LifeCoach代表取締役の加藤恵多氏。京都大学在学中の2020年12月に会社を創業。3月に大学を卒業したばかりの22歳の起業家だ
LifeCoach代表取締役の加藤恵多氏。京都大学在学中の2020年12月に会社を創業。3月に大学を卒業したばかりの22歳の起業家だ
  • スタートは「ワンルームでのパーソナルトレーニング」
  • IT活用で無人化実現、月額2980円のカラクリ
  • 利用者の8割は「ジム初心者や挫折者」
  • 1.2億円を調達、ジム内のDXに向けた開発強化へ

テクノロジーを活用することで価格面や手続き面の負担を減らし、ユーザーが気軽に利用できるフィットネスジムを提供する──。2020年12月に加藤恵多氏が創業したLifeCoachが目指しているのは“スマートなフィットネスジム”の実現だ。

「もともと高校までは色白でガリガリ。そこにコンプレックスを感じていました」と話す加藤氏は、高校でラグビーを始めたことをきっかけに筋トレをするようになり人生が変わったという。高校卒業後は京都大学医学部人間健康科学科に進学し、学業とラグビーを両立する生活を続けていたが、3年生の時に「自分の人生を変えてくれたフィットネスの領域で事業にチャレンジをしたい」と考え、新たな一歩を踏み出した。

最初は自己資金でワンルームを借り、パーソナルトレーニング事業からスタート。学生専用ジムの運営を経て、2022年2月に次世代フィットネスジム「LifeFit」の1号店を京都で立ち上げた。

同ジムの特徴は月額2980円(税込3278円)で何度でも通えることと、入会手続きや入退室がアプリで完結すること。テクノロジーを活用することで運営コストを削減し、価格を抑えても収益を確保できる仕組みの確立に取り組んできた。

8月24日には複数の投資家から1.2億円を調達し、今後はフランチャイズモデルで店舗数の拡大を目指しているLifeCoach。加藤氏に月額2980円でも運営できる仕組みやLifeFitを始めた経緯について聞いた。

スタートは「ワンルームでのパーソナルトレーニング」

“起業”という観点で加藤氏にとって1つの転機になったのが大学3年生の春だ。

コロナをきっかけに今まで通りに部活や授業ができなくなり、ジムにも通えなくなった。自由な時間が増えたこともあり、最初は「ワンルームを借りて自分のトレーニングをしつつ、パーソナルトレーニングを通じてお客さんのサポートができればいいなくらいの気持ち」だったという。

バイクを買うために貯金していた数十万円を元手にスペースとマシンを調達して事業を始めたところ、少しずつ顧客が増えていった。一方でサービスの構造上どうしても属人性が高く、大学との両立に課題を感じたほか、「もっとたくさんの人に使ってもらえてフィットネス人口自体を増やせるような取り組みをやれないか」と考えるようになったという。

そこでクラウドファンディングも活用しながら新たな物件を借りてスタートしたのが、学生限定の会員制ジムだ。外部のシステムを活用しながら現在のLifeFitと同じように月額2980円で気軽に通える仕組みを作ったところ、初月から数百人の会員が集まった。

ワンルームを借りて運営していたパーソナルトレーニング用の施設(左)と学生向けに展開していたジム(右)
ワンルームを借りて運営していたパーソナルトレーニング用の施設(左)と学生向けに展開していたジム(右)

「価格を抑えることで多くの人に使ってもらうことができる。その手応えをつかめた一方で、当時は外部のシステムをぶつ切りで使いながら運営していたことに加え、スタッフも必須のような体制だったため、改善できる余地も見つかりました」(加藤氏)

そのような背景から2021年の夏に外部投資家から資金を調達し、システムの内製化に着手。約半年の準備期間を経て、2022年2月にLifeFitの1号店をオープンした。

IT活用で無人化実現、月額2980円のカラクリ

ジムの様子
LifeFitの様子。入館の手続きもアプリを用いる

利用者の視点では、価格の安さと手続き面の簡単さがLifeFitの大きな特徴だ。問い合わせや入会手続き、ジムの入退室などはすべてアプリで完結。入会や退会のためにジムに行き、紙の手続きをする必要もない。

清掃やマシンのメンテナンスなどは人が対応するものの、基本的には無人型のジムを想定した作りになっており、人件費などのコストを削減することで価格を抑えて利用者に提供できる仕組みだ。

現在LifeFitでは直営店とフランチャイズ店を合わせて関西で3店舗を展開している。一部のフランチャイズ店を除きジムは24時間運営しており、利用料金は月額2980円(税込3278円)と都度利用500円(税込550円)から選べる。

この料金体系でも事業として成立するのかが気になるところだが、加藤氏の話では「(エリアや規模などにもよるが現時点での実績値としては)1年ほどでコストを回収できるような事業構造を作れている」という。

「そもそも無人型なので人件費がほとんどかからないことに加え、裏側の新規会員獲得に向けたマーケティング面でもデータなどを活用しながら、かなり効率よくやれています。自分たちはCRMや入退室管理のシステムも内製しているため、そのデータも分析しながらPDCAを回すことができているのが大きいです」(加藤氏)

加藤氏によると細かくセグメントを分けた上で、LINEなどを活用しながら集客をしているそう。データとデジタルツールを用いて効率的な集客ができる体制を整えていることも、LifeFitを運営していく上で欠かせないポイントだ。

また初期コストに関してもマシンを海外の事業者から直接仕入れることで、代理店経由で購入する場合と比べて安く抑えている。こうした構造のため、コンビニサイズやコインランドリーサイズの小規模型の店舗でも運営できるだけでなく、従来であれば既存の事業者が出店の難しかったエリアでサービスを展開できる可能性もある。

LifeCoachとしてもまずは年内にフランチャイズモデルで10〜20店舗の新規出店を計画しており、「6年で1000店舗」を目標に掲げているという。

利用者向けのアプリのイメージ
利用者向けのアプリのイメージ

利用者の8割は「ジム初心者や挫折者」

1号店のオープンから約半年。累計で数千人の利用者のうち、約8割は「そもそもジムを初めて利用する人や、過去に継続できなくてジムの利用をやめてしまっていた人」。残りの2割ほどが他のジムからの乗り換えだ。

加藤氏によると現時点では価格の面が大きい。普段からジムをセルフで使っているので、無人でもいいから少しでも安く使いたいというユーザーはLifeFitとの相性がいい。また1回500円で都度利用できることから、「月に1〜2回しか行かないのに数千円払い続けるのはもったいなくてジムをやめてしまった」ユーザーでも使いやすいという。

実際に1号店では定額プランと都度利用のユーザーが半分ずつほど。「あえてサブスクだけにしないことで、月に数回しかジムに行かない人にも使ってもらえます。そのため本当に二度と来なくなるという人は今のところほとんどいません」と加藤氏は説明する。

都度利用の場合でも手続きは「飲食店の券売機でチケットを買うようなイメージ」でアプリから30秒程度で完了するため、利用のたびに面倒な手続きが必要になるわけではなく、使いやすいのもポイントだ。

「今後フィットネスジムは、有人で質の高いサービスを提供する施設と、完全無人型で気軽に使える施設の2つの方向性に進んでいくと考えています。自分たちとしては後者をしっかりと狙っていきたい。日本でも24時間型のジムが増えてきていますが、アメリカなどと比べるとまだまだ(ジムの)供給量が少ないです。ここを増やしていくことで、人々の生活を豊かにしていくことができればと考えています」(加藤氏)

1.2億円を調達、ジム内のDXに向けた開発強化へ

LifeCoachでは8月24日にXTech Ventures、THE SEED、W ventures、小泉文明氏、佐渡島隆平氏を引受先とした第三者割当増資により1.2億円を調達した。この資金を活用しながらプロダクトの開発や新店舗の出店を加速していく計画だ。

現時点では改善点もまだまだ多い。マシンのメンテナンスの頻度を始めとした運営体制に加えて、マシンの正しい利用方法の伝え方などユーザーのオンボーディング(定着)に関する取り組みなどは今後強化していきたい部分だという。

また今後は「ジム内のDX」に関する取り組みも進めていく方針。デジタル端末やクラウドカメラなどのテクノロジーも活用しながら、安全面の強化も含めてジム内での利用者体験の向上を目指す。

「(リアルなジムをフランチャイズモデルで広げていく)現在の事業は一見スタートアップらしくないと思われるかもしれません。ただ自分たちとしてはITの会社がフィットネスプロダクトを作っているという感覚でやっています。フィットネスジムの会社がIT化を進めていくのではなく、フィットネス業界に特化したITの会社として事業を進めていくことで、レガシーな産業を変革していきたいです」(加藤氏)