
- ジョイントベンチャー設立の背景にあった危機感
- 「軽貨物×ラストワンマイル」からスタート、BtoBの緊急配送に強み
- 約60%の業務効率化を実現した社内システムをSaaS化
- セイノーHDとタッグで「オープンプラットフォーム」実現目指す
慢性的なドライバー不足、高騰する物流コスト、多重下請け構造による情報の非対称性や低生産性──。人々の生活を支えるインフラとして重要な役割をになっている物流業界だが、抱えている社会課題も多い。
そんな物流業界にインターネットを持ち込み、“マッチングプラットフォーム”と“SaaS”という2つのアプローチから課題解決に取り組んできたのがハコベルだ。
2015年にラクスル内の新事業としてサービスを開始。荷主企業と運送会社やドライバーを直接つなぐプラットフォームに加えて、2019年からは配送業務の最適化をサポートするソフトウェア「ハコベルコネクト」を手がける。同事業の売上は2021年7月期で約29億円。現在の登録車両台数は3万5000台を超え、ハコベルコネクトの利用社数も大手企業を中心に20社を突破している。
サービス開始から約6年半。これまでラクスルにおける1事業として事業を拡大してきたハコベルだが、8月よりラクスルと商業物流領域の大手・セイノーホールディングスの“ジョイントベンチャー”として新たなスタートを切った。
ハコベルのこれまでとこれからについて、新会社の代表取締役社長CEOを務める狭間健志氏に聞いた。
ジョイントベンチャー設立の背景にあった危機感
2015年12月に軽貨物×ラストワンマイルの配送に注力したマッチングプラットフォームとしてスタートしたハコベルは、事業の成長とともに「一般貨物領域への拡張」「SaaS事業の立ち上げ」といったかたちで対象領域を広げてきた。
もっとも、事業部長としてハコベルに携わってきた狭間氏は「業界のインフラ」となるようなサービスを目指す上で、課題も感じていたという。
「継続率や拡張率を見ても一度使っていただいた方々には満足いただけている手応えがあるのですが、その一方で新規顧客の獲得の大変さを感じていました。サービスの規模感としても、産業のインフラと言えるような状態にはまだ遠い。このまま自分たちだけでやっていては、ものすごく時間がかかってしまうという危機感もありました」(狭間氏)
特にハコベルコネクトについては大手企業の顧客が中心で、“配車業務”という物流の根幹に関わるサービスであることから、事業に与えるインパクトも大きい。だからこそ従来の業務オペレーションをいきなり抜本的に変えることは難しく、段階的に導入が進んでいくことがほとんどだという。
結果としてリードタイムが長くなりやすく、本格的な導入に至るまでに数カ月から数年の時間を要するケースも珍しくない。そのため「一度使ってもらえれば継続率や拡張率が高いものの、新規顧客の獲得に時間がかかる」状態だった。
さらなる成長を目指すために、全国に点在する見込み客の開拓なども含めてすべてを自社でやるべきなのか。年明けからパートナー企業との連携の可能性も含めた議論が活発化する中で、最終的にはセイノーHDとタッグを組むことを決断したという。
「軽貨物×ラストワンマイル」からスタート、BtoBの緊急配送に強み

これまでハコベルでは「多重下請け構造」と「アナログな業務による非生産性」という2つの観点から、物流業界における“非効率”の解消に取り組んできた。
日本に約6万社存在すると言われる運送会社のうち9割は、保有車両が30台未満の小規模事業者が占める。相対取引が中心で情報の非対称性が生まれやすく、受発注自体もアナログな手法が主流だ。このような構造はラクスルが最初に事業に取り組んだ「印刷業界」とも共通する。
デジタル化が進んでいないのは社内の業務も同様で、電話やFAXでのやりとりやホワイトボードを用いた業務管理など、テクノロジーを活用することで効率化を図れる余地が大きい。
そんな業界の状況を変えるべく、ラクスルでは2015年12月にハコベルを立ち上げた。
マッチングプラットフォームでは取引をデジタル化し、荷主と運送会社を直接つなぐ。自分たちが運送会社やドライバーを束ね、非稼動時間などを活用しながら最適にマッチングをしていくことで、荷主の物流コストの削減と運送会社の稼動の最適化や収益の拡大を後押しする。
当初は軽貨物領域からスタートしたが、現在は一般貨物にも扱う幅を広げている。たとえば食品や飲料など“需要の変動性があるBtoBの物流領域”は得意領域の1つだ。
こうした領域では「気候の関係で急激にアイスが売れるようになった」「キャンペーンが反響を呼んで一気にニーズが拡大した」といったように急な需要が発生することも珍しくない。そんなシーンでハコベルが重宝されているという。
約60%の業務効率化を実現した社内システムをSaaS化

一般貨物も対象にしたことで、複数の運送会社と連携している大手の荷主企業と深く関わることも増えた。ハコベルコネクトはそのような流れの中で生まれたサービスだ。
狭間氏によると、実は最初からサービス化を意識していたわけではなく、もともとはハコベルの事業部内で“自社ツール”的に使っていたシステムが原型になっている。
一般貨物の事業を立ち上げた当初は、自分たち自身も電話やFAX、エクセルを使って発注業務や管理業務をこなしていた。その工程を1つずつシステムで自動化したところ、1件の受発注にかかる時間を約60%削減できたという。
「このシステムを(サービスとして)切り分けて提供してもらえないか」
当時取引のあった大手企業にこのシステムの話をしたところ、そのような反応が返ってきたことが1つの転換点になった。
「そこでこのシステム自体にニーズがあるのだと気付きました。そのような背景もあったので、『弊社のハコベル配車センターでは運送会社への発注をシステム化したことで、約60%の業務削減につながり、品質管理の改善にもつながりました。このシステムを活用してみませんか?』というかたちで営業を始めたんです」(狭間氏)
現在20社以上にハコベルコネクトを展開しているが、顧客においても「配車業務にかかっていた時間が6割減った」「クラウド環境へ業務を移行できたことで、リモート勤務ができるようになった」という事例が生まれているという。
セイノーHDとタッグで「オープンプラットフォーム」実現目指す
今回セイノーHDとタッグを組んでジョイントベンチャーとすることで、まずは既存事業のさらなる拡大を見込む。「カンガルー便」などを提供するセイノーHDは、顧客荷主数が12万件、発着を合わせた取引先数が80万件を超える商業物流領域の大手。同社の顧客基盤やネットワークなどを用いた送客支援によって、事業を成長させていく狙いだ。
中長期的には物流業界の課題解決につながる「オープンパブリックプラットフォーム」の実現に向けた取り組みを推進していきたいという。

2027年には労働力需要に対してドライバー24万人分の労働力が足りないとする調査もあるほどの深刻な人手不足に加えて、約40%と言われる低い積載率やカーボンニュートラルへの対応など向き合わなければならない課題も多い。
このような状況を変えていくためには、業界全体を巻き込みながら対策を講じる必要がある。そのようなビジョンが共通していたことも今回の連携につながった要因の1つだという。
「物流領域でも新しいスタートアップやシステムが出てきていてそれ自体は素晴らしいことなのですが、今はそれぞれがバラバラに提供されてしまっており、顧客はいろいろなツールを組み合わせて使わなければいけない状態です。これが顧客にとっては(テクノロジーを)有効活用しづらい原因にもなってしまっているので、さまざまな事業者が相乗りし、データを互換できるようなオープンなプラットフォームを作っていきたいと考えています」
「そうすることで顧客にとっての利便性は上がりますし、オペレーションとテクノロジーの融合が進んでいくはずです。蓄積されたデータを用いることで遊休資産をもっと活用できるようになれば、プラットフォームに参加する人も増えていく。中長期的にはそんなループを回していきたいです」(狭間氏)
オープンパブリックプラットフォームに関してはパイロット版の運用をセイノーグループで先行的に始めており、改良を続けながら他社への展開を進めていく方針。ハコベルとしては売上数百億円規模の事業を構築し、将来的には上場も目指す計画だ。