
- コロナをきっかけにニーズ拡大、1億円超えの案件が続々と誕生
- 継続的に寄付を集められる仕組みを確立
- クラウドファンディングサービスから「寄付・補助金のインフラ」へ
- 「インパクトの可視化」でダイナミックな資金が流れる仕組みを作る
2011年3月のサービスローンチから約11年──。日本においてクラウドファンディング市場を切り開いてきたパイオニアの1社といえるREADYFORが事業を広げている。
「資本主義ではお金が流れにくい領域にお金が流れる仕組みを作ること」を掲げて寄付型のクラウドファンディングサービスを拡大してきた中で、新型コロナウイルス感染症の影響を受けてニーズが急増した。
単にプロジェクトの案件数や支援者数が増えただけでなく、“1億円以上を集めるプロジェクト”や“1万人以上から応援されるプロジェクト”がいくつも生まれ、今まで以上に「ダイナミックな資金が流れるプラットフォーム」へと変わりつつある。
READYFORでは2018年に初めてエクイティファイナンスで外部調達を実施して以来、事業領域の拡張に向けた準備にも力を入れてきた。2022年には新たに継続支援型の「READYFOR 継続寄付サービス」をスタート。クラウドファンディング以外の仕組みとして、遺贈寄付をサポートする事業や基金などを企画するサービスも始めた。
今後READYFORが目指すのは、「クラウドファンディング」の会社から「クラウドファンディングを軸とした寄付・補助金のインフラ」への進化だ。
それに向けた資金として、同社ではJICベンチャー・グロース・インベストメンツ、第一生命保険、フォースタートアップスキャピタルを引受先とした第三者割当増資により、シリーズCラウンドで約17億円を調達した。

コロナをきっかけにニーズ拡大、1億円超えの案件が続々と誕生
「大変な時や資金が必要なときにREADYFORを想起してもらえることが増え、クラウドファンディングを1つの『お金集めのインフラ』として捉えてもらえるようになってきていると感じます。特にREADYFORの場合、継続的に寄付を集めたい医療機関や団体などがずっと使い続けるツールになり始めている。資本主義ではお金の流れにくい、広義の非営利の領域に注力し続けてきたことで、そのような状況が作れていると考えています」
READYFORで代表取締役CEOを務める米良はるか氏は自社の近況についてそう話す。
米良氏の発言を裏付けるように、数字の面でも明確な変化が生まれている。その1つが「大型案件」の増加だ。
2020年以前には存在しなかった「1億円以上を集めるプロジェクト」が10件以上誕生。支援金が1000万円を超えるプロジェクトの数も、2020年2月時点の97件から314件(2020年3月から現時点)まで増えた。同じくコロナ禍の前には0件だった「1万人以上が支援したプロジェクト」も4件生まれている。
大型の案件が特定の領域に偏っていない点もREADYFORの特徴と言えるだろう。医療従事者やコロナで苦しむ人を支援する医療・福祉系のプロジェクトを始め、鹿島アントラーズや浦和レッドダイヤモンズのようなスポーツ領域、寄席支援プロジェクトといった伝統文化領域などREADYFORを活用する団体の幅が広がっている。
直近では世界遺産の法隆寺が維持管理費を調達するためにクラウドファンディングを始めたことが話題を呼んだ。同プロジェクトはすでに2000万円の目標金額を大幅に超え、6500人以上から1億3000万円以上の資金を集めている。

「コンテンツやエンタメ、外食なども含めたQOLを向上させるものに対して、それを支えていきたいという思いを持っている人が多いことを改めて実感しました。多くの人がプロジェクトへ賛同する様子を見て、10年間続けてきた中で社会から必要とされるサービスになったという手応えも感じています」
「たとえばスポーツチームなど、コロナに関係なく継続して利用してもらえる事例も増えてきました。潜在的に多くの人からお金を集められる力を持っている団体にとっては、過度な返礼品なども求められないこともあり、READYFORが1つの収益基盤として徐々に定着してきています。コロナ禍を機に今まで以上にカテゴリーが拡張し、その人たちが寄付を財源として継続的にサービスを使い続けてくれる状態になってきたことがこの2年間の大きな変化です」(米良氏)
READYFORのサービスは支援総額の一部が利用手数料として収益になる構造のため、大型案件の存在は同社の事業においてもプラスに働く。こうしたプロジェクトが立ち上がったこともあり、同社のGMV(流通総額)は2020年6月期から2022年6月期までで年平均40%の成長を続けている。掲載されたプロジェクトの数も約2万件、累計支援額は280億円規模に拡大した。
継続的に寄付を集められる仕組みを確立

事業拡大の背景としては、社会的な変化によるニーズの拡大に合わせて組織体制を強化してきたことに加えて、「継続的に寄付を集めやすくするための仕組み」の構築に向けてサービスを改良してきたことも大きい。
国内にはCAMPFIREやMakuakeを筆頭に複数のクラウドファンディングサービスが存在する。特に大手事業者はそれぞれが独自の方向へ進化を遂げる中で、READYFORはECのようなアプローチ(購入型)ではなく、寄付型にポジションを決めて事業を進めてきた。
「継続的に寄付を通じて応援し続けてもらうために、寄付者との関係性をいかに維持していくか。米国ではドナーリレーションマネジメントと言われたりもしますが、そのような取り組みを支援する方向にプロダクトやサービスの体制を進化させてきました」(米良氏)
その結果として新たに生まれたのが、2月に正式ローンチをした継続寄付サービスだ。
仕組みはシンプルで、継続的に支援してくれるマンスリーのサポートをREADYFOR上で集められるというもの。もともと何かのプロジェクトに挑戦する際などにクラウドファンディングを実施して応援を募り、そこで接点が生まれた支援者が継続的な寄付者に変わっていくケースが多いという。
「クラウドファンディングは応援をブーストする材料になるので、新規で関心を持ってくれる人を呼び込むツールとしては効果的です。一方で毎年クラウドファンディングを実施したり、継続的な手段を用意するなど、その人たちと関係性を構築し続けることも重要。その点を強化してきたことで、資金を集める側にとっては『READYFORなら何らかの手段でお金を集め続けられる』という状態が作れてきています」(米良氏)
クラウドファンディングサービスから「寄付・補助金のインフラ」へ
READYFORにとって、クラウドファンディングを軸に約10年にわたって築き上げてきた「3万件近くの団体とのネットワーク」は強力な資産だ。
たとえば営利企業であれば帝国データバンクなどの企業が独自のデータベースを構築しているが、READYFORが得意とするような「広義の非営利領域」においては同じようなデータベースがない。認定NPOなどの制度は存在するものの「どの団体が本当に良いのか」がわかりづらく、支援の対象が狭い範囲に限定しやすかったと米良氏は話す。
READYFORとしてはまさにこの数年にかけて、独自のデータベースを用いてさまざまなお金の流れをマッチングする取り組みを試行してきた。
1つがコロナ禍に始めた「基金・寄付・補助金企画サービス」。READYFORが基金というかたちでお金を集める箱のようなものを作り、個人や企業から集めた資金を適切な団体へと届けていくサービスだ。
自社運営基金に加えて休眠預金の資金分配団体として基金の立ち上げや運営を手がけており、これまでに5度の助成分配を実施。累計で2000件を超える申請に対して審査をし、260団体・事業への資金提供や伴走支援を行ってきた。

もう1つの仕組みとして、2021年4月からは「遺贈寄付サポートサービス」も展開している。
遺贈寄付とは個人が遺言によって自身の財産を寄付することや、遺族が相続した財産を寄付することを指す。終活への意識の高まりや、単身世帯の増加などを背景に遺贈寄付への注目度が増してきている中で、READYFORが個人の要望に沿って適切な団体をアレンジするようなサービスだ。
同サービスは「遺贈寄付をしたいけれど、何から始めるべきかがわからない」といった個人を中心に、これまで450件以上の相談を受け付けてきた。すでに2つのサービスを合わせて累計で約25億円の資金をさまざまな団体へマッチングしているという。
「『クラウドファンディングの会社』からの進化は以前から言い続けてきたことです。この数年で寄付・補助金のインフラを目指して取り組んできたことが、少しずつ成果として現れてきています」(米良氏)
「インパクトの可視化」でダイナミックな資金が流れる仕組みを作る

今回の資金調達はクラウドファンディング事業や既存事業の拡大を目的としたもので、組織体制やマーケティングの強化などに投資をしていく方針だ。米良氏はREADYFORにとって「インパクトの定量化」が今後のチャレンジになるという。
資本主義ではお金が流れにくい領域へ、より多くの資金が流れる仕組みを作る上では、支援の対象となる団体や事業の透明性と安全面が欠かせない。
実際に「寄付に悩んでいる理由の1つとして(対象の団体が)怪しい気がするという意見や、そもそもどこにお金が流れるのかがわからないという意見も多い」(米良氏)ことから、READYFORでは「トライアンドエラーを繰り返しながら、安心安全に寄付ができるためのサービス作り」に力を入れてきた。
一方で、より大きな資金の流れを作っていくには「お金が流れた結果として、世の中にどのようなインパクトを与えたのか」を伝えていく必要があるという。
「資本主義が内包している課題の1つは、全てにおいて金銭的なリターンがあることだと考えています。売上や利益、配当といったリターンが重要な指標として存在し、それがわかりやすいからこそ(多くのリターンが見込める領域に)お金が流れやすい。文化的に価値のあるものや社会課題の解決を目指した取り組みについては、経済合理性の外側にあったとしてもお金を流していくべきという考えには多くの方が賛同します。でもだからといって必ずしもお金が流れるわけではありません」
「(経済合理性の外側にある活動や挑戦に対して)もっとダイナミックにお金を流していくためには、『金銭的なリターンはあまり多くはないかもしれないけれど、むしろ社会的なインパクトとしてのリターンはこんなにある』といったかたちでインパクトを定量的に示せることが必要だと考えています。それができれば、現在の経済合理性だけで判断するのではなく、未来の人類にとって重要な取り組みなどに対しても大きなお金が流れるようになる。そんな仕組みの実現を目指していきます」(米良氏)