
- ノーコードで顧客接点となるコミュニティを開設
- 自社の顧客IDとの連携でファンを生み出す勝ちパターンを発掘
- コロナでデジタル顧客接点のニーズが増加、ファーストパーティデータの需要も
- 約27億調達で事業拡大、「CS領域のSalesforce」狙う
企業中心で一方通行のコミュニケーションから、コミュニティを軸とした顧客中心の双方向型コミュニケーションへ──。企業が自社サービスに愛着を持った“ファン顧客”を増やすための打ち手として、顧客との接点になる「コミュニティ」へ注目し始めている。
このニーズに応えるかたちで事業を拡大してきたのがカスタマーサクセスプラットフォーム「coorum(コーラム)」を運営するAsobicaだ。
同サービスは企業が顧客とつながるための独自のオンラインコミュニティを簡単に立ち上げられるというもの。コミュニティ内に蓄積されたデータなどを活用しながら顧客のロイヤリティを高め、ファンを増やしていく仕組みをノウハウとセットで提供している。
2019年10月のローンチから約2年半。カインズやグリコ、伊藤園といった大手小売企業から、マネーフォワードやサイボウズなどソフトウェア企業まで、幅広い顧客で活用が進む。現在は大手を中心に約100社で導入されており、この2年間のMRR(月間定期収益)の年平均成長率は430%だ。
Asobicaでは今後もプロダクトの機能拡張と事業成長を目指していく計画。そのための資金として以下の投資家を引受先とした第三者割当増資と、三菱UFJ銀行からの9000万円の融資を合わせて総額で27.2億円を調達した。
- Eight Roads Ventures Japan
- Salesforce Ventures
- 電通ベンチャーズ
- DAC
- みずほキャピタル
- あおぞら企業投資
- PKSHA SPARX(以下5社は既存投資家)
- CyberAgent Capital
- 千葉道場ファンド
- 三菱UFJキャピタル
- SMBCベンチャーキャピタル
ノーコードで顧客接点となるコミュニティを開設
coorumの特徴的な機能は大きく2つ。「顧客接点を一元管理する機能」と「顧客の行動履歴を分析し、LTV(ライフタイムバリュー)の長いファンを増やしていくための機能」だ。
顧客接点の一元管理についてはBtoBの事例がわかりやすい。「マネーフォワード クラウド」の活用支援の一環としてcoorumを導入しているマネーフォワードでは、もともと顧客を支援するための情報が分散していたことが課題だった。
具体的にはマニュアルはヘルプページ、活用方法を解説した動画はYoutube、セミナー関連の情報は専用ページといったかたちで各コンテンツが異なる場所に置かれていたため、ユーザーは使い方に迷った際に「どこに行けば解決できるのかがわからない状態」になっていたという。
coorumでは独自のオンラインコミュニティを“ノーコード”で作成できるため、マネーフォワードでは会員向けのコミュニティを新たに開設。そこに動画やマニュアル、イベント情報などを集約することで「ここに行けばサービスのことが全てわかる」場所を作った。

Asobica代表取締役の今田孝哉氏によると、このような事例はSaaSなどBtoBの事業を展開している企業に多いという。コミュニティの方針は企業ごとに異なり、企業側からの情報発信を中心に据えているものもあれば、ユーザーが投稿した質問に他のユーザーが答えるといったようにユーザー同士の交流を促進するようなものもある。
特にSMB(スモールビジネス)向けのSaaSなど顧客数が多いような事業者においては、自社サービスを長く使ってくれるユーザーを増やしていくためだけでなく、顧客サポートの効率化の効果を狙ってcoorumを導入する場合もあるという。
自社の顧客IDとの連携でファンを生み出す勝ちパターンを発掘
またコミュニティ上での顧客の行動履歴を分析し、ファンの拡大につなげていく仕組みもcoorumの強みだ。
「そもそも自社のファンはどのような顧客で、どんな行動をしている人たちなのか。それを明確に特定できている企業ばかりではありません。実際に何となくファンは増えているものの、その要因がわからず、再現性が低くて悩んでいるということも珍しくない。データを活用してファンに共通する行動を洗い出し、勝ちパターンを発掘することで再現性を高めていける点は(顧客企業に)価値を感じてもらえている部分です」(今田氏)
たとえばホームセンター事業を展開するカインズでは、ユーザーのDIYを後押しするための施策の1つとしてDIY好きのユーザー同士が交流できるオンラインコミュニティ「Cainz DIY Square」を運営している。

同社の場合はカインズのユーザーIDとcoorum上の行動データをひもづけることで、ワークショップへの参加を中心とした“DIYを楽しむ空間の提供”が、LTVを含むエンゲージメント向上に寄与するとわかった。
ワークショップでDIYの方法を学んだユーザーが、実践した様子をオンラインコミュニティに投稿する。実際にコミュニティで体験をシェアすると他のユーザーからも反応があるので、1人でやるよりも楽しくなり、どんどん続いていく──。
こうしたある種1つの“勝ちパターン”を特定できたことで、店内でのポップアップやメールマガジンなどとも連動しながら、ファンを増やすためのPDCAを回しているという。

コロナでデジタル顧客接点のニーズが増加、ファーストパーティデータの需要も
coorumはミニマムで月額25万円から使えるサービスで、具体的な料金はコミュニティに参加する人数や機能、サポートの内容などによって異なる。基本的にはエンタープライズ企業の顧客が中心。月額数百万円規模でcoorumをフル活用している企業もいるそうだ。
現在はBtoCの顧客とBtoBの顧客がだいたい半分ずつほどだが、直近で特にニーズが増えているのが小売や飲食などのBtoC事業者。中でもカインズや松屋を筆頭に実店舗を構える企業からの引き合いが増えているという。
「コロナの影響で来店が減っており顧客との接点も薄れている状況下で、新たにデジタル上の接点を作り、そこから実店舗へ誘導したいというニーズが強いです。コミュニティの設計を柔軟にカスタマイズできて、顧客接点を一元化できる。その上でデータを分析しながらPDCAを回せる仕組みはほとんどありませんでした。よく比較対象になるのは自社で作るという選択肢ですが、その場合は膨大な費用がかかるため、coorumを選んでいただくことが多いです」(今田氏)
また今田氏によるとサードパーティーCookieへの規制などプライバシー保護にまつわる状況が変化する中で、先進的にマーケティングに取り組んでいる企業を中心に「ファーストパーティデータをしっかりと溜め込んだ上で活用したい」という要望が増してきている。
そのような観点からも、自社専用のコミュニティを通じて顧客の行動履歴を一元管理できる仕組みが求められるようになっているそうだ。

直近1年ほどでは導入企業の拡大とともに、coorumが明確な売上の向上につながる事例も出てきた。ある大手小売店ではコミュニティに参加したユーザーの来店回数が3倍以上、購入金額も約4倍に増えた。ユーザーの平均利用単価が上がることで、全体の売上においても8000万円程度のインパクトを与える事例も生まれてきている。
約27億調達で事業拡大、「CS領域のSalesforce」狙う

Asobicaは2018年の創業。今田氏たちが最初に取り組んだのは、トークンを活用したファンコミュニティサービス「fever」だ。
同サービスは数百の団体や企業で導入されるなど事業自体は伸びていたものの「ARRが100億円規模の事業を目指せるかどうかを考えた時に、かなり難しいと感じた」ことを背景に、方向性を転換する決断をした。
そこから現在のcoorumの構想にたどり着いたのは、今田氏が前職のファインドスターグループ(スタークス)でカスタマーサクセス領域のSaaS事業に携わっていたことに加え、行きつけの焼き鳥屋の存在が大きかったという。
「そのお店が好きな理由は店主の思いや店員さんの接客、雰囲気などが心地良いと感じていたからでした。焼き鳥を食べに行っているというよりも、自分の心を満たしに行っている。このような体験を作りたいと思ったんです。行けば行くほど愛着が湧くような体験が作れれば、企業は売上が増えるし、消費者も好きなことに没頭できる時間が増える。『遊びのような熱狂で、世界を彩る』というミッションを起点に始まった会社でもあったので、このミッションにもマッチしていると感じました」(今田氏)
近年カスタマーサクセス領域のソフトウェアを手がけるスタートアップは、グローバルでも増えてきている状況だ。国内でも2021年に約19億円を調達したコミューンなど関連するプレーヤーが生まれてきている。
Asobicaが目指しているのは「カスタマーサクセス領域のSalesforce」のような存在。今回調達した資金で組織体制を強化し、データプラットフォームとしての価値を高めていくような機能開発に投資をしていくほか、事業規模の拡大に向けてマーケティングやパートナーとのアライアンスも強化するという。