Y Combinatorが用意する「学生向けスタートアップガイド(Startups for Students Guide)」
  • 学生向けスタートアップガイド
  • なぜスタートアップを始めるのか
  • なぜスタートアップしないのか
  • スタートアップを始めない悪い理由
  • スタートアップで働く理由
  • 学生からのFAQ

「スタートアップ」という言葉は世間にも浸透し始め、起業は卒業後のキャリアパスとして身近になってきた。だが、若い大学生にとって、自分が起業に向いているのか、向いていないのかを、自ら判断するのは困難だ。

そこで今回紹介するのは、米国の名門アクセラレーター・Y Combinatorが用意する「学生向けスタートアップガイド(Startups for Students Guide)」。広報担当者のタマンナ・ケマニ氏とカット・マニャラック氏が大学生に向けて、誰がスタートアップすべきで、誰がすべきでないのか──そして起業までの道のりを解説する。これまでに3000社以上に投資し、「プロダクトではなくチームが判断材料」というYCがいう“スタートアップ向き人材”とは。

学生向けスタートアップガイド

Y Combinator(YC)共同創業者のポール・グレアムは、2007年に書いたエッセイ 「スタートアップを始めない理由(Why to Not Start a Startup)」 の中で、起業を考えている人によくある不確実性について書いています。彼は「不確かであることは何も悪いことではありません」「誰もが通る道です」と書きました。

YCが2005年にローンチしたとき、スタートアップを立ち上げることは新卒者にとって珍しいキャリアパスでした。MBAを取得していなければ、あるいはビジネスやテクノロジーの分野で何年もの経験がなければ、投資家から真剣に受け止められることはありませんでした。当時世界にいくつのスタートアップがあるかを知るには、2005年のTechCrunchを見てください。当時、TechCrunchが報じた企業ローンチ数は月間40社程度で、YCにも最初は数百ほどの応募しかありませんでした。

それから、世の中は変わりました。現在、YCには年間数万件の応募があります。Product Huntを見れば、1日に何十社もの新しい会社が立ち上がっていることがわかります。チャンスを掴み、スタートアップを立ち上げることは、今やかつてのように異質なことではありません。

世界中の人々がスタートアップを始めることがより一般的になりましたが、私たちは、スタートアップを進路の1つとして考えることができる人はもっとたくさんいると思います。例えば、多くの人が他の進路を考えることなく、金融や大企業を選んでいます。私たちは、起業したい、あるいはスタートアップでの就職に興味がある人たちのために、最良のリソースを提供したいのです。

このガイドでは、なぜスタートアップでの起業を考えるべきか、あるいは起業しないことを検討すべきかについて説明します。

なぜスタートアップを始めるのか

スタートアップは誰にでもできるものではありません。労働時間は長く、成功への道はしばしば型破りであり、大金を稼ぐための確実な方法でもありません。スタートアップの約90%は失敗に終わります。なぜ、このような職業を選ぶのでしょうか?

3つの質問を自分に投げかけてみる

YCの卒業生で現マネージングディレクターのマイケル・サイベルは、エッセイ「なぜスタートアップを起業するのか?(Why Should I Start a Startup?)」の中で、「予測できる道がないときにだけ、最高の能力を発揮するタイプの人間がいる」「成功する確率は低く、失敗しても個人的な責任を負わなければならないからだ」と書きました。

スタートアップが自分に合っているかどうかを判断する上で、マイケルは次の3つのことを自問することを勧めています。

  • 負け犬になるのが好きか?
  • 多くの人が敬遠するような困難なチャレンジをしたいか?
  • 成功や失敗の責任を取ることに喜びを感じるか?

そのうえで、マイケルは「この3つの質問の答えがイエスなら、スタートアップが向いているかもしれません」「テックスタートアップをやれば金持ちになれるとは限らないが、最もチャレンジングな進路の1つであることは約束できる」と書いています。スタートアップの起業はあなたにとって、非常にチャレンジングであると同時に、これまでに経験した中で最もやりがいのある進路なのです。

解決したい課題を見つける

YCの歴史の中で成功した企業のいくつかは、創業者が現実世界の課題に直面したときに設立されました。Airbnbは、2007年にブライアン・チェスキーとジョー・ゲビアが家賃の支払いに困っていたときに、エアマットレスを数枚購入することで、サンフランシスコで開催された繁忙期のコンベンション期間中に、一晩80ドルの宿泊費を稼いだことから始まりました。2010年、パトリック・コリソンとジョン・コリソンは、パトリックがインターネット上での決済の難しさにうんざりしたことがきっかけで、後にStripeとなるプロジェクトを立ち上げました。Gustoの創業者たちは、中小企業における給与計算の非効率性に不満を抱いて創業しています。

スタートアップは、必ずしも具体的なアイデアから始める必要はありません。自分の生活を振り返り、課題を発見し、それから解決策を探せば良いのです。同じ悩みを抱えている人が意外に多いことに気づくかもしれません。

成功も失敗も自分のものにする覚悟を決める

スティーブ・ジョブズはかつて「海軍に入るより海賊になった方が楽しい」と言いました。スタートアップの魅力のひとつは、官僚主義にとらわれず、無駄なくスピーディに運営できることです。一方で、創業者であるあなたは、物事がうまくいかないとき、すべてに責任を負います。また成功すれば、ほかのどんな会社の仕事よりも多くのものを手に入れることができるでしょう。

なぜスタートアップしないのか

まだ学生である

スタートアップには膨大な時間とエネルギーが必要です。大学に在籍したまま起業するとなると、成績や社会生活に支障が出ることは間違いありません。

でも、在学中の起業は不可能ではありません。Panorama Educationの創業者たちは、エール大学の学部生のときに教育工学の会社を設立しました。共同設立者のアーロン・フューラーは、Panorama Educationの構築に週に40時間以上を費やし、卒業する頃には数十万ドルの収益を得ていました。

このような成功は非常に困難であり、非常に珍しいことです。また、スタートアップがスケールし始めたら、ほとんどの場合、学業からドロップアウトせざるを得ないことも覚えておいてください。しかし、大学に残ることにはメリットがあります。後ほど、在学中に起業するための準備方法を紹介しましょう。

とても大変

ゼロから会社を立ち上げるのは、管理すべき項目が多すぎて、精神的にも感情的にも負担が大きいです。前にも述べたように、10社中9社が1年目に失敗しており、成功した企業でさえも計り知れない困難に直面しています。

共同創業者がいない

YCのトップ企業に占める単独創業者はわずか7.9%です。共同創業者は、タスクを分担するだけでなく、精神的な重荷も分かち合い、専門知識のギャップを埋めます。例えば、共同創業者の1人はエンジニアで、もう1人は営業に長けている、といった具合です。大学は、共同創業者を見つけるのに理想的な場所と言えるでしょう。

覚悟ができていない

あなたのスタートアップが成功したとしても、イグジットやIPOを迎えるまでには何年もかかります。その期間を正確に予測することはできません。ですから、10年という長い期間、ひたすら事業に取り組む覚悟が必要です。もし今、旅行や趣味などに時間を費やすことに興味があるのなら、それでも構いません。そのような場合は、スタートアップを始めるのに理想的な時期ではないということです。

確かな組織を求めている

大企業が持つ構造には、いくつかの利点があります。管理職や上司はメンターとして機能しますし、大規模なチームの一員になれば、賢い人たちから素晴らしいアイデアを引き出すこともできるでしょう。もしもこのような組織を必要とするなら、スタートアップは理想的な場所ではないかもしれません。

不確実性が嫌い

スタートアップでは、成功への明確な道はありません。不確実性が嫌なら、スタートアップはやめたほうがいいでしょう。

スタートアップを始めない悪い理由

アイデアがない

YCでは、アイデアよりもチームを重視します。なぜなら、より新しく、より緊急性の高い問題を発見した後にピボットする企業を何度も見てきたからです。Reddit、Brex、Segmentは、それぞれ全く異なるコンセプトでYCに参加し、その後、現在のような企業に成長しています。

親や保護者が望んでいない

親や保護者のプレッシャーは、10年前と比べると、スタートアップの創業者にとって(少なくともアメリカでは)それほど問題ではないように思えます。2012年にFacebookの創業スターリーを描いた映画『ソーシャル・ネットワーク(The Social Network)』が公開されたとき、YCには大量の応募がありました。YCでは「この映画によって、スタートアップが現実的で有利なキャリアの選択肢になり得ることに保護者の皆さんが気づいた。文化的な変曲点だった」と冗談半分で言うことがあります。

もし、あなたの親がまだスタートアップでのキャリアに懐疑的なら、Brex、Stripe、Embark、Scale AIなどのストーリーを紹介してください。創業者が20代のうちに創業したこれらの企業は、いずれも大成功を収めています。

ローンの借入がある

学生時代の借金が多くても、会社を興すことは不可能ではありません。とはいえ、かなり難しいです。毎月多額の支払いをしなければならないなら、大企業での高給取りの仕事がより魅力的に見えるのは確かです。また、安定した収入があれば、車や旅行、マンションなどの出費も賄えるでしょう。安定収入を捨てるのは大変なことです。

スタートアップが巨万の富を生み出すことはレアケースです。でも、その一員であることは、経験、知識、実行力など、収入を増やす可能性のあるすべてのものを倍増させられる可能性もあるのです。

スタートアップで働く理由

スタートアップ企業で働くことほど、スタートアップについて学ぶのに最適な方法はありません。顧客に愛される製品を作り、顧客と直接対話し、ビジネスの透明性を高める経験を積むことができます。そして、それが次のAirbnbやDoorDash、Coinbaseになるかもしれないのです。そのような経験を積むための最良の方法を紹介しましょう。

適切なスタートアップ企業を見極める

自分にとって興味深い問題を解決しているスタートアップを探してみましょう。あなたは、気候変動の影響を緩和することに興味がありますか? それとも、ロボット工学とバイオテクノロジーの両方にフォーカスしたいですか?

もし興味のあるスタートアップを見つけたものの、求人がないようであれば、創業者に連絡を取ってみましょう。1通のメールによって自分でも気づかないような扉が開かれるかもしれません。

どのステージのスタートアップが自分に合っているかを判断する

インターンシップの場合は、シリーズA以降の企業をおすすめします。より体系的で、多くよりの指導を受けることができるからです。しかし、特定の創業者から学びたい場合や、自ら積極的に学ぶことができ、常に変化する環境に生き生きするならば、シードステージの会社が良い選択肢になるかもしれません。

創業者に質問する

可能であれば、創業者に連絡を取り、次のような質問をしてみてください。その回答は、あなたが何を学ぶべきなのかという洞察を与えてくれるはずです。

Q. インターンシップでは、どんなことに取り組むのですか?

学びを最大化するために、あなたが取り組むプロジェクトとあなたが開発するスキルについて把握しておきましょう。これには、技術スタックへの貢献、指標向上の支援、顧客との密接な連携などが含まれるかもしれません。インターン終了時にプロジェクトが完了すれば、履歴書に具体的な内容を記すことができます。

Q. ビジネスがどのように行われているかを見ることができますか? 顧客とどのくらい接することができますか?

スタートアップで働く利点の1つは、小さなチームの透明性とビジネスとの距離の近さです。大企業のエンジニアの多くは、自分の顧客が誰なのかを知ることが難しい場合があります。顧客と話すことで、ビジネスがどのように改善されているのか、あるいは改善されていないのかを知ることができ、自分でスタートアップを経営する際にも重要なスキルセットとなるでしょう。

Q. 一緒に働いている人たちから何を学ぶことができますか?

インターンシップであれ、フルタイムの仕事であれ、上司、同僚、そして創業者は、あなたの成長と学習を助けてくれる素晴らしいリソースです。分析が得意か、製品開発が得意か、MVP(Minimum Viable Product:ユーザーに必要最小限の価値を提供できるプロダクト)を作るのが得意か、顧客インタビューをするのが得意かなど、彼らの強みを注意深く研究しましょう。そして、あなたがどのようなスキルを身につける必要があるのかを理解するために、それを利用してください。

最後に、もしあなたがフルタイムの仕事を求めているのであれば、ランウェイ(資金が尽きるまでの時間)とバーンレート(会社から出ていくお金)について尋ねることをお勧めします。これは、そのスタートアップが良い資金調達状況にあるかどうかを示し、創業者がどれだけ透明性があるかを示すものです。

学生からのFAQ

Q. 大学ではどのような授業を受けるべきですか?

創業者としての資質を身につけるための特別な授業はありません。自分が好きな科目を履修し、興味のあるプロジェクトに取り組んでください。その経験は、学問の世界で学ぶよりも多くのことを教えてくれるはずです。

Q. 学位は重要ですか?

学位は最優先ではありませんが、コーディングが好きなら、コンピュータサイエンスやエンジニアリングの学位を取得することが、成功への近道と言えます。大学は、学問だけでなく、あなたと補完し合うスキルを持つ人を見つけるのにうってつけの場所です。とはいえ、テック企業を経営したいのであれば、CTOになるつもりがなくても、ソフトウェアプログラミングの基本を独学で身につけることをお勧めします。ソフトウェアの仕組みを理解することは、テクノロジー企業を設立し経営する上で非常に重要なことだからです。

Q. どのようなスキルを身につければよいのでしょうか?

優れた創業者になるために、特定の学校に通ったり、特定の学位を取得したりする必要はありません。しかし、大学で以下の3つのスキルを身につけることは、後々、創業者としてのキャリアに間違いなく役立つでしょう。

コーディング

コーディング(プログラミング)を学び、エンジニアと友達になりましょう。ソフトウェアがなければ、ソフトウェアに対応した会社を作ることはできません。

コミュニケーション

自分の考えを明確かつシンプルに伝えることを学びましょう。たとえ非常に複雑なことに取り組んでいても、誰もが理解できるように説明できなければなりません。

人間力

ネットワークを構築する。共同創業者候補に会う。人々のニーズが何であるかを深く理解する。創業者として、ユーザーの問題をよりよく解決するために、ユーザーと話すことは非常に重要です。

Q. 学生時代をどう過ごすべきですか?

多くの人にとって、大学は一度きりの経験です。ぜひ楽しんでください。魅力的なテーマを探求し、気の合う仲間を見つけ、一緒に仕事をするのに最適な期間です。

大学は、共同創業者になる可能性のある人に出会うのに最も適した場所の一つです。ネットワークを築いて将来一緒に仕事をする可能性のある人たちと友達になりましょう。

全世界にアクセスできることも忘れてはいけません。テクノロジー、ビジネス、サイエンスなど、あらゆる分野の専門家が、大学生を喜んで助けてくれるはずです。

大学時代の過ごし方についての詳しいアドバイスは、マイケルの「大学生への手紙(A Letter to College Students)」が参考になります。

Q. 技術的なバックグラウンドがなくても、創業者になれますか?

YCは、技術的な共同創業者がいない新興企業にも出資しています。どのバッチでも、だいたい10%は技術者ではない創業者が創業しています。しかし、YCのトップ企業リストを見ると、非技術的な創業者が設立した企業は3社しかありません。Flexport、SnapDocsとUpKeepです。もしあなたが非技術者であっても、ソフトウェア会社を作るのであれば、技術者の共同創業者を見つけることを強くお勧めします。技術者がチームにいれば、迅速に行動して成功する確率も高くなります。

Q. アイデアはどのように決めればよいのでしょうか?

スタートアップのコンセプトをつくるには、この3つの項目を念頭に置いてください。しかし、前にも言ったように、アイデアは簡単に変えることができます。

1. 意思について

最高のYCファウンダーは、自分自身や大切な人が個人的に直面した問題を解決していることが分かっています。なぜ、その問題を解決したいのか、考えてみてください。10年後、あなたはその問題に関心を持ち続けていますか?

2. 主流を追わない

クールだと思われていることをやっても、成功しない可能性が高いです。Coinbaseが設立された2012年当時、暗号通貨は非主流のアイデアでした。現在では、お年寄りでもビットコインを知っている可能性は高くなっています。

3. ニーズを解決する

人々が何を求めているのか、何を必要としているのか、そのバランスを取るのは難しいことです。人々が欲しいと言うものだけでなく、実際に時間やお金を使ってもいいと思うものに焦点を当てましょう。

Q. プロダクトを作りました。最初のユーザーや顧客を獲得するにはどうすればよいですか?

1. 大学のキャンパス

大学のキャンパスにいると、新しいことに挑戦する可能性のある多くの潜在顧客に簡単にアクセスできるでしょう。

2. 友人や家族

叔母、祖父母、いとこ、友人、知人など、あなたの知っている人全員に、あなたの製品を使ってもらいましょう。そうすることで、あなたの理想とする購買層を決定することができます。

Q. 代金を請求したほうがいいでしょうか?

できるだけ早く、製品に課金しましょう。金額はそれほど高くなくてもかまいませんが、課金することで、あなたが作っているものにどれだけの価値があり、人々がどれだけのお金を喜んで使ってくれるかを理解することができます。

Q. スタートアップを始めるのは賢いアイデアだと親や保護者を説得するにはどうしたらいいですか?

若い創業者の成功談を保護者に紹介してみましょう。ジョンとパトリックは、Stripeを立ち上げたとき、それぞれ19歳と21歳でした。Embark Trucksのアレックス・ロドリゲスは、会社設立時19歳でした。

たとえ会社が失敗しても、スタートアップの経験がいかに貴重であるかを伝えましょう。会社での仕事は常にありますし、YCの創業者の多くは、彼らのスタートアップをやめた後、大企業に入社しています。

スタートアップは何歳からでも始められますが、若いうちはスタートアップが簡単であることも伝えてください。

Q. 学位を取得するべきですか、それとも中退して起業を目指すべきですか?

私たちは、ほとんどの学生に学位を取得するように言っています。しかし、あなたが起業のことを考えることしかできず、自由な時間をすべてそれに費やしているのであれば、中退を検討する価値はあるかもしれません。