シンプルフォームの創業者で代表取締役CEOを務める田代翔太氏
シンプルフォームの創業者で代表取締役CEOを務める田代翔太氏
  • 煩雑な法人調査を自動化、30秒で企業のレポートを出力
  • 銀行出身の起業家が開発、テクノロジーとマンパワーを掛け合わせた独自情報が強み
  • 「すべての法人がフェアに評価される仕組み」実現へ

さまざまな業界でDXが進む昨今、テクノロジーの活用でさまざまなサービスがオンラインで完結するようになりつつある。金融サービスも例外ではない。インターネット上で決済が完了し、銀行口座もオンライン上で開設できる。ネットでスピーディーに手続きや審査が進められる融資サービスも広がってきた。

表側がどんどん便利になった反面、裏側のプロセスにおいてはまだまだ改善の余地も大きい。法人向けの金融サービスにおいて重要な「法人調査」もその1つだ。

むしろデジタル化の影響で金融サービスの非対面化が加速し、これまで以上に金融機関が法人の情報を調べる作業が大変になってきている側面もある。

2020年10月創業のシンプルフォームが開発した「SimpleCheck(シンプルチェック)」は、この法人調査プロセスを自動化することで金融機関の担当者の負担を軽減し、さらには審査の高度化までをサポートするサービスだ。

SimpleCheckの特徴は、法人名を入力すれば約30秒でその企業の最新情報やリスク情報をまとめたレポートが手に入ること。テクノロジーとマンパワーを組み合わせ、情報が不足しがちな中小企業や新興企業などを含めた独自の法人データベースを構築している。

シンプルフォームの創業者で代表取締役CEOを務める田代翔太氏は日本政策投資銀行の出身。銀行員時代に新興企業の調査業務に携わる中で、情報の不足や調査の大変さを感じたことがSimpleCheckを開発するきっかけになった。

本日の正式ローンチに先がけて、シンプルフォームでは2022年5月にDNX Venturesとインキュベイトファンドから7億円の資金も調達済み。今後は組織体制の強化やサービスの機能拡充を進めていく計画で、今秋を目処に個人事業主のデータベースの提供も予定しているという。

SimpleCheckのサービスイメージ
SimpleCheckのサービスイメージ

煩雑な法人調査を自動化、30秒で企業のレポートを出力

SimpleCheckは調べたい企業名を入力するだけで、約30秒後にその企業の実態やリスク情報をまとめたレポートが出力されるデータベースだ。

たとえば「その企業が登記住所に存在するのか」「過去に行政処分を受けていないか」「事業規模がどのように推移しているのか」「(コンプライアンスの観点で)リスクのある事業や商材ではないか」「ネット上ではどのような評判なのか」といった情報を一箇所にまとめて表示する。

強みは独自の情報だ。登記簿や官報、その企業が運営しているサイトを始めウェブ上に散らばるさまざまな情報を収集しているだけでなく、そもそも“ウェブ上には存在しない情報”を運営チームがマンパワーをかけて集めている。

後者に関しては実際に現地で会社の状況を調べたり、行政機関に問い合わせをしたり、紙ベースの情報を取り寄せたりすることでSimpleCheckにしかない情報が蓄積されているという。

「イメージとしては伊能忠敬のようなことをしたいと思っています。金融は現実世界で発生しているものですが、それが近年『ウェブで申し込みを受け付ける』といったかたちで、どんどんデジタル化されてきている。そこで課題になるのが、情報の断絶があることです。(サービスを提供する上で必要な法人調査に必要な情報は)ウェブで検索しても出てこないものも多いので、必ず人の力が必要になります」(田代氏)

既存の信用調査会社や情報ベンダーが手がけるデータベースなどでは十分にカバーできていなかった中小企業や新興企業の情報を網羅的に収集しているのもポイントだ。

これらの企業の情報収集は顧客からの申告や担当者によるネット検索、簡易的な反社チェックなどに頼るしかなかった。特に「金融機関のコンプライアンス水準に合わせた法人調査」という観点では情報が不足しがちな上に、DXによる非対面取引の拡大でその難易度自体も上がっていることから、喫緊の課題になっている企業も少なくない。

田代氏によると、SimpleCheckを活用すれば法人調査の「効率化」と「高度化」の2点において効果が見込めるという。効率化については担当者が手動で時間をかけてやっていたことの大部分が自動化され、サービス上から欲しい情報に簡単にアクセスできる。

高度化に関しては、今まで金融機関の担当者が自力では集めきれていなかったような情報もカバーすることで、多角的な面からより正しく企業の評価ができるような仕組みを作った。

正式ローンチ前の段階ですでに10社以上がSimpleCheckを活用している状況で、JCBやクレディセゾン 、東京海上、大同生命などの大手金融機関を中心に、リクルートや三井不動産といった非金融系のエンタープライズ企業でも活用が進む。

たとえば金融機関が口座開設の審査や加盟店の管理において法人の情報を調べる際などはわかりやすいユースケース。M&Aのプラットフォームで対象企業の調査をする目的で使われている事例もある。

SimpleCheckの特徴
SimpleCheckでは煩雑な法人調査を自動化するのが特徴

銀行出身の起業家が開発、テクノロジーとマンパワーを掛け合わせた独自情報が強み

冒頭でも触れた通り、SimpleCheckは田代氏が銀行に勤めていた際に感じた課題を解決するために開発したサービスだ。前職でデジタル関連の部門に携わっており、取引先と新興企業をつなぐような役割を担っていたが、その企業の情報を調べるのに苦労した。

「(法人の情報を)人間が見ることで事業のスケーラビリティが制限されてしまうことに課題を感じていました。DX推進などの文脈で表側は変わっても、裏側のチェックする仕組みはこれまでと変わらず人間が担っている。この構造自体を変えていかないとスケーラビリティの問題に対応できないという課題感は、いろいろな金融機関の方と話していても共通するものでした」(田代氏)

同じ業界で働く20〜30人の知人にヒアリングをしても、抱えている課題やニーズはほとんど変わらない。そこで起業に踏み切り、法人調査の構造を変えるプロダクトの開発を始めた。

当初から一貫してメインターゲットとして考えていたのは金融のエンタープライズ企業だ。そのような企業にも使ってもらえるレベルのサービスを作ることができれば、他の業種や規模の企業に向けても展開しやすい。何より自身のバックグラウンドを踏まえても、そこに挑戦するからこそやる意味があると考えた。

当然ながら求められるサービスのレベルは高くなるため「バーンアウト(資金の枯渇)するんじゃないか」とヒヤヒヤしながら、約1年の期間をかけてプロトタイプを作り込んだ。

開発を始める前からヒアリングなどを通じて顧客のニーズを捉えている手応えはあったが、自信を深めるきっかけになったのは、現地に行かないとわからない情報や紙で扱われていた情報なども含めて一元管理できる構想をターゲット企業に話したこと。コンセプトのみの段階にも関わらず複数社から「これが欲しかった」と言われることが増え、サービスに対する食いつきも変わったという。

最初の顧客にサービスを導入してもらったのが創業からちょうど1年が経過した2021年の10月。そこから半年強で少しずつ導入事例を増やしながらサービスを改善し、正式ローンチまでこぎつけた。

「すべての法人がフェアに評価される仕組み」実現へ

今後は調達した資金を活用して組織体制を強化するとともに、さらなるデータベースの拡充やプロダクトの機能強化に取り組む。中小企業や新興企業だけでなく、個人事業主のデータベースの開発なども進めていく計画だ。

「従来の仕組みのままDXが進んでしまうと、ディストピアになる可能性があると思っているんです。しっかりと情報がある会社だけが低コストでさまざまな金融サービスにアクセスでき、情報がない会社には金融サービスが流れてこないという状況になってしまいかねない。そのギャップを埋めていくことが、SimpleCheckの役割だと考えています」

「金融機関の課題を解消することがサービスの大きなコンセプトではありますが、目指しているのはすべての法人がフェアに評価される仕組みを作ること。それによって、よりチャレンジがしやすいような世界を実現していきたいです」(田代氏)