産の領域において存在感を発揮できるようなサービスを作っていきたいと思っています。Yay!という既存のアセットを生かしながら、暗号資産の大きな波に乗っていきたい。目標としては今冬を目処にIEO(Initial Exchange Offering)での上場も目指します」(石濵氏)