
- 新型コロナの影響で急増する植物肉の需要
- 6.5億円の資金調達で生産体制・研究開発を強化
- タンパク質危機を解決するのは植物肉
新型コロナの影響により、米国では食肉加工施設の閉鎖が相次いでいる。食肉が品薄で価格が高騰しているなか、植物肉の需要は急増。5月18日に6.5億円の資金調達を発表した日本の植物肉スタートアップ・DAIZは、コロナが引き金となり植物肉の注目度は更に高まると見ている。(ダイヤモンド編集部 菊池大介)
新型コロナの影響で急増する植物肉の需要
従業員の新型コロナ感染により食肉加工施設の閉鎖が相次いでいる米国。そんななかで需要が急速に高まっているのが、植物性たんぱく質を肉状に加工した「植物肉」だ。
米国の調査会社ニールセンによると、5月2日までの週において、米国での植物肉を含む精肉の代替食品の売り上げは前年比で約228%増。同国では植物肉を開発し販売するスタートアップは続々と資金調達や商品展開を発表している。
インポッシブル・フーズ(Impossible Foods)は3月にクローズした投資ラウンドで5億ドル(約536億円)を調達したほか、5月には米食品スーパー最大手・クローガー(Kroger)傘下の約1700店舗で植物肉の販売を開始することを明かした。同じく植物肉ブランドを持つリブカインドリー(LIVEKINDLY)は3月に2億ドル(約215億円)の資金調達を発表した。
ニチレイフーズも出資している日本発の植物肉スタートアップ・DAIZで代表取締役社長を務める井出剛氏は、「コロナ禍で、(植物肉)の注目度は高まっている」と話す。
DAIZは特許取得の独自技術を使用し、従来製品にあった風味・食感の違和感を克服した、発芽大豆由来の植物肉を開発している熊本の企業だ。

「(米国では)ロックダウンにより食肉加工メーカーが操業停止となり、食肉が品薄となり価格高騰、販売制限もされる事態となった。代用肉として、植物肉製品のニーズが高まった。食肉危機に際してもタンパク質の安定供給が可能となり、品薄感に悩む小売チェーンにおいて評価が高まったと考えられる」(井出氏)
だが、食肉加工メーカー同様に、植物肉スタートアップもコロナによる影響を受けるのではないか。井出氏は「食肉の生産工程(肥育・解体・冷却・成形・計量)は長く複雑で労働集約的であるため、コロナ禍でサプライチェーンが寸断されてしまった。結果、食肉が品薄・価格高騰した。 一方、植物肉は、サプライチェーン寸断に影響を受けず、シンプルかつ短時間で加工が可能なことから、食肉工場に比べて影響を受けにくい。植物肉原料サプライヤーであるDAIZの場合、オペレーターが出社できないと稼働できないが、危機が明けると操業再開はしやすいと考えている」と説明する。
6.5億円の資金調達で生産体制・研究開発を強化
世界で見れば植物肉スタートアップとしては後発なDAIZだが、植物肉原料のサプライヤーとして海外のプレイヤーたちと協業関係になることを目指している。世界をターゲットにしたビジネス展開を視野に、同社は5月18日、生産体制の拡大と研究開発の強化を目的とした6.5億円の資金調達を発表した。
引受先は農林漁業成長産業化支援機構(A-FIVE)、三菱UFJキャピタル、岡三キャピタルパートナーズ、ニチレイフーズ、そしてDAIZの関連会社・果実堂だ。このシリーズAラウンドでの資金調達により、同社の累計調達額は12億円となった。
「DAIZは価格競争力のある植物肉を大規模・迅速に供給することで世界の痛みを少しでも緩和することに努めたい。このコロナ禍で、ますます社会性の高い事業であることを実感した」(井出氏)
1月に資本業務提携を発表したニチレイフーズとは商品開発を引き続き進めるが、製品として市場に出回るまでにはまだ時間がかかる見込みだ。それとは別に、「コロナ禍の影響を見極める必要もあるが」(井出氏)、ハンバーガーチェーンと組み、まもなく試験販売を開始する予定だ。そしてAIを活用し「牛肉・豚肉・鶏肉を再現した植物肉の製造」が可能となる技術の開発を急ぐ。
DAIZでは生産工場も増設しており、2020年中には年間3000トンの生産キャパシティを目指す。2021年に熊本県内には国内最大級の植物肉工場の建設を計画しているため、2020年内にシリーズBラウンドの資金調達を実施する計画だ。
タンパク質危機を解決するのは植物肉
2030年にはタンパク質の需要に供給が追い付かなくなる「タンパク質危機」が起こり、これまで以上に食肉価格のが高騰すると予想されている。コロナの感染拡大により、代替タンパク質としての植物肉への注目は今後も高まりそうだ。
「コロナ禍において、各国が自国防衛の観点から食糧輸出の停滞を招き、持てる国と持たざる国との間で格差が拡大した。それにより、タンパク質危機の時計の針が進んだと思う。だが、植物肉はその格差を解消するための有力な手段と考えている。植物肉の原料である大豆は、世界的に栽培されており、調達しやすい資源であるため、今後は格差なく、植物肉が人々のタンパク質危機を解決すると確信している」(井出氏)