
- エクイティ投資と銀行融資の間を埋める選択肢の提供へ
- 日本でもデットファイナンスは数千億円規模になりうる
スタートアップの資金調達手段としてはベンチャーキャピタルなどの投資家を引受先としたエクイティ調達(株式の発行による資金調達)が主流となっているが、近年はその選択肢が少しずつ広がり始めている。
2021年11月創業のSDFキャピタルが新たに立ち上げたのは、スタートアップ向けのデットファンド(借入のかたちで融資を実行するファンド)だ。
欧米ではデット調達が盛んで、銀行などによる従来の融資だけでなく、新株予約権付融資などスタートアップのニーズに合うように設計された「ベンチャーデット」の活用が進む。直近のエクイティラウンドの20〜35%程度の調達額をベンチャーデットが占めるとも言われており、それに注力したファンドもいくつも存在する。
日本国内ではあおぞら銀行グループなどがスタートアップ向けのデットファンドを運営しているものの、プレーヤーの数自体が少ない。SDFキャピタルとしてはスタートアップ側のニーズも踏まえ、独立系のファンドとしてデットファイナンスの選択肢を広げていく計画だ。
エクイティ投資と銀行融資の間を埋める選択肢の提供へ
SDFキャピタルは創業者で代表取締役を務める福田拓実氏、マネーフォワードグループのマネーフォワードシンカ、スタートアップの経営管理部門の支援やM&Aアドバイザリー事業などを手がけるWARCが出資して共同で立ち上げた。
福田氏によると1号ファンドでは紀陽銀行やマネーフォワードを含む数社から数億円を集めており、今後最大で50億円規模を目指す方針だ。スタートアップのニーズに合わせて新株予約権付融資などのスキームも含めた資金調達手段を提供する。
投融資にあたっては福田氏自身が前職のトパーズ・キャピタル時代から成長企業への融資を手がけてきた中で培った経験だけでなく、株主でもあるマネーフォワードシンカとWARCの知見やネットワークも活用していく。
1社あたりの投融資金額は数千万円〜数億円程度の予定。主にアーリーステージ以降のスタートアップに対して資金を供給する。対象領域については限定しないものの、事業構造上は「日々売り上げがたっており、比較的事業の波が少ない領域」が特にデットファイナンスと相性が良いという。SaaSやD2C、Fintechなどがその具体例だ。
また、用途としてはいわゆる「ブリッジファイナンス」としての利用などがスタートアップやVC双方からニーズが高いそう。数カ月後〜数年後の事業の見通しは立っているものの、そこまでの運用資金を集める必要がある際、デットファイナンスであれば株式の希薄化を防ぎながら成長資金を確保することができるからだ。
日本でもデットファイナンスは数千億円規模になりうる
福田氏はUFJ銀行(現 : 三菱UFJ銀行)や企業再生支援機構(現 : 地域経済活性化支援機構)など数社を経て、2014年にプライベート・デット・ファンドを運営するトパーズ・キャピタルに創業メンバーの1人として参画した。
福田氏自身が新興企業への融資に携わるようになったのも同社に入社してからで、その際の経験がSDFキャピタルの創業に大きく関わっているという。
「知人やスタートアップの関係者から『(業界向けのデットファンドは)ニーズがある』と言われていたのですが、自分自身がスタートアップ業界の出身ではなかったこともあり、最初はあまりピンときていませんでした。VCもあるし、規模が大きくなれば銀行(融資)などの選択肢もある。でも実際に案件に関わっていく中で、リスクや資金使途、タイミングなどの観点から銀行とVCの間にはすきまがあることを知りました」(福田氏)
福田氏はトパーズ・キャピタルにおいて、約7年で10社程度の新興企業に融資を実行した。だが、その一方でファンドの条件などに合致せず「良い企業だけど断らざるを得ないこともあり、随分と機会を逃してしまった感覚もあった」と当時を振り返る。
具体的な投資検討がかなり進んだ企業で約20社、その前段階で断らざるを得なかった企業も含めると100社ほど。その中には後の急成長企業や上場企業も数社含まれていたという。
「スタートアップのファイナンスに詳しい方からは、福田さんがやろうとしてことは『Silicon Valley Bank(シリコンバレーバンク)だよ』と言われます。米国では同社を筆頭に(スタートアップを対象とした)デットファンドがいくつも存在し、エコシステムを支えている。金融でも米国の数年〜数十年遅れで日本においてトレンドになるということがあるので、ベンチャーデットに関してもこれからチャンスがあるだろうと考えました」(福田氏)
実際にトパーズ・キャピタルで融資に関わり始めた2014年と比べても「この数年でデットの活用が加速している感覚がある」というのが福田氏の考えだ。自身の実体験や海外の状況に加えて、国内のスタートアップのCFOやVCなどからも需要が大きかったことを受け、スタートアップデットファンドの構想を練り始めた。
当初は社内で立ち上げることも考えたが、最終的にはスタートアップ向けに注力したファンドを作るために、独立する道を選んだという。
SDFキャピタル共同創業者でマネーフォワードシンカの代表取締役を務める金坂直哉氏(マネーフォワードの取締役執行役員CFOも担う)は、福田氏が独立前から「スタートアップにおけるデット調達のニーズ」を聞いていたうちの1人だ。トパーズ・キャピタルを退職後には真っ先に連絡を取り、共同でのプロジェクトの立ち上げについて議論を重ねた。
もう1人の共同創業者でWARC取締役の石倉壱彦氏も、同じように自身がCFOや投資家として複数のスタートアップのファイナンスに関わってきた人物だ。
「米国では(エクイティラウンドの)2〜3割をデットが占めるとも言われています。(日本のスタートアップ調達額を)8000億円〜1兆円程度と仮定した上で純粋に当てはめると、国内のデットマーケットは数千億円規模になりうるだけのポテンシャルがある。でも僕の感覚では、もしかしたら現在は100億円にも届かないのではないかというくらいの状況です。この市場が拡大していけば日本のスタートアップの飛躍的な成長にもつながると思うので、スタートアップデットを通じて企業価値を上げていくサポートができればと考えています」(福田氏)