
- 起業コミュニティもコロナ禍で オンライン化進むはず
- 原資もハンズオンも 1人で行える量には限りがある
- ツールや人脈を生かすために 起業家にもオンボーディングは大切
新型コロナ感染拡大で、投資家のスタートアップへの出資が慎重になる傾向もある。そんな環境下での起業家を支援するため、自らも起業家としてイグジット経験を持つ人物が、起業家向けの有料コミュニティ「StartPass」を正式に開始した。スタートアップの資金調達もコロナ禍で“オンライン化”が進むのか。サービスを提供するStartPoint代表取締役の小原聖誉氏に聞いた。(編集・ライター ムコハタワカコ)
起業コミュニティもコロナ禍で
オンライン化進むはず
新型コロナウイルス感染症の影響が、ただちにスタートアップへの投資環境を悪化させているとは言えないが、積極投資を行うと発言している投資家でも出資先の選定には慎重にならざるを得ないのは事実だろう。
そんなコロナ時代の起業家を支援するのが、StartPoint(スタートポイント)だ。同社は6月1日より、出資を本格的に受ける前の起業家を対象にしたオンライン起業プラットフォーム「StartPass(スタートパス)」の正式版を提供する。
StartPassのサービスは、起業Q&Aや知見を蓄積するコミュニティ「StartQounter(スタートカウンター)」、国内VCのキャピタリストらとSlackなどで定常的にやり取りができる「StartMaster(スタートマスター)」、Amazon Web Service(AWS)や会計クラウドなどのサービス特典が利用できる「StartPlugin(スタートプラグイン)」の3軸で構成される。対象となるのは、プレシード/シード期の起業家。費用は月額1万円(税別)だ。
コミュニティのStartQounterには、スタートアップの起業・売却経験を持つエンジェル投資家で、StartPoint代表取締役の小原聖誉氏らが参加。LINEやFacebookグループなどを活用して、VCからの調達ナレッジやピッチイベントへの参加の仕方、広報、法務などの実務といったQ&A、ノウハウの共有を行う。
投資家や専門家との日常的なつながりが持てるStartMasterには、グロービス・キャピタル・パートナーズ、D4V、KVP、サムライインキュベート、Full Commit Partners、Deep30、Reality Acceleratorといった国内VCのキャピタリストが参画。起業家は投資家とSlackでのやり取りが行える。また、審査制で上記キャピタリストとの投資面談や相談が行えるほか、ファイナンス・経営等の専門家への相談メニューもそろえられている。
スタートアップでよく使われるサービスを取りまとめ、特典として利用できるのがStartPluginだ。freeeやマネーフォワード、AWS、Wantedlyといったサービスが、期間限定、もしくは一定の金額分を無料で利用可能(各サービス事業者からの審査は必要)。各事業者からのサービス導入事例紹介や会員限定イベントなどの情報提供も受けられる。

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2019年末から先行してリリースされていたベータ版StartPassに参加している企業の中からは、VCからの資金調達を完了したスタートアップも登場した。農産物流通に特化したクラウドサービスを運営するkikitoriは5月1日、Coral Capitalから5000万円の資金調達を実施したことを明らかにしている。
小原氏は「今後StartPassでは正式版として、サービスを活用する起業家の成功支援を続けることで、成功する起業家がさらに現れるようなエコシステムの構築を図っていく」と語っている。また、今後、起業家プラットフォームにおいても、オンライン化のニーズがより高まるとして、小原氏は次のように述べている。
「これまでのリアルでのイベントが核となってきたスタートアップのコミュニティは、新型コロナウイルス感染症の影響もあって、オンライン化が進むはずだ。実際セミナーについては、オンラインで実施するウェビナーのほうが、参加者も運営側もやりやすいという感触がある。これまで資金調達環境をはじめ、東京に偏っていたスタートアップのコミュニティに、沖縄やシリコンバレーなど、物理的に遠い人も参加できるようになっていく」(小原氏)
今後、StartPassは、シリコンバレーのスタートアップアクセラレーターとして数多くの成功企業を生み出しているY Combinatorのオンライン版のような存在を目指すと小原氏は述べ、「日本のプレシード/シード期の起業家にしっかり伴走するためのサービスを提供していく」と語る。
原資もハンズオンも
1人で行える量には限りがある
小原氏は、これまでにもエンジェル投資を通じて、投資先にハンズオン(起業家に伴走して深く経営に関わる形式)で起業家を支援するほか、起業家向けオンラインコミュニティの運営なども行ってきた。起業家支援に取り組む理由を小原氏に尋ねると「自分が起業したときには、徒手空拳でスタートアップを立ち上げた。その経験を起業家に伝えたい」との答えが返ってきた。
また小原氏は「リスクを自分で取り、他責にせず、常に前向きで文句も言わずに働いて価値をつくっていく人が、この世の中には必要だと考えている。構造的に、そういう起業家がうまくいってほしいと思っている」とも語っている。
小原氏が、スマートフォンゲーム向けメディア「ゲームギフト」を運営するAppBroadCastを立ち上げたのは2013年1月のことだ。AppBroadCastは、2014年にはKDDIとグローバル・ブレインが手がける「KDDI Open Innovation Fund」などを引受先とした資金調達を実施し、KDDIとの業務提携も締結。2016年4月には、株式をKDDIグループ傘下のmedibaへ売却し、連結子会社化した。

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小原氏はその後、3年ほどエンジェル投資を実施してきている。「エンジェル投資のいいところは、起業家としての体験を共有してもらえること、別の起業家の人生を一緒に歩めることだ」と小原氏は言う。一方で「エンジェル投資では多くの起業家と深く付き合うことができない」とも述べている。
「多くの起業家に出資するには原資がなければならない、ということもあるが、ハンズオンについても1人で行える量には限りがある」(小原氏)
「キャピタルゲインがなければ投資はしないが、それだけが目的で投資しているわけではない。より幅広く起業家の役に立てる方法はないかと、2年ほど前から考え始めた」という小原氏。そこで起業家のオンラインコミュニティ運営を始めてみたが、「コミュニティだけでなく、物理的に起業家の課題を解決するプラットフォームを提供したい」として構想したのが、今回のStartPassだという。
コミュニティ機能に加えて、起業のヒト・モノ・カネに関する課題を解決するサービスを提供する事業会社やVCにも参加してもらっているのは、このためだと小原氏は説明する。「(コミュニティ、ツール、投資家の)3つの価値を総合的にプラットフォームとして提供していければ、コミュニティオーナーが属人的に対応するというだけでなく、幅広く起業家の役に立てるのではないかと考えた」(小原氏)
ツールや人脈を生かすために
起業家にもオンボーディングは大切
「スタートアップに役立つサービスは、AWSや会計クラウドなどさまざまなものがあり、キャピタリストも数多くいるが、こうしたツールや人脈をどのタイミングでどう使い、アクションを起こしていくかが難しい。起業家にもオンボーディング(環境に慣れるためのサポートのこと)は大切だ」と小原氏は語る。
「ベンチャーキャピタルなどが主催する招待制イベントに参加すれば“スタートアップ村”のインサイダーとして、VCのコミュニティに参加できるようになり、先輩起業家からの情報共有を得て、起業家としてのリテラシーは上がっていく。だが、そこへ招待されるのにまず、シード出資されていなければ声がかからない」(小原氏)
StartPassでは、シードVCに投資してもらうことを参加する起業家の中間的なゴールとして設定している。スタートアップ村に起業家が入り、着実かつ急速に事業を拡大するためのツールとしては「起業家カルテ」を用意。それぞれの状況にフィットした形でキャピタリストやサービス、アクセラレータープログラムのサジェストを行う。
「StartPassにエントリーして成功体験をつくり、成功した起業家がほかの起業家から見たロールモデルになり、さらに集合知として情報がたまっていくエコシステムになれれば」と小原氏。「そのためにコストも十分にかけて運営を行っていく」と語る。
後の出資とキャピタルゲインを想定し、相談は無償で行うという投資家もいる中で、月1万円とはいえ有償でサービスを行う理由のひとつに、このコストもあると小原氏はいう。
「5000米ドル分のAWSクレジットや、120万円相当のWantedlyのプランなど、スタートアップの起業家なら使うであろうサービスのチケットが手に入る経済合理性もある。『体験したから後日利用しなければならない』という出口があるわけではなく、起業家のコンディションによってあるものを使えばいいというサービスをそろえている。無料でなくすることで、熱量の高い人たちだけを集めたいという意図もある」(小原氏)
また、エンジェル投資家としてこれまで無償で起業家からの相談を受けてきた経験から「継続的に高いクオリティでの相談を担保するためにも、プラットフォーマーとして継続してサービスを提供していくためにも、費用を負担してもらう形を取った」と小原氏は話している。
「米国でもアクセラレータープログラムに参加する起業家が費用を負担するという例もある。プチコンサルティングを月額5万円で提供する、といったものではなく、熱量が高ければ払える金額と考えて、価格設定は行った。良質なコミュニティとして、みんなで起業家として磨き合っていければ」(小原氏)