PharmaX代表取締役の辻裕介氏
PharmaX代表取締役の辻裕介氏

薬局のDXが進んでいる。“ロボット調剤”のように調剤業務を始めとした「対物業務」をテクノロジーで効率化する動きに加えて、オンライン服薬指導サービスや電子薬歴サービスなど薬剤師の「対人業務」を支援する取り組みも広がってきている。

このような市場の変化はスタートアップにとって大きなビジネスチャンスになりうる。たとえば過去に紹介したカケハシは薬局向けのクラウド型電子薬歴システム「Musubi(ムスビ)」を軸に事業を急速に拡大しているスタートアップの1社だ。

カケハシの場合は既存の薬局にシステムを提供することで課題解決をサポートしているが、2018年創業のPharmaX(9月にYOJO Technologiesから社名変更)では異なるアプローチから薬局のDXに取り組んでいる。同社の事業は自ら“ITを活用したオンライン薬局”を立ち上げ、ユーザーにサービスを提供していくというものだ。

PharmaXが展開するオンライン薬局「YOJO」は、LINEのチャットで薬剤師に相談しながら自身の症状や体質に合った市販薬を購入できるサービスとしてスタートした。

ユーザーがLINE上で15問前後の質問に答えると、その結果を基に最適な漢方薬などが提案される仕組み。LINEのチャットを活用して無料で薬剤師に相談でき、実際に商品を購入した場合に代金が発生する。いわゆる“サブスク”型のサービスで、YOJOが東京・四谷に構える薬局から30日分の商品が届く。

LINE上のサービスの画面イメージ

主なユーザーは倦怠感や疲労感、むくみ、冷え性といった不定愁訴を抱える女性で、全体の9割以上を占める。5月にはLINE公式アカウントの登録者数が20万人を突破した。

「体調不良を抱えていて日々検索エンジンなどで情報を探しているものの、正確ではないものも多い。YOJOにおいてはいつでも気軽に薬剤師に相談できるという安心感が価値を感じてもらえているポイントで、その信頼関係があるからこそ、漢方を始めとするいろいろなものを購入いただけています」(PharmaX代表取締役の辻裕介氏)。

シンプルなLINEアプリに見えるが、PharmaXでは薬剤師が使うCRMツール(顧客管理ツール)を自社で開発。限られた人員でも効率よくユーザーのフォローができるシステムを用意しているほか、パーソナライズエンジンや自動問診の仕組みなど、ITを活用した提案の質の向上やオペレーションの効率化にも取り組む。

また四谷の店舗に出勤する薬剤師と、リモート勤務する薬剤師の分業体制を導入している点も特徴の1つ。リモート薬剤師がチャットの下書き部分を作成し、店舗の薬剤師がその内容を確認した上でユーザーに返答する独自の体制を整えた。

このようにオンライン薬局を展開する上で培ってきたオペレーションシステム(薬局OS)がPharmaXの強みだ。2021年2月には保険薬局の指定を受け、オンライン服薬指導による処方薬領域にも参入した。

同社のサービスでは医療機関に受診後スマホで薬剤師と服薬指導を実施し、都内の一部エリアであれば最短で当日に自宅まで薬が届く。従来のサービスと同様、LINEで気軽に薬剤師に相談もできる。

薬局からのオンライン服薬指導のイメージ
薬局からのオンライン服薬指導のイメージ

「私たちはソフトウェアの開発だけでなく、四谷に自社の薬局を構え、実際に薬剤師も雇用しながらオペレーションを含めた全体のプロダクトを設計し、医療体験そのものを変えていくようなアプローチで事業に取り組んできました。まずは自社薬局で(裏側のオペレーションも含めた)基盤を構築し、将来的には『イネーブラー』として自分たちが培ってきた仕組みをパートナー企業にも提供していきたいと考えています」(辻氏)

PharmaXではさらなる事業拡大に向けてKDDI Open Innovation Fund 3号、ANRI、グロービス・キャピタル・パートナーズから約5億円の資金調達を実施した。KDDIとは健康管理アプリの「auウェルネス」と薬局OSの連携など、業務提携も検討していくという。

薬局関連領域では2021年10月にオンライン薬局を手掛けるミナカラをNTTドコモとメドレーが買収。2022年9月にはAmazonが日本で処方薬のオンライン販売事業への参入を検討しているという報道が注目を集めた。

近年はオンライン診療やオンライン服薬指導を始め、今後施行が予定されている薬剤師の在宅勤務(リモート薬剤師)や電子処方箋など規制緩和が進む。薬局のDXやオンライン薬局に取り組む企業にとっては、事業の機会がさらに広がっていきそうだ。

薬局関連の法規制の変化