(前段右)mento代表取締役の木村憲仁氏
(前段右)mento代表取締役の木村憲仁氏
  • コロナ禍で拡大した、法人向けのコーチング需要
  • 躍進を遂げる、海外のコーチングサービス

コーチと1対1で対話をし、自身の内面にある答えを引き出す「コーチング」。個人と事業者の両軸で専門のトレーニングを受けたプロコーチを紹介するコーチングサービスを展開しているmento(旧社名:ウゴク)が好調だ。

特にニーズがあるのが法人向けのコーチングサービス「mento for Business」だ。2019年から提供を開始し、今では伊藤忠商事、江崎グリコ、メルカリ、ヤフーなどの企業で導入が進み、2021年の売上は初年度比20倍の規模にまで成長を遂げている。

そんなmentoはサービス拡充のため、人材採用の強化を目的に米シリコンバレーに拠点を置くVC・WiLから総額3.3億円の資金調達を実施したことを4月6日に発表した。

また、3月4日に社名をウゴクからmentoに変更したほか、コーポレートブランドのリニューアルを実施したことも併せて発表している。

コロナ禍で拡大した、法人向けのコーチング需要

mentoの設立は2018年2月。代表取締役の木村憲仁氏が新卒で入社したリクルート時代にコーチングを経験したことをきっかけに、コーチングの事業を立ち上げている。

まずは個人をターゲットに、2019年10月にコーチングサービス「mento」の提供を開始。約2年弱が経った2022年1月には所属コーチ数は160人以上、累計セッション時間は2万時間を超えるコーチングプラットフォームとなっている。

個人に続く形で、法人向けにもコーチングサービスを開始したmentoだったが、2020年は苦しい時期が続いた。個人向けはコーチングへの関心の高まりとともに利用者は増えていったが、法人向けはコロナ禍で研修費用を削る流れもあり、思うように伸びずにいた。

風向きが変わったのが、2021年。コロナ対策が明確化してから、大企業が事業環境の変化やイノベーションへの圧力、リモートワークにおけるマネジメントスタイルの変化などから、従来の一定の人数が集まる「集合研修」に課題を感じ始めた。

mento代表取締役の木村憲仁氏

「2021年に入ってから、日系大企業のコーチングへの関心が高まったと感じています。大企業の人たちが『今までは集合研修をやっていれば一定の満足感もあり、成長を実感するマネージャーも多かったけど、今はそうではない』と言うんです。ここ数年で画一的なスキルを身につけさせるのではなく、一人ひとりに寄り添ったキャリア形成と能力開発が求められるようになった結果、法人からのコーチングのニーズが高まっていきました」(木村氏)

昔から法人向けのコーチングサービスはあったが、それらは高価なエグゼクティブコーチング、もしくは中間管理職のコミュニケーション技術としてのコーチングスキル研修が主流で、従業員がプロのコーチングを受けるサービスはあまり存在していなかった。

「mentoは最初に個人向けでサービスを展開していたこともあり、プロのコーチをきちんと揃えられていたことも大きかった」と木村氏は語る。

コーチの数が揃えられていることで、企業に対してニーズに適したコーチを紹介できるようになったため、企業側の満足度も高まり、導入先が増えていった。現在は、大企業がメガベンチャーを中心に、さまざまな企業でミドルマネージャー向けの研修などでコーチングサービスが活用されているという。

「コロナ禍でマネジメントの難易度が急激に高くなりました。従来のようなコミュニケーションができない中で、マネージャーもたくさん話を聞き、その内容を理解し、適切なフィードバックをすることが求められている。『マネジメントが上手くいかない』と悩む人たちは増えていますし、それがメンバーの悩みにもつながっている。会社としてマネージャーの育成をどう支援していくか、という機運は高まってきています」(木村氏)

そんなニーズに応えるかたちで、mentoは事業を拡大。従来は対面での研修が主流だったが、コロナ禍でオンラインに置き換わったことで、コーチも今までより多くのクライアントに対応できるようになり、案件の数も増えていっているという。

躍進を遂げる、海外のコーチングサービス

日本でも盛り上がりを見せつつあるコーチング市場だが、海外では法人向けを中心にさまざまなサービスが立ち上がり、大型の資金調達を実施するなど賑わいを見せている。

アメリカのコーチングサービスとして、最も有名なのがBetterUpだ。同社はデータドリブンかつパーソナライズなコーチングプログラムを提供している。2021年9月にテクノロジーの活用を加速する目的で、感情解析を得意とするAI企業のMotiveを買収し、10月にシリーズEラウンドで300億円の資金を調達。さらに12月にはアメリカ空軍と提携しコーチングプログラムを開発している。

またヨーロッパへの進出を発表しており、アムステルダム拠点の人材マネジメントSaaSのimpraiseを買収するなど、コーチング市場の拡大を牽引している。

そのほか、Y Combinator出身でエグゼクティブ向けコーチングサービスを展開するTorchは2020年に企業向けメンタリングサービスを手がけるEverwiseを買収したほか、コーチングプラットフォームのSounding Boardは、シリーズAを終了してからわずか数カ月後の2021年12月にシリーズBで約30億円を調達している。

「BetterUp以外はとても大きいわけではないですが、BetterUpがある中でも後発のサービスがたくさん出てくる。それだけマーケットの裾野は広いと思っています」(木村氏)

一方、日本ではコーチングサービスとしては「mybuddy(マイバディ)」のほか、ZaPASSが個人・法人向けにコーチングサービスを提供しているが、最近はコーチになるためのスクールが盛り上がっている印象だ。

例えば、経営者・リーダーのためのコーチング習得プログラム「CoachEd」、オンラインのコーチングスクール「THE COACH Academy」、オンデマンド型のコーチングスクール「Colorful U」といったサービスが立ち上がっている。

mentoでは、海外のプレーヤーたちがテクノロジーを活用したコーチングのソリューションを提供によって成長していることを受け、今後、テクノロジーの活用に注力していくという。

「コーチングはクローズドに行われることもあり、職人芸のようになっている部分があります。数をこなして研鑽を積んで上手くなっていく仕組みだと、コーチを育てる再現性がなく、市場を広げていきにくい。コーチの育成目的でセッションの音声解析・映像解析を通して、何がクライアントの満足につながっているのかをデータ化していき、リアルタイムでフィードバックできるようにしたいです。そうすれば、数年かかっていた育成期間が半年ほどに縮めることができるのではないか、と思います」(木村氏)

また、ユーザーに対してはコーチのサポート役となる“AIコーチ”のようなソリューションを開発し、「こういう場面のときにネガティブなことを言う」「こういうキーワードに触れると楽しそうになる」といった客観的な情報をフィードバックできるようにするという。