
- 想定よりも紙のビジネスのレベルが高かった
- 最新のデジタルテクノロジーとDMを連携
- デジタルとの組み合わせでは、紙の相性がいい
- DMは単価が高いがスケールさせやすい
デジタル領域を出自としながら、DMなどリアルな手法をデジタルと組み合わせることで成果を出し、昨年は全日本DM大賞のグランプリを受賞したディノス・セシールでCECOを務める石川森生氏。第1回、第2回に続き、第3回ではカタログを強みにする通販会社ディノス・セシールに飛び込んで考えたこと、そして現在の挑戦について迫りました。(編集注:本記事は2020年4月21日にAgenda noteで掲載された記事の転載です。登場人物の肩書きや紹介するサービスの情報は当時の内容となります)
想定よりも紙のビジネスのレベルが高かった
徳力 デジタルに価値を生み出すという目的で、ディノス・セシールに入社されたわけですが、実際に入ってみて、どうでしたか。
石川 入社前は無駄なコストがたくさんあるはずだから、その無駄を削れば、新しい実験をするための予算が捻出できるだろうと思っていました。流通額が1100億円だったので、その1%を削れば10億円だなと。
でも、入社してすぐ、紙はコストがかかるため、セグメントをとにかく細かく切り分けて精度の高いターゲティングを行うなど、Webよりもずっとレベルが高いということに気づきました(笑)。
徳力 それで、どうされたんですか。
石川 まずは新しいことをやる前に成果を出す必要が出てきたので、EC本部という組織を新設して部長職を兼務しました。もともとはファッション事業部、家具事業部などの各事業部にそれぞれWeb担当者が在籍していたのですが、その人たちを一カ所にまとめたんです。
そしてECサイトの運用方法を確立し、私が先ほどからあまり価値がないと言っているものを取り入れ始めるわけです。

徳力 まずはECを基礎からやり直すと。
石川 そうです。例えば、メルマガを各部署でバラバラに打っていたのをひとつに束ねました。社内からは、めちゃくちゃ反対されましたけどね。他にも、ドメインパワーを生かすためにSEO用のストックコンテンツを大量生成できるスキームを準備しました。
徳力 でも、石川さんからすれば、成果は絶対に出るだろうと思っていた。
石川 はい、実際に成果が出ましたね。当時のディノス・セシール は、紙の方法をそのままECサイトに持ってきていたので、たとえば100万通送れるメルマガを究極的には1000通にまで絞ってターゲティングして送っていました。それらをまとめて見直して、数字で検証していきました。SEOに関しても、毎日相当の自然検索トラフィックを稼いでくれるページができあがっています。
最新のデジタルテクノロジーとDMを連携
徳力 昨年、行われた第33回全日本DM大賞では、石川さんが手掛けたディノス・セシールでのデジタルテクノロジーとDMを連携させた施策が評価されて、グランプリを受賞しました。
これはECの基礎の見直しで社内の信頼関係を築き、デジタル側に予算を取ってもらえるようにしたうえで、取り組まれたことだったのですね。
石川 そうです。ECの事業部は私がいなくても回るように組織ができあがったので、私はより未来への投資的な案件に着手できるような立場にしてもらってから、ようやく実験がスタートできました。
あの施策は、カタログのいいところだけを残して、ダメなところをデジタルテクノロジーで潰していくという発想なんです。いいところは、クリエイティブをきちんとつくり込むことや、リーチ確率が圧倒的であること、レスポンスがとにかく高いことなどです。
徳力 グランプリは「カート落ちDM」と「小冊子DM」の2作品で受賞していますが、どっちがメインだったんですか。
石川 カート落ちDMは、技術的なスキームの検証という位置付けです。カート落ちしたところに通常であればメールを送るところを、代わりにハガキを送るという施策。ハガキにカート落ちした商品を印刷して24時間以内に送るので、ECの中でトリガー発生から顧客に接触するまでのリードタイムが最も短いシナリオなんですよ。
徳力 難しいことから先にやったということですね。私は全日本DM大賞の最終審査員を務めているのですが、あれを見たときは本当にびっくりしました。
でも、冷静に考えてみると、たしかに閲覧されるか分からないメールよりも、ハガキの方が絶対に手に取って見られやすい。それは、実際に結果にも出ていました。では、メインシナリオの方は、小冊子DMですね。

石川 はい、小冊子DMでは、もっと本質的なCRMを実施したいと思っていました。ECに限らず通販全体がそうですが、みんなコンバージョンの手前まではすごく丁寧に接客するのに、購入した瞬間に手放してしまう。
「ロイヤリティマーケティングが大事だ」と言いながら、ロイヤリティを自分たちで全然温めていないんですよね。本質的なロイヤリティの醸成をしていないから、さっきも言ったようにECがコンバージョンの手前でしか利用されないのだというのが、僕の仮説です。
発想としては、量販店と戦う“街の電気屋さん”と一緒です。アフターフォローをきちんとするから、値引きをしなくても売ることができる。顧客はそちらの方がトータルのコストが安いと思えば買うし、高いと思えば量販店で買います。
そこで小冊子DMでは、購入した商品に似たアイテムを着こなしている写真をInstagramから抽出し、顧客ごとパーソナライズした小冊子として発送しました。
デジタルとの組み合わせでは、紙の相性がいい
徳力 おそらく通常のデジタル企業なら、そういう取り組みでは当然デジタルの「メールを送る」という発想になると思うのですが、ディノス・セシールはそこにアナログであるDMを組み合わせるんですね。
石川 そうですね。私にとっては、デジタルは大してパワーを持っていないということが前提になっていますから(笑)。
徳力 従来のデジタル企業がそれをできないのは、買った人に対して郵便を送ること自体がコストにしか見えないからですかね。
石川 そうだと思います。
DMは単価が高いがスケールさせやすい
徳力 話を聞いていておもしろいと思ったのは、デジタルとアナログの組み合わせというと、どうしても店舗や対面が真っ先に浮かんでしまうのですが、一番コストがかかるから意外にスケールしないんですよね。
一方でDMは、実はコストがデジタルに近く、1通の単価は高いけれどスケールさせやすい。だから、アナログとデジタルを組み合わせるのであれば、紙が最も相性がいいのかもしれませんね。
石川 はい、実際にいいんですよ。これは入社してから分かったことですが、店舗というメディアはプッシュには弱いんです。
徳力 なるほど、たしかにそうですよね。DMであれば、自宅などに直接アプローチできます。次に石川さんは、どんな検証をしたいと考えられているんですか。
石川 やはり、本丸であるカタログの検証に早く行きたいですね。今までの施策はすべてデジタル印刷で行なっていますが、このやり方が正解ではない気がしています。7~8割を従来通りのオフセット印刷にして、残りをデジタルでパーソナライズ化するのが正解なのではと考えています。
徳力 コストを鑑みながらどう実現していくかを描くのが、石川さんの腕の見せ所ですね。これからの挑戦を楽しみにしています。