• ダウンラウンドはなぜ起きるのか
  • ダウンラウンドは何がまずいのか
  • ダウンラウンド実施のポイント、「希薄化防止条項」とは
  • ダウンラウンドを回避するためには?

ソフトバンクグループが8日に発表した2023年3月期の第1四半期(2022年4〜6月)の連結決算は、最終損益が3兆1627億円の赤字となった。傘下のソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)の運用成績が悪化したことがこの大規模な赤字の要因だ。

SVFの投資先にはユニコーン企業(評価額が10億ドルを超える未上場企業)が数多く含まれるが、市況の悪化に伴う上場ハイテク株の大幅な株価下落を受け、投資先の各社もその評価額を大きく下げることとなった。BNPLとも呼ばれる後払い決済の大手、スウェーデンのクラーナはその1社だ。

クラーナは7月に8億ドルの資金調達を実施する際、企業価値の評価額を67億ドル(約9000億円)に下げた。これは、2021年6月に456億ドル(当時の為替レートで約5兆円)と評価されたのに比べ、約7分の1の金額(米ドルでの比較)となっている。ここで実施されたのが「ダウンラウンド」だ。

ダウンラウンドはなぜ起きるのか

スタートアップによる資金調達の中でも、第三者割当増資のようなエクイティファイナンスでは通常、シード、シリーズA、シリーズBと各ラウンド(調達・投資のフェーズ、タイミング)でバリュエーション(企業価値評価)を上げながら株式を発行して行われる。ダウンラウンドは、前回の資金調達時よりも低い株価で株式を発行する資金調達のラウンドのことを言う。

ダウンラウンドが発生する主な要因としては、金融危機などで市況が悪化するなど、投資環境の悪化や、過去の資金調達時に過度に高いバリュエーションをつけたことが挙げられる。

ダウンラウンドは何がまずいのか

一般にダウンラウンドの実施は問題視されることが多い。それはなぜか。1つは、バリュエーションが下がることで、その企業の成長性に懸念が生じているという対外的なシグナルとなるからだ。それにより、重要なパートナーシップや大口顧客との契約が難航し、投資家からの将来的な資金調達も難しくなるなどの事態に陥る可能性がある。

また、従業員にストックオプションを付与している場合、企業評価の下落で彼らは直に損失を被り、働くモチベーションを失うかもしれない。

さらに重要なのは、次に挙げる「希薄化防止条項」の発動により、起業家の持ち株比率が著しく低下する可能性があることだ。これにより、株主総会における議決権を確保できず経営権が不安定化すると、資本政策の見直しも迫られることとなる。

ダウンラウンド実施のポイント、「希薄化防止条項」とは

スタートアップにとって、ダウンラウンドの実施において大きなポイントが、投資契約の中の「希薄化防止条項」の存在だ。ダウンラウンドでは低い株価で資金調達を行うため、必要な資金を得るために株式を多く発行する。そのため、既存投資家の持ち株比率が低くなり、既存株主にとっては不利益が生じる。

この希薄化を防ぐために、スタートアップが発行する優先株式には「希薄化防止条項」が付いていることが多い。これによりダウンラウンドでも既存投資家の持ち株数が増加するように調整され、既存投資家が新規投資家に比べて一方的に不利益を被ることが避けられる。

だがこの希薄化防止条項が発動された場合、不発動時と比べ起業家の持ち株比率は低下する。このように持ち株比率に大きく影響するため、希薄化防止条項の発動・不発動は、ダウンラウンドの資金調達での起業家と投資家の交渉においてポイントとなる。

ダウンラウンドを回避するためには?

では、ダウンラウンドを避けるための手立てはあるのか。その際に検討される手段の1つが「ブリッジファイナンス」だ。ブリッジファイナンスとは、その後の株式発行での資金調達までの期間に行う、借入による資金調達のことを言う。

借入での調達であれば、既存株主の持ち株比率の低下を回避することが可能だ。また、企業価値の評価を先送りできる。このブリッジファイナンスの実施にあたっては、新株予約権付社債の発行に代表される「コンバーティブルデット」といった手法がある。

起業家としては、決して起きてほしくないダウンラウンドでの資金調達。しかし市況の悪化が長引き、その可能性がゼロとは言えない状況が続くかもしれない。もしものときのために使える手段を検討しておくなど、先手を取って対策を講じていくことが、スタートアップが生き延びるための道ではないだろうか。