
- VTuberとは何か? 既存のYouTuberとは何が違う?
- ANYCOLORのビジネスモデルを読み解く「3つのポイント」
- すでに2期目から黒字化、UUUMより高い粗利率
- これまでの資金調達と上場時の公募と売出しについて分析
- 上場後のANYCOLORはどうなる? 注目すべき「4つのポイント」
IT業界を中心にM&Aの仲介やアドバイザリーを展開しているM&A BASE代表取締役の廣川航氏が直近のM&Aや新規上場承認された企業のビジネスを分析していきます。今回は先日、東証グロース市場に上場したANYCOLORについての分析です。
はじめまして、M&A BASE代表の廣川航と申します。今回からDIAMOND SIGNALでM&Aや新規上場承認された企業を分析する連載をスタートしていけたら、と思っています。第一弾は、先日上場してあっという間に東証グロースで時価総額ランキングで1位までいってしまったANYCOLORについての分析をまとめていきます。
ここがスゴい! ANYCOLORの分析ポイント
- 日本初の「VTuber」運営会社の上場であること
- マネタイズが広告だけでなく、コマースやイベントなど幅広いこと
- 「VTuber」の再現性が高いこと(上場直前に「壱百満天原サロメ」を投入し、短期間で1チャンネル登録者数100万人を達成している)
- 上場時の増資と売出がとても少なかったこと
VTuberとは何か? 既存のYouTuberとは何が違う?
まず始めに、ANYCOLORが展開する事業「VTuber」について解説していこうと思います。VTuberとは「Virtual YouTuber」の略称であり、配信者をモーションキャプチャー技術を利用してバーチャルキャラクター(アニメキャラクター)に置き換えて動画を配信することを指す言葉です。通常のアニメと比べて双方向性があるなど、動きが人間らしいという特徴があります。また、YouTuberと比べて配信者の容姿や生活と関係なく、アニメならではのキャラクター・世界観の表現やIPとしての展開が可能です。
ただ、誰でもVTuberになれるわけではなく、オーディションを経た上で、VTuberの運営会社と配信者が業務委託契約を締結します。そして、配信者が運営会社の持つ2Dおよび3Dでの配信を可能にするツールやSNSを貸与されることでVTuberになることができます。
通常のYouTuberの場合、自分自身でYouTubeやSNSに登録して配信を始めたり、動画を自分でつくったりしますが、VTuberの場合は2D及び3Dでの配信を可能にするツールが必要になります。そこが1つの“ミソ”となっており、配信者は活動をやめてしまうと、このツールが使えなくなってしまうので、通常のYouTuberと比べて辞めにくくなっています。また、そもそものIPについては、企業が持つことになります。
ANYCOLORのビジネスモデルを読み解く「3つのポイント」
ANYCOLORは、VTuberプロジェクト「にじさんじ」を運営しています。マネタイズについてですが、大きく3つのポイントで見ると分かりやすいです。

1つ目が、ライブストリーミングです。配信者がYouTuberなどで配信しながら、ギフティングのSuper ChatやYouTubeメンバーシップ、Google AdSenseで収益を得ます。
2つ目が、コマースです。VTuberのオリジナルグッズやVTuberの音声を録音したデジタル商品を販売、ファンクラブの運営、イベントを開催することで収益を得ます。「にじさんじオフィシャルストア」での販売がメインになっていますが、運営は株主でもあるソニー・ミュージックの子会社のソニー・ミュージックソリューションズに委託しています。
3つ目が、プロモーションです。タイアップ広告やIPライセンス、メディア出演をすることで収益を得ます。
VTuberのようなIPビジネスの場合、ライブストリーミングの収益が大きくなってしまいそうですが、ANYCOLORはすでにコマースの売上が大きな割合を占めています。

IPをもつエンターテイメント企業において、マネタイズ手段を複数持っており、なおかつバランスよく収益を上げることは成長性や企業の存続において重要なポイントです。日本では、ソニーやバンダイナムコのような比較的体力がある会社に限られると思います。
また、エンターテイメント企業において重要なポイントは、再現性です。1つのIPで大きく成功していても(1つを成功させることも難しいですが)、次が続かずに廃れていってしまっている会社も多いのが現状です。中には、Netflixのように莫大なデータ・莫大な資金・大勢の優秀な人を生かして大量にコンテンツをつくり続けたり、ディズニーやソニーのようにそもそもIPを買収したりしてくる会社もあります。
そのような中でANYCOLORの場合は、まずコンスタントに数を生み出し、その中のいくつかをしっかり伸ばしてきた結果、チャンネル登録数が特定のチャンネルにかたよらずに複数のIPが立ち上がっています。具体的には、100万人以上が3人、50万人以上が20人いますが、これらのすべては直近5年以内に立ち上がったVTuberです。
上場直前に投入した新VTuber「壱百満天原サロメ」は、あっという間に100万人の登録者を獲得しています(6月20日時点では133万人超)。このように再現性高く人気VTuberを生み出せるのは、これまでのIPを育ててきたケイパビリティのたまものでもありますし、配信者のマインドによるところもあると思います。
また、今回のANYCOLORの動きを見て、そもそも上場するにあたっては、新しいIPを垂直で立ち上げられることを上場直前からみせるくらいの余裕がないと難しいのかなと思いました。

また、制作コストも重要なポイントです。昨今、ゲームや映画などを始めとして制作費が高騰しています。配信の際のツールについてはある程度つくり込まれているとは思いますが、配信者やVTuberを作成するデザイナーなどは引き続き、「人」であることが個人的には気になるところでした。
その一方で、にじさんじのユーザー基盤を見てみると、29歳未満が84%を占めていながら、これだけの売上を生み出せています。加えて女性比率が56%と男性より高い割合になっている点は、個人的には驚きました。

すでに2期目から黒字化、UUUMより高い粗利率
創業4年で売上76.3億円で営業利益も14.5億円となっています。最近でこそ、SaaSなど大きく赤字を掘りながら成長させていくモデルが多い中で、2期目から利益を出しており、直近の四半期ではさらに伸びています。

ここで、上場している似た業態の企業と比較します。VTuberビジネスを単体として展開している同業はいません。そこで「YouTubeを活用した事務所」と「ギフティングサービス」という観点で、UUUM(2017年5月)とモイ(2022年4月)がほぼ同規模だったときの業績で比較してみました。

UUUMと比べて利益率が高いことがわかります。直近の粗利率はさらに向上しています。これは、配信システムをANYCOLOR自体が保有していることや複数のマネタイズを持っていることによって向上していることがわかります。
続いて主要な販売先についてですが、Googleの比率は高いものの、ピクシブやソニー・ミュージックソリューションズも大きい販売先になっています。

これまでの資金調達と上場時の公募と売出しについて分析
ANYCOLORの最初の資金調達はSkyland Venturesからの600万円でスタート。その後も増資はしますが、それほど希薄化してないのが特徴かなと思います。
それもそのはずで、業績をみれば2期目から黒字化してますので、資金調達がマストだったかと言われると、途中からはそれほどでもなかったのではないかと推測しています。また、一度もダウンラウンドなどはせずに、上場もしっかりと最後のラウンドの5倍以上になっています。


そして、今回の上場時の大株主について見ていきます。ここでは、SOは含んでいません。4回目以降に投資したHODEとLC FUNDが大株主でありながら、シード投資家のSkyland Venturesもかなりの保有比率となっています。

続いて、想定価格と初値におけるマルチプルです。想定価格での予想PERの18.4倍とかなり抑えられたものになっています。

そして、今回の公募と売出しについてです。今回の売出しのメインは、もともとはアドウェイズやKLabなどのエンジェル投資家でしたが、最終的にSkyland Venturesも少し売出しに応じています。直近のトレンドでは、上場時に大半のVCに売出しに応じてもらいながら、機関投資家に投資してもらうことでオーバーハング(上場後の売り圧力)を抑えることが多かったと思いますが、後半のラウンドに入ったVCは売却せず、流動性も絞った上での上場になりました。
また、直近のトレンドでは、売出し先の大半を海外とすることが多かったと思いますが、国内での販売が大半になっています。個人的な推測ですが、やはり想定価格を含めて低いと思われていたのかなと思います。
上場後のANYCOLORはどうなる? 注目すべき「4つのポイント」

最後に、今後の展開についてみていきます。成長可能性の資料にもある通り、対象となるTAM(獲得可能な最大市場規模)は大きく、動画広告や音楽市場への拡大をめざしています。また、所属VTuberの安定的な増加や育成強化、VTuberの構成の強化、プロモーション強化、ライバーのコンテンツ配信サポート、海外との可能性を膨大に秘めています。
一方、上場したANYCOLORについて、個人的に注目している観点が4つほどあります。
1つ目は再現性をどこまで維持できるのかです。育てるケイパビリティを持っていることは理解しつつ、配信者に頼っているところは多分にあるので、しっかり配信者を獲得し続けられるのかどうかは注目しているポイントです。
2つ目は、ひとつのIPでどこまで伸ばすのか。基本的にユーザーのリーチと単価の両方を上げるのは難しくなっています。そのような中で単価を上げにいくのか、もしくはリーチ数を増やすのか。はたまた両方を狙うのか。注目しています。(参考リンク)
3つ目は、同じくVTuberの事務所である「ホロライブ」を運営する競合スタートアップ・カバーの動きです。カバーは莫大な登録者数を誇るVTuberを複数持っており、今後の動きに注目です。最後は、VCを始めとした大株主の動きです。時価総額は大きくはねた一方、ロックアップ前からどのように対策していくるのか。外銀出身CFOである釣井慎也さんの評価も高く、腕の見せどころだと思います。