
- 待ち時間や支払い時間ゼロ 手軽なテイクアウトの予約アプリ
- 生活動線上に店舗が充実する日本 飲食店の“テイクアウト”はまだ可能性を秘めている
- コロナ禍でサービスは急成長 流通総額は前月比で700%増に
- コロナ時代に支持される飲食店の特徴 「コンセプトをはっきりと打ち出す」
外出の自粛によって、日々の食事の選択肢が減っていることを嘆いている人も多いはず。一方で飲食店も大幅な客足の低下と営業時間の短縮要請で苦境に立たされている。そこで注目を集めるのが飲食のテイクアウト、そしてデリバリーサービスだ。テイクアウトメニューの検索・注文サービス「PICKS」を提供するスタートアップ企業のDIRIGIOは、コロナ禍での大幅な需要増加で急成長。Instagramと連携した注文機能の提供も開始した。代表取締役CEOの本多祐樹氏に同社の試み、そして急速な時代の変化に対応できる飲食店の在り方を聞いた。(編集・ライター 野口直希)
待ち時間や支払い時間ゼロ
手軽なテイクアウトの予約アプリ
DIRIGIOが提供する「PICKS」は近隣のテイクアウト可能な飲食店の検索、注文ができるサービス。アプリやウェブサイトで利用したい地域から飲食店を選び、商品と受け取り希望時間を選択すれば注文完了。指定した時間に店頭を訪れるだけで、希望の品を受け取ることができる。決済はアプリに登録したクレジットカードで行うため、店頭での支払いも必要ない。事前注文なので、売り切れの心配もない。
飲食店には、注文が入るとアプリと電話(自動音声)で通知が届く。指定された受け取り時間までに料理を用意し、アプリの「調理完了」ボタンをタップすれば操作は完了だ。アプリでは、あらかじめ調理にかかる「最低調理時間」を設定できる。例えば「30分」に設定しておけば、注文者が受け取り時間として指定できるのは最短でも注文から30分後になる。現在は、注文者・飲食店のどちらにも手数料は一切かからない。
筆者も飲食店を経営しているので自分ごととして実感しているが、飲食店にとって事前注文のメリットは非常に大きい。曜日や天候によって売れ行きが大幅に変動するテイクアウトは、欠品も廃棄も出さない「適切な量」を準備しておくのが非常に難しいからだ。特に店内での食事を控える人が増えて飲食店利用者のニーズが日々変化する中で、急遽テイクアウトを始めた店舗にとってはなおさらだろう。

5月12日からは、Instagramとの連携も始まった。Instagramのビジネスアカウントを開設しているPICKS加盟店は、プロフィールに注文ボタンを追加したり、「料理を注文」スタンプをInstagramストーリーズに投稿したりできるようになる。Instagramのユーザーは、アプリの遷移なしで手軽に注文できるほか、応援したい店舗の情報をスタンプとともに「ストーリー」で共有できる。
生活動線上に店舗が充実する日本
飲食店の“テイクアウト”はまだ可能性を秘めている
PICKSを運営するDIRIGIOは、2016年創業。これまでエウレカの共同創業者である赤坂優氏、西川順氏のほか、KLab Venture Partners、iSGSインベストメントワークス、エンジェル投資家の有安伸宏氏から資金調達をしている。代表取締役CEOの本多祐樹氏は、学生起業家だ。慶應義塾大学在籍時の飲食店アルバイトでの経験が、PICKSを開始したきっかけになっているという。
「当時働いていた飲食店では、大口のテイクアウト予約がたびたび入っており、大きな収益源になっていました。しかし、予約の電話に対して店主が1つ1つメニューを読み上げてメモを取るなど、オペレーションが全く整備されていませんでした。これをウェブで解決したかったんです」(本多氏)
幼少期にカリフォルニアに在住していた本多氏は、日本のテイクアウトにはまだまだ可能性があると感じている。日本は通勤経路などの生活動線上にお店が充実しており、ECやデリバリーサービスが便利になってきたとはいえ、まだまだ配送料が高い店も多いからだ。
「飲食店のテイクアウトが抱える課題は、主に『販促チャネル』『注文チャネル』『待ち時間』の3つだと考えています。なので、テイクアウト可能な飲食店を集めたプラットフォームとして販促のサポートをするだけでは不十分。注文フローの簡略化や待ち時間をなくすことでユーザーの顧客体験を改善し、長期的にお店を利用してもらえるよう支援することが、PICKSの役目です」(本多氏)
コロナ禍でサービスは急成長
流通総額は前月比で700%増に
「メニュー」「LINEテイクアウト」といった競合サービスと比べると、PICKSは個人の飲食店でも利用しやすいのが特徴だ。店舗登録料や専用機器の購入は一切不要なので、初期経費なしで運用を開始できる。
4月末時点での加盟店舗は約2300店だが、このうち約1500店は新型コロナウィルスが流行した今年の3~4月に登録されたという。4月は流通総額が前月比700%を達成しており、テイクアウト需要の大幅な増加が見て取れる。これに伴いPICKSでも急遽サービス体制を増強しているが、現状はニーズに対してまだまだ加盟店舗が少ない状態だという。
「これまではビジネスパーソンが昼休みの10分前にサラダを注文するケースが多かったのですが、最近は1人での晩ごはんから家族のランチまで、明らかに利用ニーズが多様化しています。もちろん飲食店にとって苦しい時期なのは間違いないですが、いまは幅広い食事のシーンに価値を提供できる機会にもなっています」(本多氏)
コロナ時代に支持される飲食店の特徴
「コンセプトをはっきりと打ち出す」
では、こうした新たなニーズに対応できるのはどのような飲食店なのか。本多氏によれば、対面での接客機会が減るオンラインで注文を獲得するには、オフラインとは違ったメニューの見せ方が必要になるという。
「綺麗な写真を使用するのはもちろんとして、メニュー名の工夫が大切です。例えば、『○○風カチョ・エ・ペペ ~××を添えて~』のような少しわかりづらい名前は、対面ではお客様が『これはどんなメニューですか?』と質問することでコミュニケーションのきっかけづくりになっていたかもしれませんが、オンラインでは違います。『4人家族向け!チーズと黒胡椒パスタ』という風にコンセプトを打ち出して、そのフードから何が得られるのかをはっきりすべきです」(本多氏)
また、オンラインが主戦場だからこそSNSの活用もより重要になってくる。人気店はSNSとPICKSを組み合わせるのが上手だと指摘する。「SNSで調理の過程や店内の状況をこまめに投稿することで、お店を身近に感じてもらいつつ、タッチポイントを増やすことができます」と本多氏。
今後は引き続き規模を拡大しつつ、収益化を目指していく。今年度中に加盟店舗1万店を突破することを短期的な目標とし、ある程度地盤を確保した段階で飲食店に決済ごとの手数料を徴収するという。
サービス面ではポイント付与機能や、体調や好みを考慮したレコメンド機能などを計画中だ。あくまで短期的な売上増加ではなく、継続的に注文してもらえる施策を展開していく。
「日本のテイクアウト文化は、まだまだ発展途上。現在は店頭で在庫を確認し、なければ他の店舗に行くという利用形態が一般的ですが、これからはあらゆる業界でまずネットで確認するのが一般的になるはず。そんな時代に顧客体験を高めるには、どうすればいいか。引き続き試行錯誤しつつ、幅広いお店に寄り添える存在になりたいです」(本多氏)