シンガポール発・電動キックボードのシェアリングサービス「Beam」のイメージ
シンガポール発・電動キックボードのシェアリングサービス「Beam」のイメージ
  • ライドシェア「Uber」とシェアサイクル「Ofo」から学んだこと
  • 強みはテクノロジーを活用した安全施策
  • 日本では数カ月以内にサービスを開始

2010年以降、世界ではライドシェアやシェアサイクルなど、インターネットに接続し、スマートフォンを活用した新たなモビリティサービスが続々と登場してきた。シンガポール発のスタートアップで、電動キックボードのシェアリングサービス「Beam」を展開するBeam──その代表取締役兼CEOであるアラン・ジャン氏も、そうした新たなモビリティサービスのアジア圏における拡大に尽力してきた人物の1人だ。

ジャン氏は2012年に米国発のライドシェアサービス「Uber」の米国法人にジョイン。中国、マレーシア、ベトナムにおけるサービス立ち上げに携わり、インドネシア法人のカントリーマネジャーも務めた。その後、中国におけるシェアサイクル最大手の1つだった(2020年にクローズ)「Ofo」で東南アジア地域を指揮し、2018年にBeamを設立した。

Beamはアジア圏における電動キックボードシェアの大手サービスだ。現在、マレーシア、タイ、韓国、オーストラリア、ニュージーランドの5カ国・35都市で展開する。2月には9300万ドル(約113億円)もの資金を調達し、数カ月以内には日本展開を開始する予定だ。

4月26日にDIAMOND SIGNALが開催したイベント「SIGNAL AWARD 2022」ではそのジャン氏がオンラインで登壇。UberやOfoで学んだこと、マイクロモビリティ領域での起業に至った理由、そして日本市場における戦略について話を聞いた。

ライドシェア「Uber」とシェアサイクル「Ofo」から学んだこと

──アランさんはライドシェアのUberやシェアサイクルのOfoといったモビリティサービスに携わった後に、Beamを起業しました。UberやOfoでの経験はBeamにどのように活かされていますか。

私自身は米国育ちで、アジアにはこの10年ほど住んでいます。アジアに住み始めたのは、Uberで働くためでした。2012年の終わりにUberに入社して、アジアの様々な国での立ち上げに携わりました。それから4年後に退社して、当時急成長していた中国のシェアサイクル・スタートアップのOfoに入社しました。

まず、Ofoでの経験についてお話します。私が入社した当時、Ofoの1日の利用件数はおよそ3000万件でピークに達していました。Ofoがやっていたことは、基本的には自転車を街中に設置するだけ。十分な台数を供給できさえすれば、需要はほぼ無限でした。

ですが、もちろんOfoにも課題はありました。それはハードウェアという現物資産の持続可能性でした。つまり自転車の損失が多く、その追跡もうまくできていませんでした。2016年当時はまだ、Ofoで利用できるような優れたGPS技術が存在しなかったのです。

左から、DIAMOND SIGNAL編集貴社の菊池大介、Beam代表取締役兼CEOのアラン・ジャン氏。セッションはオンラインにて実施した
左から、DIAMOND SIGNAL編集貴社の菊池大介、Beam代表取締役兼CEOのアラン・ジャン氏。セッションはオンラインにて実施した

3年半ほど前にBeamを立ち上げた際にも、資産保持の問題を完結できるかは疑問でした。そこで我々は特注のIoTデバイスを使い、精度の高い資産追跡を実現しました。これによって資産(電動キックボード)の損失を事業の持続が可能なレベルにまで削減できています。

Uberも非常に興味深い事業でした。Uberは昔からある配車サービスをスマホに対応させたライドシェアサービスです。スマホの導入により、サービスの効率は従来の配車サービスと比較して格段に向上しました。

Uberは急成長していましたが、多くの課題もありました。最大の課題の1つは、インターネットやスマホに接続していない、既存の配車サービスがすでに多くの地域で稼働していたことです。また、Uberのような新しいイノベーションには強い反感があり、非常に難しく規制された環境になっていました。

一方、マイクロモビリティ領域には幸いにも、既存産業はありませんでした。Beamでは自社のことを「資産管理企業」と捉えています。テクノロジーを活用した資産管理企業です。BeamはタクシーやUberのようにドライバーが運転するものではなく、ユーザーが自ら運転するサービスです。これによって、Beamではコストを低く抑えることができています。

Beamにとって最大の競合は自家用車です。Beamは、環境汚染や交通渋滞を引き起こす、自家用車に取って代わるサービスとなっています。Beamと都市との協議の多くでは、マイクロモビリティが都市にもたらすメリットを焦点にしており、政府とも直接的に、かつ積極的に関わっています。

Beamを起業した理由は、自家用車を代替するような優れた移動手段が、まだ存在していないと考えたからです。モビリティは日常生活に深く浸透していますので、決して簡単な領域ではありません。我々には3つの重要なステークホルダーがいます。多くのスタートアップはユーザーのみを重要視していますが、Beamではユーザーに加えて、地域社会、そして都市との関係性も重要視しています。

強みはテクノロジーを活用した安全施策

──国内でも海外でも、電動キックボードのユーザーによる危険走行や、歩行者との接触事故に関する報道をよく目にします。Beamを安全なサービスとして提供するための取り組みは。

電動キックボードでも、自動車でも、公共交通機関でも、A地点からB地点への移動を安全にする上で、いくつかの重要な要素があります。

1つ目は、その乗り物が制限速度を遵守しているかどうか。2つ目は、運転手に運転能力があるかどうか。そして3つ目は、乗り物自体が安全であるかどうかです。Beamではテクノロジーを活用することで、これらの要素における安全性を担保しています。

現在、個人所有の電動キックボードには、危険なほどの最高時速を出せるものもあります。一方、Beamの機体にはIoTデバイスを搭載しているため、最高時速をコントロールすることが可能です。機体の位置情報に基づいて制限速度を設定することができるので、例えばある道路では最高速度25キロメートル、別の道路では15キロメートル、歩行者が多いエリアでは乗車禁止、といった具合に制御することが可能です。Beamでは展開する各都市ごとに最適な最高速度を設定しています。

自動車を運転するドライバーはお酒を何杯飲んでいても、運転することは可能です。一方、Beamでは機体のふらつきを検知することができます。そのため、危険走行をしているユーザーのアカウントを凍結することも可能です。飲酒運転のほかにも、歩行者にぶつかりそうだったり、急ブレーキをかけたりするといった行動も検知し、アプリを介してユーザーに注意を促します。

また、自動車やバイクは走ろうと思えば歩道を走ることもできます。Beamでは機体に搭載するAIカメラを開発中で、これを実装すれば、車道と歩道で異なる最高速度を設定したり、歩道では停止させることも可能となります。

──電動キックボードのシェアリングサービスを運営する上で最も重要なのは安全性の担保だと思います。一方で、Beamはスタートアップのため、スケールしなければなりません。安全性と収益性のバランスをどのように考えていますか。

安全性と収益性、どちらも重要です。安全でないモビリティサービスはスケールしていくことは難しく、逆に安全なサービスは広く社会に受け入れられ、スケールしていくのだと思っています。

100年前、自動車が発明されたばかりの頃、都市は歩行者と馬のために設計されており、自動車のためのインフラはありませんでした。当時、自動車は最も危険な乗り物だとみなされていました。自動車のような“機械”は動物のように考えることができず、歩行者をひき殺すこともあるため、自動車に対する抗議運動は盛んに行われていました。

しかし、自動車に乗れば馬よりもずっと速く便利に移動できるため、やがて多くの規制が緩和され、インフラも整いました。そして現在、都市におけるインフラは自動車社会を前提に開発されたものとなっています。

現在、多くの都市ではマイクロモビリティをより安全にするために、自転車レーンや小型電気自動車向けのインフラを整備しています。100年前に自動車が登場した頃よりも、遥かに速いペースで整備が進んでいます。

日本では数カ月以内にサービスを開始

──日本での展開はいつ頃開始する予定ですか。国内ではスタートアップのLuupや米国大手サービスの「Bird」などが既にサービス展開していますが、競合サービスにはないBeamの強みとは。

Beamでは数カ月以内に日本展開を開始する予定です。日本は非常にユニークな市場で、それは他の多くの業界でも同じことが言えるでしょう。そのため、現地に根ざした体験を提供できるよう、細心の注意を払いたいと考えています。

マイクロモビリティは、これまでの歴史にない新しいサービスのため、都市や地域との関わりが非常に重要です。日本でも都市と積極的に対話し、ただ機体を持ち込むのではなく、マイクロモビリティの利点やBeamが持つ技術が都市にどのような好影響をもたらすのかを、きちんと説明している最中です。

Beamとしては、他のすべての競合サービスと協力してマイクロモビリティの普及を推進していきたいと考えています。マイクロモビリティは短距離移動に使われるものです。電動キックボードは数キロメートル先までの移動手段であり、数キロを移動するために、1キロメートル先の電動キックボードまで歩く人はいません。

カフェやコンビニと同じようなビジネスでしょうか。ユーザーは一番近くにある電動キックボードを利用する傾向にあります。カフェやコンビニが進化し、細分化していったように、マイクロモビリティ市場においてもさまざまな勝者が出てくることでしょう。

日本のマイクロモビリティ市場はかなり大きな市場です。1つの事業者が全体を支配するようなことはあり得ません。ですから、Beamでは競合サービスと協力して、マイクロモビリティの重要性を社会に伝え、地域社会や都市と深く関わり、政府によるマイクロモビリティのインフラの整備を支援していきたいと考えています。

Beamでは多くの競合サービスと違い、長期的な視点でビジネスを展開しています。我々のハードウェアやソフトウェアが多くの都市や地域の問題を解決できるよう、テクノロジーに多くの資金を投資しています。