goooods代表取締役CEOの菅野圭介氏
goooods代表取締役CEOの菅野圭介氏。同社ではスモールブランドのBtoB取引を支援するコマースサービスを運営している
  • スモールビジネスを取り巻くBtoB取引の課題
  • データとテクノロジーで小規模ブランドのBtoB取引を後押し
  • 海外ではデカコーンも誕生、年内に500ブランドの参加目指す

ShopifyやBASE、STORESといったサービスが広がったことで、情熱を持った個人が自らブランドを立ち上げ、オンライン上で気軽に商品を販売できる土台が整った。

同じような流れはテクノロジーやデータの活用が十分に進んでいなかった「BtoBコマース(卸売)」の領域においても加速し、個人が簡単に卸売に挑戦できるような時代が来る──。2021年創業のgoooods(グッズ)ではそのような考えから、新しい切り口のBtoBコマースサイトを開発している。

goooodsの代表取締役CEO・菅野圭介氏はGoogleを経て、2014年にスマートフォンアプリ向けの動画広告プラットフォームを運営するファイブを立ち上げた起業家だ。

ファイブは設立から約3年後の2017年12月、約70億円でLINEに買収された。菅野氏はその後も2021年まで会社に残り、事業の拡大に貢献。一定の成長を遂げたタイミングで新たな挑戦をするべく、ファイブの共同創業者でもある松本大介氏らと4人でgoooodsを設立した。

冒頭でも触れた通り、goooodsが挑むのは「BtoB取引の変革」だ。この領域で具体的にどのようなサービスを展開していくのか。菅野氏に聞いた。

スモールビジネスを取り巻くBtoB取引の課題

なぜ次の挑戦の場としてBtoBコマースに着目したのか。菅野氏によると家族の運営していたブランドが1つのきっかけになったという。

「実は私の妻がShopifyを使ってハーブティーのブランドを運営しているのですが、その在庫が自宅の子ども部屋を圧迫しているような状態でした。妻のような個人に近い人たちがECのプラットフォームによってエンパワーされたことは、ここ数年のテクノロジーの浸透の事例としてもすごく良いことだと思っています。その反面、小売だけでは生産した商品を捌ききれなかったり、在庫の扱いに苦労したりするといった課題もあると感じていました」

「その年に妻のブランドでは、たまたまヨガチェーンスタジオから問い合わせがきて、1回の発注で元々の年商分くらいの注文をいただいたんですね。ただ本人にとっては初めての卸売ということもあり、価格設定や手続きなどを進めながら、数カ月かけてなんとか納品までたどりつけました。この場合は1対1の相対取引でしたが、N対Nの取引になったらどうなるのだろうか。そこにおける課題はあまり解決されていないのではないかと考えたことも、goooodsを立ち上げる1つの理由になりました」(菅野氏)

当時の菅野氏の自宅の子ども部屋の様子。ダンボールが10箱以上になることもあったという
当時の菅野氏の自宅の子ども部屋の様子。ダンボールが10箱以上になることもあったという

現在Shopifyを活用する事業者(マーチャント)は170万を超えており、BASEでも約180万のショップが開設されるほどの規模になってきている。新しいブランドが生まれ市場が広がっている一方で、特に小規模なブランドに関しては営業リソースやネットワーク、マーケティングノウハウの不足などによって「卸売先の開拓ができずに販売チャネルの拡大に悩む人たちも増えている」というのが菅野氏の見立てだ。

これまで卸売先の開拓手段としてはオフラインの展示会へ出展したり、卸問屋など中間流通事業者へ開拓を依頼したりするのが主流だった。ただそこには「デジタル化の壁」と「信用の壁」が存在していると菅野氏は話す。

商談から納品までのプロセスがデジタル化されておらず、データも構造化されていないため効率化が図りづらい。取引の実績がない場合は保守的な条件などによって信用を補完するしかなく、個人や小規模のブランドにとってはハードルが高かった。

goooodsの狙いはここに機械学習技術などをはじめとしたテクノロジーを持ち込むことで、新しいBtoBコマースの体験を構築することだ。

「マシンラーニングなどの技術は広告やBtoCのコマースでは一般的な技術になりつつありますが、BtoBの取引の領域にはまだあまり浸透していないと考えています。この技術を持って、新しい世代のコマースプラットフォームを作っていくというのが私たちがやろうとしていることです」(菅野氏)

データとテクノロジーで小規模ブランドのBtoB取引を後押し

「goooods」のイメージ
2022年4月にベータ版をローンチした「goooods」

goooodsが2022年4月にベータ版をローンチした「goooods」は、小規模なブランドにとって障壁となっていた取引先の発見や与信管理などを一括でサポートすることを目指したコマースサービスだ。

ブランドを運営する事業者はShopifyやBASEのような感覚で卸売用のECサイトを立ち上げ、goooods上で受発注ができる。このサイトが新しいバイヤーとの出会いの場となる“オンライン上の展示会”の役割も兼ねるわけだ。

単にサイトを開設するだけでなく、“簡単にブランドの世界観を表現する”ためにデザインをアシストする機能などを実装。管理画面にブランドを象徴するロゴ画像や商品画像をアップロードすると代表的な色(キーカラー)を抽出し、背景やボタン、タグなどの色を自動的に設定する機能を取り入れた。

プライマリーカラーの自動抽出・設定機能のイメージ
キーカラーの自動抽出・設定機能のイメージ

初めて取引をする際にブランドとバイヤー双方の課題になりやすい“与信”については、goooodsが「初回取引分の返品リスク」を負うことで信用を補完する。

バイヤーは初めて仕入れるブランドの商品は30日間返品することが可能で、返品在庫はgoooodsが引き取る仕組み。「売れ残ったらどうしよう」というバイヤー側の不安をなくし、新規の取引を促進する狙いだ。

サービス上に蓄積される取引データは、検索エンジンやレコメンドエンジンを通じたマッチングの最適化のほか、需給予測や返品率予測、未払い率予測などへの活用を見込む。特に返品率予測や未払い率予測を通じて「取引に関する信用のモデリング」が可能になれば、従来の商慣習を変えられると菅野氏は話す。

「たとえばネットショップを運営する個人事業主は、ブランドとの接点も少なく、仕入れ時には取引条件として『前払い・買取り(在庫リスク有り)』を要求されることが多いです。これを『後払い・返品可能』とすると、世の中の多くのユーザーがよりカジュアルに『自分も好きなプロダクトやブランドを販売できる』と考え、商売に挑戦しやすくなる。goooodsを通じて新世代のブランドと、こうした新しいタイプのバイヤー像を広げていきたいと考えています」(菅野氏)

海外ではデカコーンも誕生、年内に500ブランドの参加目指す

4月から招待制のベータ版としてサービスの運営を始めてから約半年。現在はD2Cブランドやエシカルブランドを始め約150ブランドがgoooods上に参加している。

9月28日からは招待制を撤廃し、審査を経た上でブランドが自由に出品できるようなかたちで運営する方針。年内には500ブランドの参加を目指す。

バイヤー側に関しては蔦屋書店や銀座ロフトなどで導入が進んでおり「goooodsを通じてはじめての取引を実施できたブランドが40社程度存在している」(菅野氏)という。都市部の大手小売店以外にも地方のセレクトショップやエステサロン、フィットネスジムなど多様な店舗でgoooodsの活用が始まっているそうだ。

現在は約150ブランドが参加。goooodsは商品の売買が成立した際にブランドから卸売価格の10%の手数料を受け取る
現在は約150ブランドが参加。goooodsは商品の売買が成立した際にブランドから卸売価格の10%の手数料を受け取る

海外では評価額が120億ドルを超えるFaireのような巨大なプレーヤーが生まれつつあるが、日本を含むアジアではまだ勝者がいない。日本ではgoooodsの他にもorosyなどこの領域で事業を展開するスタートアップが複数立ち上がってきている状況だ。

goooodsとしては組織体制を強化しながらデータの蓄積やテクノロジーの活用に取り組み、事業を拡大していく計画。そのための資金としてXTech Ventures、Incubate Fund US、Vela Partnersなどより日本円で5.4億円(為替レートは7月26日時点)を調達した。

「goooodsでは『Everyone, entrepreneur』というミッションを掲げています。情熱を持って自身のブランドを立ち上げているブランドオーナーは、アントレプレナーシップを持っている人たちです。そのような人が挑戦しやすい基盤をテクノロジーで実現していくことが、goooodsの役割だと考えています」(菅野氏)