NOT A HOTEL NFT
  • 約2カ月でほぼ完売した「ホテルとして運用できる住宅」
  • 旅する先が毎年変わるNOT A HOTELのNFT会員権
  • 分割・NFT化によって資産性と流動性を持たせる

アプリひとつで住まいとホテルを切り替えることが可能な「住めるホテル」を開発・販売するNOT A HOTELが、今度はNFT化したホテルの利用権販売を開始する。

6月21日、同社が明らかにしたNOT A HOTELのメンバーシップ制度は、1棟あたり3億円台から8億円台で販売されている同社の物件(部屋)の利用権を1日単位にまで分割し、NFTとして125万円からという価格で販売するものだ。販売開始は8月を予定している。

どのような仕組みでサービスを提供するのか、そしてNFT販売の意図は何か。同社代表取締役CEOの濱渦伸次氏に聞いた。

約2カ月でほぼ完売した「ホテルとして運用できる住宅」

NOT A HOTELは、アプリ上で自宅とホテルの切り替えや、室内のコントロールができる「ホテルとしても運用可能な住宅」だ。購入したオーナーは、住宅や別荘として部屋を利用するだけでなく、旅行や出張で家を空ける際には、専用アプリですぐにホテルとして運用できる。

ホテルとしてのオペレーションはNOT A HOTELが代行するため、オーナーはアプリで不在の日を指定するだけで、簡単にホテル運営が可能。1棟単位の購入だけでなく、最大12人で共同購入できる「シェア買い」でも、オーナーが利用しない日はホテルとして貸し出して収入を得ることができる。

NOT A HOTEL サイトイメージ

2021年9月には第1弾となるフラッグシップモデルをオンラインで販売開始。宮崎県青島の「NOT A HOTEL AOSHIMA」と栃木県那須の「NOT A HOTEL NASU」の2拠点の販売価格は、1棟購入で3億960万円〜8億3760万円。年間30日分を1単位として購入するシェア買いでも1単位あたり2580万円〜6980万円と、決して安い買い物ではないのだが、すでにほぼ完売の状態だ。

NOT A HOTELでは、オーナーがすべての拠点のNOT A HOTELを相互に利用できる。オーナーは自分の所有する利用可能日数を使い、ほかのNOT A HOTELにも泊まることができる(部屋によっては、差額の支払いが必要)。

またオーナーだけが1日1組限定で利用できる「EXCLUSIVE HOUSE」を東京の広尾と浅草にも用意するほか、複数のトレーラーで構成された「移動するEXCLUSIVE HOUSE」も準備している。また今後は都市型コンドミニアムを福岡で展開し、今夏にも販売開始を予定。さらに北軽井沢にも拠点を設ける計画だ。

旅する先が毎年変わるNOT A HOTELのNFT会員権

今回のNOT A HOTELのメンバーシップ制度は、通常は1棟単位で3億円台から8億円台、年間30日分の権利を1単位として購入できるシェア買いでも2500万円から7000万円弱する別荘の所有権ではなく、利用権を1日単位に分割して、NFTとして125万円〜で販売する仕組みだ。権利の有効期限は2023年から2070年までの47年間となっている。

濱渦氏は2021年9月の取材でも「将来的には1000万円を切るぐらいまでのラインアップをそろえたい」「不動産を証券化して、これを小口のセキュリティトークンとして販売したいというのが最終目標」と述べていた。

ただ1日単位に区切ったとしても、やはり不動産として販売するには重要事項説明や、登記のために司法書士への依頼が必要になるなど、「コストが全然合わない」状況だと濱渦氏。そこで考えついたのが「メンバーシップ(利用権)をNFTで販売する」という手法だった。

「今のNFTには、デジタルアートやキャラクターといったものが多いじゃないですか。僕らはよりリアルなアセットとひもづけるようなものを考えていました。そこで今回は年間の365分の1、つまり1日分の権利をメンバーシップとして販売することにしました」(濱渦氏)

NOT A HOTELのメンバーシップをNFTで買うと、デジタルカードが入手できる。カードは購入時点では無地のパッケージだが、NFTトレーディングカードの「NBA Top Shot」と同様に“開封(リビール)”すると中身が現れ、月日がランダムで刻印される。そして、毎年その日にNOT A HOTELのある1室を使える権利が付与される。

購入直後とリビール後のメンバーシップカードのイメージ
左が購入直後、右がリビール後のメンバーシップカードのイメージ

このメンバーシップを持つ人には毎年、カードに刻印された日の3カ月前、その年に使える部屋の鍵がカードとは別のNFTで届けられる。使える部屋は固定ではなく、毎年NOT A HOTELのいずれかの部屋が割り当てられる。

「僕らは拠点を今増やしているところで、来月再来月にも拠点が完成していきますが、その後もいろいろと計画が進んでいます。NOT A HOTELの拠点数が増えれば、NFTを持っている人たちの旅先も増えていく。旅先が毎年変わる楽しみがあるというのが、このメンバーシップの面白いポイントです」(濱渦氏)

このメンバーシップカード、あるいは毎年届くNFTの鍵は、それぞれOpenSeaなどのセカンダリーマーケットで販売したり、プレゼントしたりすることが可能だ。

「1泊の宿泊権であれば、クラウドファンディングで販売すればいい、といった考えにもなるんですが、『その日泊まれる権利が47年続く』ということは、365日分のNFTを買えば47年の不動産の権利を持っているのに等しくなります。架空の土地やキャラクターのイラストなどをNFTで買うのではなく、限りなくリアルな土地や建物に近い権利を買うというコンセプトが新しいと考えています」(濱渦氏)

メンバーシップには730日分、すなわち365日×2部屋分の権利が割り当てられる。そのうち670日分を年1泊の権利としてNFTで販売する。拠点が増えるまでは、彼らがメンバーシップ制度用に自社所有して確保する青島の「SURF」と「GARDEN」の2部屋を利用できるようにし、拠点が増えるにしたがって泊まれる場所を増やしていく。

また3連泊が可能な「NOT A HOTEL EXCLUSIVE」も20点(60日分)発行。こちらのメンバーシップでは年3泊の権利に加え、NOT A HOTELオーナーだけが限定利用できる施設(EXCLUSIVE HOUSE)を有償で利用することができる。

3連泊が可能な「NOT A HOTEL EXCLUSIVE」のカードイメージ
3連泊が可能な「NOT A HOTEL EXCLUSIVE」のカードイメージ

分割・NFT化によって資産性と流動性を持たせる

日本の法律では、土地建物の所有には登記が必要であるため、今回のメンバーシップは不動産の法的な所有にはあたらない。そこで利用権の長期間保有をブロックチェーン上で保証することによって、擬似的に「毎年1泊する権利」を保証しようというのが、今回の取り組みだと濱渦氏は説明する。

「実は去年は6人ぐらいだった社員がもう50人近くにまでなってきて、社内のメンバーからも『NOT A HOTELのことはすごく好きだけれども(高くて)買えない』という声が上がるようになりました。ローンを組むというのも重いですし、何とか年に1回使える権利を分割して売る方法を探していたんですが、なかなかその方法が見つからない。そうしているうちに、去年の末ぐらいからNFTの盛り上がりがあって、これを使えば行けるかもしれないとプランを作り始めました」(濱渦氏)

販売価格は冒頭でも述べたとおり、日本円で125万円から。販売時のイーサリアム(ETH)の相場によってNFTとしての値付けをする。

「ただの宿泊権だと資産性が担保されませんが、NFTであることで、その人が所有していることが分かりますし、セカンダリーマーケットで売買できるような流動性を持たせられることが、やはり魅力となると思います。会員制リゾートやタイムシェアは不動産なので、たとえ年に20泊分でもやはり、NOT A HOTELのシェア買いと同じぐらいの金額になってしまい、100万円単位では買えません。転売するときも『30日単位で数千万円』だと流動性という部分でも売買しにくいです」

「また、1つの拠点だけでなく、今後できるNOT A HOTELの拠点も含めて利用できる権利を買えるという点で、遊びの要素があるのが楽しい。メンバーシップのNFTを買うと、まっさらなカードが来て、それをリビールしたら日付が出てきて、それが毎年旅する日になるって、結構ロマンチックじゃないですか。今までNFTってリアルじゃないものがほとんどでしたけど、実際に行ける、旅する日になるというリアルとの接点がNFTで実現できると、よりNFTにも価値が出るのではないでしょうか」(濱渦氏)

海外では、NFTを購入すると使えるプライベートダイニングのプロジェクト「Flyfish Club(フライフィッシュクラブ)」が、会員権を発売からすぐに完売してニューヨークで開店準備を進めるなど、リアルな体験とNFTを結びつけて販売する動きが出始めている。濱渦氏は「日本でもそういう事例が出てくると面白いんじゃないかと思っています」と語っていた。