
日本トレンドリサーチが実施した「歯列矯正に関するアンケート」によれば、歯並びが気になる人の割合は47.1%にものぼるという。歯並びを改善する手段として知られているのが「歯科矯正」だが、費用が高額であるほか、期間が長く、またワイヤー型の矯正は見た目が気になるといった観点から二の足を踏んでしまう人もいる。
そうした中、3DプリンターやCAD(Computer Aided Design)といった技術の普及とともに、台頭してきたのがマウスピースによる歯科矯正だ。ワイヤー矯正と比べて、適用症例は限られるものの取り外しができ、なおかつ透明で目立ちにくいといった点が特徴となっており、近年人気が増加。また、コロナ禍でのマスク生活が長期化したことから、マウスピースを使って歯科矯正に取り組み始める人も増えてきている。
マウスピース型の歯科矯正ニーズの高まりとともに、ここ数年でオンライン・サブスクリプションを軸にしたマウスピース型の歯科矯正サービスを提供するスタートアップも増えてきている。3Dテクノロジーを用いた透明マウスピース型の歯科矯正サービス「DPEARL(ディパール)」を展開するフィルダクトもそのうちの1社だ。

フィルダクトの設立は2018年3月。代表取締役の金子奏絵氏は国家資格の歯科技工士免許を保有しており、東京医科歯科大学大学院に在学中に現在のサービスを構想した。背景にあったのが、オーラルヘルスケア(予防歯科の習慣化)と歯科業界の歪みの是正だ。
「歯並びは見た目に関するコンプレックスの原因になるだけでなく、全身疾患の引き金になるリスクもはらんでいます。しかし、日本では歯の予防医療は進んでいません。健康寿命を伸ばしていくためにも、オーラルヘルスケアの普及は今後間違いなく必要であると感じました。それと同時に歯科医が抱える集患コストという課題、そして歯科医の下請けで働く歯科技工士が買い叩かれてしまう業界構造も是正していきたいと思ったんです」(金子氏)
その第一歩として、金子氏が考えたのが歯科矯正サービスだった。昨今、マウスピース型の歯科矯正サービスを提供するプレーヤーの数は増えてきているが、中には「月〇〇円から」という安さを前面に出した広告で集客する一方で、品質の良くないマウスピースを提供し、結果として全然矯正が進まなかったりする事例もあるという。
そうした中、フィルダクトが展開するDPEARLは歯科医師と歯科技工士の知見に基づく診断・治療計画の提案、月1回程度の定期通院によるメンテナンス、LINEアプリでのサポートを特徴としている。

また、歯科医師と歯科技工士の知見を活用することで、前歯のみを動かす「部分矯正」、噛み合わせや機能面も考慮した奥歯から動かす「全顎矯正」の両方に対応しており、金子氏によれば「90%以上の症例に対応している」という。
「DPEARLは利用者からいただいた料金を、歯科医と歯科技工士に適正分配するモデルを構築しています。その結果、歯科医に対しては広告費ゼロで集患を行い、歯科技工士に適正価格での製造依頼を可能にし、両者が抱える課題を解決しています」(金子氏)
DPEARLでは3DプリンターやCADなどのテクノロジーや独自ツールの開発によって、歯科矯正にまつわる中間業務の効率化を実現。それにより、「従来の歯科矯正の約2分の1程度の価格(約30〜60万円)でサービスを提供できている」(金子氏)とのこと。

2019年11月に先行受付を開始し、2020年3月にサービスを正式ローンチした後は市場ニーズの検証や製造キャパシティの確保、そして歯科クリニックとの提携に取り組んできたフィルダクト。2022年3月には、DPEARLの申し込み窓口であるLINE公式アカウントでの友達登録数が累計1万人を突破するなど、サービスへのニーズは高まりつつある。
この2年ほどで「ニーズには応えられるだけの製造キャパシティは確保できた」(金子氏)というフィルダクトだが、課題となるのは提携歯科クリニックの数だ。
DPEARLは申し込み後、提携クリニックでの診断が必要となるが、現在は東京6件、埼玉2件、千葉1件、山梨1件、愛知1件、青森1件の合計12クリニックしか提携できていない。「そのため、すべてのニーズに応えられているわけではなく、お待ちいただいている状態にある」(金子氏)という。
そのため、フィルダクトは本格的な全国拡大フェーズを見据え、プロダクトのUXとオペレーション強化によるサービス品質の向上、事業拡大に伴う採用を目的に約1.5億円の資金を調達したことを6月23日に発表した。引受先となったのは、Mistletoe Japan、セグメント、OPEN VENTURESおよび個人投資家だ。
今後はクリニックのネットワークを拡大していき、サービスの提供範囲を全国へと拡大していく狙い。岸田内閣が掲げる経済財政運営の指針、いわゆる「骨太の方針」に「国民皆歯科検診」の検討を始める方針が明記されたこともあり、歯科矯正なども含めたオーラルヘルスケアに関する注目はますます高まっていきそうだ。