
- 一般社団法人 AI・契約レビューテクノロジー協会設立、リーガルテック4社が中心に
- グレーゾーン解消制度の利用方法、いぶかしげる声も
- その他のスタートアップニュース
人工知能(AI)を用いて契約書のチェック業務を支援する、いわゆるAI契約書審査サービス。このサービスを提供する複数のスタートアップが業界団体を立ち上げた。
6月には経済産業省(経産省)のグレーゾーン解消制度において「違法の可能性がある」という見解が示されており、動向に注目が集まっていたが、今後事業者らは団体を通じた認知・信頼性向上や関係者へのロビイングを進めるという。
10/1〜10/7の「スタートアップ最新動向-Weekly SIGNAL」では、AI契約書審査サービスや業界の動き、さらには直近話題となったスタートアップの資金調達を取り上げる。
一般社団法人 AI・契約レビューテクノロジー協会設立、リーガルテック4社が中心に
桃尾・松尾・難波法律事務所のパートナー弁護士である松尾剛行氏と、AI契約書レビューサービスを手がけるリーガルテック領域スタートアップのリセ、GVA TECH、MNTSQ、LegalForceの4社が一般社団法人「AI・契約レビューテクノロジー協会(ACORTA(アコルタ):AI and Contract Review Technology Association)」を設立した。協会の代表理事は松尾氏。理事には前検事総長で森・濱田松本法律事務所の客員弁護士である林真琴氏のほか、4社の代表(リセの藤田美樹氏、GVA TECHの山本俊氏、MNTSQの板谷隆平氏、LegalForce角田望氏。いずれも代表であり、弁護士)が就く。
ACORTAは10月3日に会見を開催。今後は協会を通じてAI契約書レビューに関する認知や信頼性の向上、法制度を含めた環境整備、サービスの普及に向けた制度の研究や啓蒙などを進めるとした。
このタイミングでの団体設立の背景にあるのは、6月にあった経産省のグレーゾーン解消制度での見解だ。グレーゾーン解消制度とは、新事業をはじめたい企業などが、その事業が現行の規制の適用を受けるかどうかあらかじめ確認できる制度のこと。新産業領域に取り組むスタートアップにとってもなじみ深い制度だ。
6月に出された見解というのは、匿名の企業(編集注:グレーゾーン解消制度は基本的に照会企業を明示しない)がAI契約書レビュー事業への参入を検討するために照会を実施。その結果「違法の可能性がある」という見解が出されたというものだ。弁護士法72条では弁護士以外が法律事務を扱うことを禁じる、いわゆる「非弁」に言及しているが、そこへ抵触する懸念があるという判断だった。
松尾氏は会見において、6月にあった照会が、あくまで協会メンバーとは無関係の別個のサービスに関する評価であることや、グレーゾーン解消制度での見解が誤解を招く内容だったのではないかと指摘。照会は「弁護士のようなレビューをしたら、弁護士法の問題になりますか」と問い合わせたようなものではないかと説く。また現行のAI契約書レビューサービスは、法的な意味に基づいて照合をする「鑑定」にまではなっておらず、法律業務ではないとしている。
グレーゾーン解消制度の利用方法、いぶかしげる声も
また本件をスタートアップの観点で見たとき、注目すべきは「グレーゾーン解消制度」がどういう制度であるかという点だろう。グレーゾーン解消制度は多くのケースにおいて、その事業を行うために「適法である」という“お墨付き”をもらうために照会することがほとんどだ。また、正式な照会の前に担当者レベルで事前回答が伝えられるため、「新事業が適法ではない」という見解が出る前に照会自体を取り下げる企業も少なくない。
そのためスタートアップに詳しい匿名の弁護士からは、「(AI契約書レビューサービスを)あえて『違法である』という見解を求めて照会したのではないか」といぶかしげる声もあがる。もちろん、直近でもグレーゾーン解消制度で「違法」と判断されたケースは複数ある。例えば2021年8月には、「民泊のサブスクリプションサービス」の適法性を照会した企業に対して、厚生労働省が「旅館業法に抵触する事業になり得る」とした回答を出している。
なお、今回ACORTAを立ち上げたスタートアップ4社以外では、法律ポータルサイトや電子契約サービスを手がける弁護士ドットコムがAI契約書レビュー事業への参入を表明している。日本経済新聞が報じたところによると、9月にはグレーゾーン解消制度の照会も実施済みだという。ACORTAでも設立時に弁護士ドットコムにも参加を呼びかけたとのことだったが、現時点で同社は参加していない。
その他のスタートアップニュース
エナジーグリッド、プライベート・デットで12億円の資金調達を実施
電力卸売業を手がけるエナジーグリッドは10月3日、ファンドなど銀行以外の主体が企業へ直接融資する「プライベート・デット(PD)」により9月に12億円の資金調達を実施していたことを発表した。今回の資金調達は、2022年3月に実施したPDでの18億円の資金調達に続くものだという。
ピクシーダストテクノロジーズ、総額約21.7億円の資金調達を実施
超音波ヘアケアデバイス「SonoRepro」や吸音メタマテリアル「iwasemi」を開発するピクシーダストテクノロジーズは10月3日、IF Growth Opportunity Fund I、
東北大学ベンチャーパートナーズ、塩野義製薬、鈴与、乃村工藝社、Axiom Asia Private Capitalを引受先とした第三者割当増資により、シリーズCラウンドで総額約21.7億円の資金調達を実施したことを発表した。
Ashirase、合計3億円の資金調達を実施
視覚障がい者向けの靴挿入型ウェアラブル歩行ナビを開発するAshiraseは10月5日、リアルテックファンドとQBキャピタルの2社をリード投資家とし、本田技研工業、アシックス・ベンチャーズ、ゼネラルアサヒ、レオス・キャピタルパートナーズを引受先とした第三者割当増資により合計3億円の資金調達を実施したことを発表した。同社は本田技研工業の新事業創出プログラム「IGNITION」発の第1号スタートアップとして2021年4月に設立されたスタートアップだ。
Payn、総額9000万円の資金調達を実施
ホテルやレストランといった予約のキャンセル料の請求が発生する業態で、関連業務の自動化を支援するサービス「Payn(ペイン)」を提供するPaynは10月5日、サービスのベータ版をリリースするとともに、ジェネシア・ベンチャーズ、Gazelle Capitalを引受先とした第三者割当増資により総額9000万円の資金調達を実施したことを発表した。
Sake RD、1.2億円の資金調達を実施
中国市場向けに日本酒販売事業を展開するSake RD(サケ アールディー)は10月5日、クオンタムリープベンチャーズ、W fund(旧:W ventures)、Dawn Capitalを引受先とする第三者割当増資により、1.2億円の資金調達を実施したことを発表した。
Reelu、Tech Giraffeの発行済み株式の100%を取得し子会社化
プロフィールを動画で登録可能な新卒就活スマホアプリ「Reelu(リール)」を展開する展開するReeluは10月5日、LINEで専門家にチャット相談できるサービス「ハワユ」を展開するTech Giraffeの発行済み株式の100%を取得し、子会社化することを発表した。買収金額は非公表。
エナーバンク、2億円の資金調達を実施
再生可能エネルギーの調達プラットフォームを展開するエナーバンクは10月5日、Spiral Capitalをリード投資家とし、ジェネシア・ベンチャーズ、SMBCベンチャーキャピタルを引受先とした第三者割当増資により、2億円の資金調達を実施したことを発表した。
帝人、3Sunnyの発行済み株式の100%を取得し子会社化
マテリアル事業やヘルスケア事業などを展開する帝人は10月5日、医療機関向け業務支援SaaS「CAREBOOK(ケアブック)」を展開する3Sunnyの発行済み株式の100%を取得し、子会社化することを発表した。買収金額は非公表。
Ubie、27.6億円の追加調達を実施
医療機関向け「ユビーAI問診」と生活者向け症状検索エンジン「ユビー」などを展開するUbieは10月6日、総合メディカル、AAIC Investment、新生インパクト投資、楽天キャピタルを引受先とした第三者割当増資に加え、商工組合中央金庫、日本政策金融公庫、みずほ銀行の融資により27.6億円の追加調達を実施したことを発表した。同社は7月に35億円の資金調達を実施しており、今回の調達によって総額62.6億円でシリーズCラウンドをクローズしたという。
メタジェンセラピューティクス、総額1.4億円の資金調達を実施
腸内マイクロバイオームの研究に基づいた医療・創薬を推進するメタジェンセラピューティクスは10月6日、 2022年6月にファストトラックイニシアティブ、ジャフコ グループ、慶應イノベーション・イニシアティブを引受先とした第三者割当増資により、総額1.4億円の資金調達を実施していたことを発表した。
Octa Robotics、1億円の資金調達を実施
ロボット単体でのフロア間・エリア間移動を可能にするインターフェースサービス「LCI」を開発するOcta Roboticsは10月6日、ANRIを引受先とした第三者割当増資により1億円の資金調達を実施したことを発表した。
Parchie、総額約1.2億円の資金調達を実施
会員制通販サイト「Pantrii(パントリー)」を展開するParchieは10月6日、CyberAgent Capitalをリード投資家とし、Gazelle Capital、F Venturesおよび個人投資家を引受先とした第三者割当増資により総額約1.2億円の資金調達を実施したことを発表した。