Photo: Luis Alvarez / Getty Images
Photo: Luis Alvarez / Getty Images
  • 「オンライン1on1」特有の難しさ
  • オンライン1on1で深く相手を理解するためにやるべき10のこと
  • 対面でもオンラインでも変わらない1on1のエッセンス

連載「プロが教える『コーチング・メソッド』」では、自身もコーチであり、パーソナル・コーチングサービス「mento」を展開するmento代表取締役の木村憲仁氏が新任マネージャー向けに「マネジメントに必要な素養」を語っていきます。第2回のテーマは、「オンラインでの1on1で深く相手を理解するためのコツ」です。

リモートワークが当たり前になって久しいですが、いまだに「(対面での)コミュニケーションの機会が減って部下の考えがわからない」「業務に関する会話のみでメンタルが消耗している社員が多い」という課題を頻繁に耳にします。

対策として、各社で1on1(上司と部下で行う定期的な1対1のミーティング)の推進が人事の注力施策となり、オンラインでの1on1に取り組む企業も増えています。しかし、ふたを開けてみると1on1で行われているのは、「業務内容の相談」や「散漫とした雑談」など、意義のある内容になっていないという悩みを人事の方からよく伺います。

一方、現場のマネージャーからすると「そこまで頻繁に話すことがない」「メンバーも特に話題がなく盛り上がらない」など、力を入れたくてもどうして良いかわからないと思っているケースも多いでしょう。

今回の記事では、1on1で悩める人事やマネージャーの方が「人材育成やエンゲージメント向上」といった本来の目的を果たすために知っておくべき、相手を深く理解するためのオンライン1on1のコツをお伝えします。

「オンライン1on1」特有の難しさ

1on1に限らずですが、オンライン会議は対面の会議よりも難易度が高い傾向にあります。人は無意識に相手が話している内容だけではなく、表情や声色・体の動きなど細やかな変化を捉えて、対話をしています。オンラインの場合、対面と比較して情報が欠落し、ちょっとした表情の変化や体の動き、返答の間など、人の持つコミュニケーションの機微が見えづらくなります。

また、画面に向かうためノイズとなる情報が多く、対話に集中し続けることがより難しくなります。つまり、対話の相手から得られる情報は減り、それ以外の情報がノイズとして加わるため、対面での会話と比べて格段に集中力が求められることが最大の難しさであると思います。

一方で、画面に向かっていても相手に一定の視線が配れるため、相手への関心を外しすぎることなくメモが取れ、カメラのON/OFFで情報量をコントロールでき、必要とあれば録画・録音できるなど記録に残しやすいことはオンラインのメリットと言えます。

オンライン1on1で深く相手を理解するためにやるべき10のこと

オンライン1on1でも対面1on1でも、共通して大切にするべきことは「いかに相手が自己開示しやすい環境をつくるか」という点です。

その原則に従い、オンライン1on1の特性をうまく活かし、マネージャーとして上手に1on1を行うためのコツを10のポイントにまとめていきます。

1. 集中できる背景をつくる

Zoom、Teamsなどのオンライン会議ツールでカメラをONにして会話する場合、1on1相手にはどうしても相手の背景が情報として入ってきます。

家だと家族が通りかかったり、オフィスの自席から入ると周囲の人の声が入ったりなど、第三者の存在を感じると、たとえ向こうには音声が聞こえていなかったとしても自己開示できる範囲が狭くなります。

可能な限り1人の空間を確保し、難しければバーチャル背景などを利用して第三者の存在を相手に感じさせない背景をつくりましょう。

2. セルフビューを非表示にする

相手を理解する上で、深い傾聴をすることがとても重要ですが、対話の際に「意識のベクトル」が自分自身に向かっていると、どうしても相手から得られる情報は頭に入ってこなくなります。

オンライン会議ツールは自分自身がカメラで映し出され、自分の顔を見ながら話すのが当たり前になっていますが、どうしても視覚的に意識のベクトルが自分に向けられてしまうきっかけになるため、セルフビュー(自分自身を表示する画面)は非表示にすることがおすすめです。

3. 先に自己開示する

オンラインの場合、一般的な会議と視覚的に変化がない状況で1on1も行われるため、意図的に場の空気の切り替えが重要になります。

切り替えのきっかけとして、自分から今日の心境などを話題にすることでモードが切り替わり、なんでも話していい空間に作り変えていくことができます。

4. 自分なりの「魔法のきっかけ言葉」を用意する

1on1の話はじめにありがちな「何か話したいことある?」「最近どう?」という問いかけは、相手に会話のきっかけを要求するためプレッシャーとなり、思考を狭くしがちです。

そのため「最近元気そうに見えるね、よく何を考えている?」や「すこし元気がなさそうに見えるけど、気になってることでもある?」など、自分から見えた様子などを添えて渡すことで、自然と対話が始まりやすい状況をつくります。

5. 画面上で関心を示す・距離を取る

人は相手が自分の話に興味がありそうだと感じると、自己開示が進みます。そして、興味の有無は声だけでなく姿勢や目線など、複合的な情報をもとに判断しています。そのため、関心を示す簡単な方法は「身を乗り出して聞く」ことです。重要な話では、PCに少し顔を近づけることで、相手が関心を持っていると感じられやすくなります。

反対に、ずっと顔を近づけ正面を向くと相手にプレッシャーを感じさせ続けることもあります。相手や内容によっては画面から遠ざかり、時には画面をOFFして聴覚に集中することで話しやすくなるケースもあるため、相手の心地よいパーソナルスペースを探りましょう。

6. 対面の1.5倍大きなリアクションをする

オンラインでは、カメラがあっても胸部より上しか映りません。そのため、対面で伝わる情報の半分以下しか伝わっていないため、カメラのフレームの中でメッセージを伝える努力が必要になります。

そのため、身振りや表情など普段の1.5倍くらい大きいリアクションを取ることでようやく、相手にはっきりと自分の感情や反応を伝えることができます。

7. 話を遮らないよう途切れるタイミングをよく観察する

オンラインでは会話の間合いを取るのが難しく、どうしても話の出だしがぶつかるケースがあります。そして、ぶつかると途端に話したい気持ちが削がれてしまうため、相手が言いたいことを言い終えたかどうかを観察し、終わる前に自分の言いたいことを話し出さないようにセルフコントロールが求められます。

それでも発話がぶつかってしまったら、手振りを交えながら「続けてください」とすぐに相手に主導権を戻しましょう。

8. 沈黙を恐れない

オンライン1on1での沈黙ほど気まずい時間はなかなかありません。どうしても隙間を埋めるために自分から話を続けたくなります。ですが、沈黙を破ることを相手に求めることで、対話の主導権を奪わずに、自己開示がしやすい環境に近づくこともあります。無理に会話の隙間を埋めず、相手が考える時間を待つことが重要です。

9. 合意を得てメモを取る

相手の話を聞きながら、話してくれた内容のメモを残しましょう。相手からすると自分の話をメモしているのか、他の作業をしているのか分かりづらいので、冒頭に「メモをとるね」と宣言することも重要です。メモの最中はカメラから目を話しすぎず、あくまでも聞くことを優先しながらメモしましょう。

またメモを次回の冒頭に読み返して、「前回はこんなこと言っていたけど、どうなった?」などと持ちかけることで、相手は自分への関心を感じてより信頼が築けるようになります。

10. 録画で自分の発話を振り返る

相手から許可をもらい、1on1の様子を録画するのもおすすめです。自分自身が相手にどんな態度で接しているのかを客観的に見つめ、発言の一つひとつが相手にどんな印象を与えていそうか考えることで、コミュニケーションが変わるきっかけになります。

その際に重要な観点は、会話の中で何回問いかけたかどうか、です。自分の考えを述べるのではなく、相手に考えを促す問いかけの回数をひとつのKPIとして見直していくことで、自己開示できる1on1が自然と身についていきます。

対面でもオンラインでも変わらない1on1のエッセンス

オンライン1on1で使えるTipsをお伝えしてきましたが、重要なのは「相手に関心を向ける」ことです。オンラインでは関心が逸れやすく、相手にも伝わりづらいという特性もあるため、ちょっとした工夫を積み重ねることでグッと相手が話しやすくなります。

1on1のコミュニケーションに正解はありませんが、限られた時間で関係性の質を上げる投資としてはとても有効な手段です。ぜひお伝えした内容を実践して相手の反応の変化を楽しんでみてください。