
- 月間30万食のデータを活用、事業者の経営や商品開発を支援
- 物販やサービスにも広がる「店舗型モビリティ」
- 事業会社などから10億円を調達、社会のインフラとなるサービス目指す
新型コロナウイルスの拡大を1つのきっかけにデリバリーやクイックコマース関連のサービスが広がり、都市部を中心に自宅にいながら食事や日用品を簡単に注文できる環境が整ってきている。
これらのサービスは注文した商品が指定の住所に届くものだが、今回紹介するのは「ユニークな店舗がお店ごとオフィスや自宅の近所までやってくる」サービスだ。
2016年創業のMellowが手がけるのは、キッチンカーを始めとする“店舗型モビリティ”と街の中の空きスペースをつなぐプラットフォーム「SHOP STOP」。もともとはキッチンカーとオフィス街のスペースをマッチングするサービスとしてスタートしたが、近年はパンや鮮魚、靴磨き、自転車修理、美容など店舗の種類も拡大し、登録店舗数は約1600店にのぼる。
エリアもオフィス街から住宅地まで670カ所をカバーし、全国20都道府県でサービスを展開。「さまざまなお店が近所まで来てくれるサービス」へと生まれ変わりつつある状況だ。
Mellowでは今後も組織体制を強化しながら店舗やエリアを拡充していくほか、システムへの投資やデータの活用にも力を入れていく計画。そのための資金として複数の投資家からシリーズBラウンドで総額約10億円を調達した。
- トヨタファイナンシャルサービス
- 損害保険ジャパン
- 東京海上日動火災保険
- BRICKS FUND TOKYO(三菱地所株式の運営する投資ファンド)
- 清水建設
- 東急不動産ホールディングスのCVCファンド
- 電通ベンチャーズ
- 博報堂DYベンチャーズ
- PKSHA SPARX アルゴリズム1号ファンド
月間30万食のデータを活用、事業者の経営や商品開発を支援

SHOP STOPはもともとキッチンカーとオフィス街の空きスペースをマッチングする「TLUNCH」としてスタートした。
事業者目線ではキッチンカーは常設型の店舗に比べて初期費用やランニングコストがかからないため挑戦のハードルが低く、移動型ならではの商圏の広さも魅力の1つだ。一方で“良い出店場所”を確保することは簡単ではない。Mellowではオフィス街を中心に優良なスペースを開拓し、適切にマッチングしていくことで事業者を支援しながら事業を拡大してきた。
大きな特徴が出店管理システムを活用した配車の最適化とデータを用いた事業者の経営支援だ。
Mellowの強みは「いつ、どこで、どのお店が、どれだけの売上を上げたのか」というデータを数年分にわたって蓄積していること。キッチンカーを含む店舗型モビリティはその特性上、同じスペースに出店する店舗がどんどん入れ替わる。その際に過去のデータを踏まえながら配車を最適化することで、消費者が飽きずにランチや買い物を楽しめる体験を実現してきた。
「現在はモビリティ事業者が1600台ほど、スペースが670箇所ほどまで増えてきてます。出店枠で言えば月間で1万近い枠を持っており、組み合わせのパターンは何億通りという規模になります。これをシステム化して、テクノロジーを活用しながら顧客体験が悪くならないようにマッチングしています」( Mellow代表取締役の森口拓也氏)

購買データはロケーションだけでなく商材開発などにも活用できる。たとえば同じ「唐揚げ」という商材であっても、「唐揚げ弁当」と「(単品の)唐揚げ5個」ではニーズが全く異なる。それをオフィス近辺で販売するのか住宅地で販売するかによっても、最適な選択肢は違ってくるだろう。
Mellowでは現在SHOP STOPを通じて月間約30万食分の購買データを保持している。場所ごとの販売データなど一部の情報はシステムを介して事業者にも提供しているほか、この資産を用いた事業者への“伴走支援”も強化をしているという。

物販やサービスにも広がる「店舗型モビリティ」
店舗型モビリティのニーズは何も飲食店に限ったものではない。現時点ではSHOP STOPの登録店舗の約9割を飲食店が占めるものの、直近では物販系やサービス系など少しずつ事業者の幅も広がってきているそうだ。

特にコロナ禍では店舗の出店や拡大を予定していたところを移動販売に切り替えたり、実店舗をたたんで移動販売にシフトするような事業者も増えた。SHOP STOPの利用者も以前は参入障壁の低さからキッチンカーを始める個人が多かったが、直近では「店舗を構えていてもなかなか人が来てくれない」といった理由から店舗型モビリティに挑戦する事業者が増えており、ユーザーの幅や用途も広がってきているという。
たとえば店舗型モビリティはテストマーケティングのような意味合いで「移動しながら勝ちパターンを探る手段」としても使われ始めている。新たなエリアに進出する前にモビリティで販売して感触を確かめ、モビリティで得られた知見を新商品の開発に活かす。そのような用途で大手の事業者がSHOP STOPを活用する例も出てきている。
また店舗の幅に加えて広がってきているのがエリアだ。もともとは都心部のオフィス街が中心だったところから、住宅地や地方のスペースの数も徐々に増えてきた。
人口減少が続くような地域では店舗への来店客も減っていく可能性が高いため、コストを押さえながら商圏も広げられる店舗型モビリティは有力な選択肢になりうる。地方でも市役所や大型のコールセンターなどがある場所は供給が不足しがちなこともあり、実際に「都内に匹敵するほどの売り上げが出ているエリア」も存在するという。
なお地方展開においては現地の事業者とのパートナーシップを強化中だ。秋田ではトヨタカローラ秋田や秋田トヨペットとタッグを組み、現地のスペースや店舗の獲得を進めている。Mellowとしては店舗型モビリティの運営ノウハウや配車管理システムなどの基盤を提供するかたちになるが、この座組みがうまく機能し始めているそうだ。
事業会社などから10億円を調達、社会のインフラとなるサービス目指す
緊急事態宣言下ではオフィス街でのキッチンカーのニーズが大幅に減少し、一時は「売り上げが半減してギリギリの状態」も経験したMellow。そこから住宅街向けのキッチンカープランを始めとした対策を実行し、事業を継続してきた。
現在はオフィス街でのニーズも戻ってきたことに加え、店舗型モビリティの市場自体もさらなる拡大が期待できる状況だ。「以前はニッチトップと言われることも多かった」(森口氏)が、三井不動産グループが提供する「MIKKE!」など、移動販売や店舗型モビリティに着目したサービスも広がってきている。
「コンテンツだけでなく、コンテキストを載せられることがECと比べた場合の店舗型モビリティの最大の特徴です。(接客という)対面のコミュニケーションを通じて、ストーリーを訴求しながらサービスを提供できます。加えて、街そのものに変化を生めることは明確にポジティブな点だと考えています。移動店舗のプラットフォームが広がることによって、毎日街のお店がどんどん変わっていく。街づくりという観点で見たときに、そこに変化と豊かさを加えることができるのが店舗型モビリティならではの魅力です」
「Mellowとしては、思いを持って挑戦する個人や企業をこの店舗型モビリティの力を通じてサポートしていきたい。それによって街に変化をもたらし、そこで暮らす人々を豊かにしていけるようなプラットフォームの実現を目指していきます」(森口氏)
今回の資金調達では、投資家として「日本のインフラ企業」が複数社参画している。森口氏によると「(SHOP STOPが)社会的なインフラになっていく上での第一歩」であり、各社とは事業面での連携も見据えながら、事業のさらなる拡大を目指していくという。
サービス面ではAIなどを用いたさらなるデータ活用に取り組むほか、「街の変化に気付くための場所」としての役割を担う消費者向けのモバイルアプリの改善にも力を入れる方針だ。