
- 実は2007年から始まっている「ファンド・オブ・ファンズ」
- 17ファンドへLPとして参加、259社のスタートアップに投資組入
- 起業家と同じだけベンチャーキャピタリストの数も増やしていく
海外に比べて、起業する人が少ない──その危機感のもと、起業家を生み出すべく、官民が連携してスタートアップの支援に取り組んでいる日本。
岸田文雄首相は2021年の就任直後から、「新しい資本主義」の実行計画に最新技術を活用したスタートアップへの支援を盛り込む考えを示している。また1カ月前に、経団連が5年後の2027年までに起業数を10倍に増やすとともに、ユニコーン企業の数を100社に増やすといったスタートアップの育成に向けた提言を発表したことも記憶に新しい。
こうしてスタートアップ自体の支援には目が向けられているが、「起業家が増えている一方で、シード期のスタートアップに投資するベンチャーキャピタリストの数は足りていない」と課題感を口にするのは、インキュベイトファンド代表パートナーの赤浦徹氏だ。
「日本はミドルステージ以降のスタートアップに投資するファンドは増えてきていますが、シードステージに特化した独立系のファンドはまだまだ少ない。トラックレコード(運用成績)がなくとも、スタートアップへの投資に挑戦したい人たちをサポートする仕組みをつくることで、ベンチャーキャピタリストの数を増やしていくことができる。結果的に日本のスタートアップ・エコシステムの活性化に繋げていけると思っています」(赤浦氏)
インキュベイトファンドは4月12日、独立系シードファンドへのLP出資に特化したファンド「IFLP2号ファンド」を設立したことを発表した。ファンドは2022年末にファイナルクローズを予定しており、100億円規模を目指す。
実は2007年から始まっている「ファンド・オブ・ファンズ」
VCファンドがLPとして、別のファンドに出資する──いわゆる「ファンド・オブ・ファンズ」という取り組みを赤浦氏が始めたのは今から15年前、2007年のこと。
当時、インキュベイトキャピタルパートナーズの代表パートナーであった赤浦氏は、現在は共に代表パートナーを務める本間真彦氏と和田圭祐氏が立ち上げたVCファンド(本間氏はコアピープル・パートナーズ、和田氏はセレネベンチャーズを立ち上げている)に3億円ずつLP出資。
また、サムライインキュベート代表取締役の榊原健太郎のほか、スマートニュース代表取締役会長兼社長CEOである鈴木健氏にも出資をしていた過去を持つ。当時について、赤浦氏は「鈴木さんは事業会社には向かないと思ったので、『投資家になった方がいい』と言って、出資をしたんです」と振り返る。鈴木氏は投資家ではなく、起業家としてスマートニュースをユニコーン企業に導いており、赤浦氏は「僕の見る目がなかったんだと思います(笑)」と語った。
結果的に赤浦氏は本間氏、和田氏のほか、元エヌ・アイ・エフベンチャーズ(現:大和企業投資)の村田祐介氏と共に2010年にインキュベイトファンドを設立した。
また、インキュベイトファンドでは1人のジェネラル・パートナーに対して、2人のアソシエイトがつく仕組みを採用。アソシエイトは5年以内には独立し、自らファンドを立ち上げることを促されており、これまでに木下慶彦氏がSkyland Ventures,
佐々木浩史氏がプライマルキャピタル、木村亮介氏がライフタイムベンチャーズ、山田優大氏がFull Commit Partners、日下部竜氏がDRG Fundといったように独立系ファンドを立ち上げている。
17ファンドへLPとして参加、259社のスタートアップに投資組入
3号ファンドまではインキュベイトファンドのフラッグシップファンドから出資していたが、4号ファンドが立ち上がった2018年にフラッグシップファンドとは切り分ける形で、LP出資に特化したファンド「IFLP」の1号ファンドを69億円規模で設立した。
運用から約4年が経った2022年3月末時点で17ファンドへLPとして出資しており、これらのファンドを通じて合計259社のスタートアップへの投資が行われている(最終着地は300社前後の見込み)。また、IFLP出資先ファンドとIFLP出資者の協業事例は36件生まれており、IPO実績も4件生まれているという。

「日本でもファンドに投資する資金は増えてきています。ただ、実績がないベンチャーキャピタリスト志望の人には投資しない傾向にある。次の世代を代表するスタートアップを生み出していくためには、起業家をサポートする同世代の投資家の存在が重要です。特に独立系シードファンドが不足しているからこそ、我々は社内でベンチャーキャピタリストを育成したり、投資家としてのポテンシャルがある人を見抜いてサポートしたり、ベンチャーキャピタリストとして挑戦したい人を増やす仕組みを構築しています」(赤浦氏)
IFLP1号ファンドでは1〜5億円のレンジで出資していたが、新たに立ち上げる2号ファンドでは「5億円を目安に投資を行っていく」(和田氏)とのこと。2号ファンドの出資者には、中小企業基盤整備機構、三井住友銀行、山口フィナンシャルグループ、サントリーホールディングス、鈴與、グリー、ディー・エヌ・エー、ミクシィなどが名を連ねる。
「4年前、1号ファンドの出資者は、投資活動の強化を目的としたIT企業の割合が多かったのですが、2号ファンドは古くからある産業でCVCを立ち上げていたり、今後投資に力をいれていく予定があったりする企業の割合が多くなっています」
「IT企業がスタートアップに投資する流れは昔からありましたが、ここ数年で大手の事業会社がベンチャーファンドとの連携、スタートアップと早くからコンタクトを持つことの重要性を感じるようになっているのかな、と思います。そこが1号ファンドと2号ファンドの大きな違いになっています」(和田氏)
インキュベイトファンドが2020年に立ち上げた250億円規模のフラッグシップファンドを含め、独立系ベンチャーファンドの規模は大きくなり、重厚長大な産業への投資の割合が増えている。そうした中、IFLPが出資するファンドはシードに特化していることもあり、投資領域は参入障壁が比較的低いコンシューマー向けビジネスが多いという。
「少額の資本でチャレンジしやすく、若い起業家にもフレンドリーなセグメントが多いイメージです。そういう意味では、IFLPはチャレンジする裾野を広げるサポートに最適化したネットワークを構築できていると思います」(和田氏)
起業家と同じだけベンチャーキャピタリストの数も増やしていく
創業から継続して「個人で意思決定できるジェネラル・パートナーを増やす」ことを目的に、ファンド創業時のLP出資をおこなってきたインキュベイトファンド。多くのベンチャーキャピタリストを生み出してきた一方、起業家とのコミュニケーションや投資姿勢が問題視されたベンチャーキャピタリストも中にはいた。
そのベンチャーキャピタリストに対しては、不適切なコミュニケーションや投資姿勢が是正される見込みはないという判断からファンドは解散。「厳粛に対応した」と和田氏は語る。
冒頭、赤浦氏が語ったとおり、日本のスタートアップ・エコシステムが活性化していくためには起業家と同じくらい、彼らを支援するベンチャーキャピタリストの数を増やしていく必要がある。そうした点も踏まえて、IFLPの仕組みは非常に意義があるものに感じる。
「すべての起業家を応援しようと思っても、1人では限界がありますし、1つのファンドで支援できる数にも限りがあります。だからこそ、起業家のことを応援する人を増やすことが大事になる。起業家をリスペクトし、彼らの成功のために心から応援する。そんな志を持ったベンチャーキャピタリストをひとりでも多く生み出していきたいです」(赤浦氏)