英会話学習に特化したメタバース「fondi」。英語学習者同士がアバターを介してボイスチャットでコミュニケーションできる
英会話学習に特化したメタバース「fondi」。英語学習者同士がアバターを介してボイスチャットでコミュニケーションできる
  • 「留学」と「新規事業開発インターン」を機に起業
  • アバター介して学習者同士で会話を実践、英語の障壁下げる

英語を学びたい人向けに「バーチャル空間上で擬似的に留学を体験できるような仕組み」を提供できればニーズがあるのではないか──。そんなアイデアから生まれたのが英会話学習に特化したメタバース「fondi」だ。

サービスのコンセプトは“カタコト英語から始まる、バーチャル海外生活”。バーチャル空間上で、英語学習者同士がアバターを用いて音声でのコミュニケーションを楽しめるのが特徴だ。

fondi上にはパークやバー、ラウンジといった複数のエリアが用意されており、エリアごとにコミュニケーションの方法も異なる。たとえばパークでは近くにいる人同士がフランクに立ち話をでき、バーではバーテンダーが提供してくれるトークテーマに沿って他のユーザーと1on1で落ち着いて会話ができる。

交流を促進する仕掛けとして、複数人で一緒にYouTubeの動画を見たり、ミニゲームをプレイしたりできるような機能も実装した。

fondi内には複数のエリアが存在する。ユーザーはゲーム感覚でエリアを移動しながら、他のユーザーと交流していく
fondi内には複数のエリアが存在する。ユーザーはゲーム感覚でエリアを移動しながら、他のユーザーと交流していく

英語を学ぶといっても、fondiにはレッスンをしてくれる先生やコーチがいるわけではない。非ネイティブの英語学習者同士が集まって実際に英語を話していくことで、少しずつ「英語の実践経験と英語への自信」を培っていくためのサービスだ。

現在はiOS版とAndroid版のアプリを提供しており、累計のインストール数は33万件を超えた。

興味深いのが地域ごとのユーザー比率で、日本人ユーザーの割合はわずか4%のみ。ベトナムとインドネシアのユーザーが多く2カ国で40%強を占めており、モロッコ、エジプト、日本、タイ、トルコと続く。

fondiは無料でも活用できるが、無料プランの場合は1日15分の時間制限や散策できるエリアの制限がある。月額制の有料プラン(国ごとに異なり、日本の場合は月額1950円)であれば無制限に使える。

課金ユーザーの母数自体は非公開としているが、平均滞在時間は1日あたり120分を超えており、徐々に熱狂的なユーザーが生まれている。運営元のfondiで代表取締役CEOを務める野原樹斗氏も「非ネイティブのユーザー同士が集まり、一緒に安心して英語でのコミュニケーションを実践できるコミュニティが作れてきている」と話す。

「留学」と「新規事業開発インターン」を機に起業

fondiで代表取締役CEOを務める野原樹斗氏
fondiで代表取締役CEOを務める野原樹斗氏

fondiは野原氏と高校時代の後輩である磯上樹氏(現CTO)が2017年に創業した。起業のきっかけとなったのは留学とインターンシップだ。

野原氏自身は高校卒業後に渡英しUniversity of Warwick(ウォーリック大学)に進学。夏休み期間中に日本のIT企業・KLabで新規事業開発のインターンに参加した後、大学を休学して自ら会社を立ち上げた。

最初に手掛けたのは留学をサポートするツールだったが、約1年半ほど運営した後にピボットを決断。次のチャレンジとして行き着いたのが「バーチャル空間で擬似的に留学が体験できるサービス」のアイデアだった。

2020年4月にfondiをローンチしてからしばらくの間は「どんなユーザーがどのような背景で使ってくれているのかがボンヤリとしていた」というが、1年間運営する中でユーザーに対する解像度が高まっていったという。

現在fondiのヘビーユーザーとなっているのはAPAC(アジア・太平洋地域)やアフリカ地域に住む人たちだ。

「英語を実用レベルで使えることが人生を大きく好転させるチャンスになるという人が多いです。経済面で貧富の差が激しいため、英語を使うことができれば地元から出て職業機会が広がる、もしくは政治的・宗教的な抑圧から海外で生きていけるようになりたいという思いを持たれている。そういった国々では既存の語学学校やオンライン英会話サービスに(価格面の問題で)手が届かない人たちも少なくありません。そこでユーザー同士のコミュニケーションを通じて英会話の実用力を身に付けられるサービスとして、fondiを活用していただいています」(野原氏)

実際にヒアリングをしてみると、これまではYouTubeのコンテンツや「HelloTalk」のようなチャットアプリなどを通じて手探りで英語を学んでいたユーザーが多いという。

一方で日本人をはじめとした先進国のユーザーは、他の学習手段と併用しながら“学んだ英語を実践する場”としてfondiを活用するケースもあるようだ。

アバター介して学習者同士で会話を実践、英語の障壁下げる

バーでは1on1で会話ができる。バーテンダーが会話を盛り上げるためのトークテーマを提供してくれるような機能もある
バーでは1on1で会話ができる。バーテンダーが会話を盛り上げるためのトークテーマを提供してくれるような機能もある

アバターを介すことで自分や相手の外見を気にせずフラットにコミュニケーションができることに加えて、英語に自信がなくても“恥ずかしがらずに会話をしやすい”というメリットもある。

まずはアバターを用いて他のユーザーと会話を増やしながら、小さな成功体験を積む。次第に顔見知りが増えていくと長時間会話をするようになり、徐々に英語の障壁が下がっていく。最終的には英語に対して自信を持てるようになる──。これがfondiでの成功パターンだという。

「これまでであれば留学して得られたような体験の一部を、スマホ1つで擬似的に体験できることがfondiの特徴です」(野原氏)

実際にインドのとあるユーザーは“プレ留学”としてfondiを活用し、英語に対する自信をつけた上で海外に留学したそうだ。

課金ユーザーの中には「fondiで初めてアプリに課金をした」というユーザーも複数人存在しており、前述のとおりユーザーが増えても課金ユーザーの1日あたりの平均利用時間は120分以上を維持している。そういった点から「サービスに対する可能性を感じている」と野原氏は話す。

もっとも、機能面においてはまだまだ改良できる余地も多いという。成功パターンに乗れたユーザーは長く継続する傾向にあるものの、最初につまずいて離脱してしまうユーザーも一定数存在する。初期のハードルを超えるためのオンボーディング部分の設計や会話をサポートするためのコンテンツ面の強化は今後の注力ポイントの1つだ。

また各エリアで楽しめるゲームの開発なども進めていく計画。中長期的にはコミュニティ内にトークンエコノミーを取り込み、教育コンテンツを軸にした価値のやり取りの仕組みや、コミュニティに貢献することによって無料で学習機会を得られるシステムの実現にも挑戦していきたいという。

fondiではそれに向けた資金としてANRI、ココナラスキルパートナーズ、Skyland Ventures、デジサーチアンドアドバタイジング、90sから1.7億円の資金調達を実施。同社の累計調達額は2.5億円となった。