左からHubble CTOの藤井克也氏、CEOの早川晋平氏、CLO(最高法務責任者)の酒井智也氏。同社が現在手がけるサービスは、3人のディスカッションから生まれた
左からHubble CTOの藤井克也氏、CEOの早川晋平氏、CLO(最高法務責任者)の酒井智也氏。同社が現在手がけるサービスは、3人のディスカッションから生まれた

コロナ禍で加速した「契約のデジタル化」。特に「クラウドサイン」や「GMOサイン」を始めとした電子契約サービスの台頭により“契約締結”の方法が大きく変わりつつあるが、それに伴って締結前後の契約業務や契約書の管理においてもテクノロジーの活用が進んできている。

この領域はCLM(Contract Lifecycle Management/契約ライフサイクルマネジメント)とも呼ばれ、海外では米国のIcertisやIroncladのように関連するユニコーン企業が複数社誕生。国内でもLegalForceやContractSといったリーガル系のスタートアップに加え、Sansanやリコーなど上場企業もサービスを手掛ける。

2016年設立のHubble(ハブル)もこの領域で事業を展開する1社だ。同社が運営する「Hubble」では契約書のバージョン管理機能を軸に、契約業務にまつわるコラボレーションや契約書の管理をサポートしてきた。2019年2月のローンチから3年、現在は約150社・1万人のユーザーを抱える。

契約書のバージョン管理や締結後の契約書管理機能を持つ「Hubble」
契約書のバージョン管理や締結後の契約書管理機能を持つ「Hubble」。Wordで使えるのが当初からの特徴だ

Hubbleはもともと「契約書版のGitHubのようなサービスがあれば便利ではないか」というアイデアから生まれたサービスだ。

「ソースコードにおいては『誰がいつ、どのような意図で変更を加えたのか』がものすごく重要なため、それを管理するのにGitHubが使われています。これは契約書に関しても同じだと思ったんです。どのような意図で、どのような議論を経て契約書が作られたのか。この履歴を管理していく価値は大きい。そこでエンジニアにとってのGitHubのように、クラウド上で契約書のバージョン管理ができるサービスを作ろうと考えたのがきっかけでした」(Hubble代表取締役CEOの早川晋平氏)

契約書はWordで作成されることが多いため、ユーザーが普段から使い慣れているWordを使って自動的にバージョン管理ができる仕組みを作った。リリース時は機能も絞られていてシンプルな作りではあったが、従来のワークフローを崩さずに利用できる点が好評で少しずつ顧客が増えていった。

現在のHubbleは当初からの特徴を残しつつも、機能が大幅に拡張されている。たとえば契約内容のテキストやコメントをもとに目当ての契約書を検索し、契約書が作成されるまでの過程を簡単にたどれるようになった。

契約締結前だけでなく「締結後の契約書を管理するデータベース」としても使えるようになったことが、サービスの成長にもつながっているという。

またSlackやクラウドサインなど他サービスとの連携にも力を入れることで、より円滑に契約業務が進むような環境を整えている。

たとえばSlackと連携すれば同サービス上からコメントの確認や返信が可能だ。契約業務には営業など事業部門のメンバーが関わることもあるが、彼ら彼女らがほんの少しのやりとりのためだけに、わざわざHubbleを開かなくてもいいわけだ。

「Hubbleでは既存のツールとうまく連携しながら、少しでもストレスなく使ってもらえるようにすることを意識しています。まだプロダクトがあまり売れない時期にいろいろな会社の法務部を回っていて、法務の方が他の部署を巻き込んでいく際に苦労されていると感じました。彼らが導入したいと思った契約管理システムを営業の人たちにも使ってもらうにはどうしたらいいのかを考えた時に、法務から営業に歩み寄るようなシステムが必要だと思ったんです」(Hubble取締役CLOの酒井智也氏)

Slack連携のイメージ
Slack連携のイメージ。Slack上でコメントやリアクションをすると、Hubble内にも反映される

Hubbleの顧客は大企業から小規模なスタートアップまで幅広いが、ボリュームゾーンは拡大期から上場前後のITスタートアップだ。

このような企業はSlackなどのコミュニケーションツールを活用していることが多いため、社内の既存ツールと連携して便利に使える点が導入の決め手にもなっている。実際にSlack連携機能を利用している企業はそれ以外の企業よりもNPS(顧客ロイヤリティ指標)が数倍高く、高い満足度や継続率にも結びついているという。

「いきなり10歩先を照らすようなソフトウェアは素晴らしい反面、使われないリスクもあると思うんです。一方でHubbleがやってきたことは半歩先や一歩先を照らすようなかたちで、既存のシステムや商慣習に合ったサービスを作り、課題を解決するというもの。それが結果的に事業の成長にもつながったと考えています」(早川氏)

Hubbleではさらなる機能開発や販売体制の強化に向けて、DNX Ventures、Archetype Ventures、マネーフォワード、Salesforce Venturesを引受先とした第三者割当増資により約6.5億円を調達した。

今後は取引先とのやりとりにおいてもHubbleを使えるようにしていくことで、社内外での契約業務におけるコラボレーションを促進していきたいという。